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ジョンさんの娘さんで私が最初に助けた女の子、カレンさん。彼女が無事で良かったけど、顔に痛々しい怪我が残されてた。
贔屓は良くないのは分かるけど、女の子の顔に傷痕が残ったら大変だ。だから、私は治癒魔法を使うことにした。
「暖かい……それに……痛くない……?」
治癒の光を当てられてるカレンさんが不思議そうな顔をしてる。よし、効果はあるみたいだね。
「包帯を外してみて。大丈夫だから」
「はい……えっ!?姉さん鏡貸して!」
「嘘でしょ!?」
「信じられん……!」
「まさに奇跡だな……!」
綺麗に治った怪我を見てカレンさん本人はもちろん、周りの異星人対策室の職員さん達も驚いてる。あっ、ヤバい……。
「ティナ!」
倒れそうになった私をジョンさんが慌てて抱き留めてくれた。
「あはは、ごめんなさい。ちょっと疲れちゃいました」
魔法を使うとマナと体力を消費するんだ。特に私はアード人の平均保有マナより少ないし、魔法も得意じゃない。
治癒魔法は消費するマナも多い。お母さんみたいに治癒魔法が得意な人はお医者様になるけど、それ以外の人にとって治癒魔法はあんまり使いたくないジャンルの魔法だ。だから医療シートがあるんだけどね。
私が使ったのは初歩の治癒魔法だけどマナと体力をごっそりと持っていかれた。
カレンさんの怪我は浅かったけど、そんな小さな怪我を癒すだけでも私は貧血みたいな症状が出た。いち早く気付いてくれたジョンさんに感謝だね。
「少し休もうじゃないか。失礼するよ」
「わっ……!」
ジョンさんはその逞し過ぎる腕で私をお姫様抱っこした。しかも翼を痛めないように配慮する紳士っ!
私の前世が男じゃなかったら落ちてたよ。うん。
そのままジョンさんは柔らかいソファーに私を横たえてくれた。翼を挟まないようにね。いや紳士だなぁ!
「ティナさん、大丈夫ですか……?」
いけない、カレンさんが心配そうにしてる。この娘に罪悪感を持たせちゃダメだ!
「ごめんごめん、昨日の疲れが出たみたいだよ。怪我はどうかな?」
「はい、綺麗になりました!何から何まで、本当にありがとうございます!」
「気にしないで、女の子の顔に傷残ったら大変だからね」
同じように救いを求める人はたくさん居ると思う。でも私は一人、皆を救えるなんて傲慢になるつもりはないし、出来ない。だからせめて、目の前の人だけでも……助けたい。
「それでも、私を治療したからティナさんは……」
「カレン……」
カレンさんは申し訳なさそうにしてる。お父さんに似て優しい娘だ。それなら……。
「じゃあ、お願いがあるんだけど……」
「はい!何ですか?」
私のお願いにカレンさん以外の人達が緊張するのが分かる。でも、変なお願いはしないよ?
「これも何かの縁、もし良かったら私とお友だちになってくれませんか?」
「えっ?」
「ティナ……!?」
「ダメ、かな?」
宇宙人だし、怖がらせちゃったかな?でも、私の心配は杞憂だった。だって、こんなにも綺麗な笑顔を浮かべてるんだから。
「はい!喜んで!」
この日、アード人のティナは初めて地球人の友達を得られた。
ジョンは早速ティナと談笑する愛娘を優しげに見つめ、そして今後降りかかる厄介事を想像して胃を痛めるのだった。
現地時間17時00分、アメリカ大統領による記者会見が行われるここオペラハウス星空座にはアメリカ国内はもちろん、各国のメディアが大勢詰めかけていた。
昨日起きたニューヨークでのビル火災、マンハッタンの奇跡と呼ばれる事件で目撃された天使の少女。
火災鎮火後彼女をアメリカ軍が保護してた事実と、アメリカ大統領による重大発表は全世界が注目し、各国メディアも特番を組んで生中継していた。
尚、極東の島国日本のあるテレビ局だけは何故か世情に逆らうように往年のアニメ特集を組み、別の意味で世間を賑やかせていた。
そして、18時00分。世紀の瞬間が訪れようとしていた。
「先ずは、この様な場所で会見を開く我々の不手際をお詫びしましょう。そして急な相談であるにも関わらず快くホールを貸し出してくれた星空座御一同に感謝を捧げます」
舞台に立ったハリソンが静かに語り始める。記者達は一言一句を逃すまいと集中し、カメラマン達もまたレンズを向ける。
「昨日ニューヨークで発生したビル火災は、その規模からは考えられない死者ゼロと言う奇跡のような結果で終わった。大勢の怪我人が発生したが、皆さん快方に向かわれているとの報告も受けています。マンハッタンの奇跡とまで呼ばれるこの事件で、皆さんが注目したのは突如として現れた天使の存在、違いますかな?」
ハリソンがホールを見渡し、報道陣の反応を見ながら言葉を続ける。
「神が遣わした使徒?残念ながら違う。我がアメリカの作った生物兵器?面白い仮説だが否定しよう」
再び反応を確認し、姿勢を正すハリソン。
「結論から申し上げよう。今から2ヶ月前、我が国。いや、我々地球人類はついに地球外の知的生命体との接触に成功しました!」
ハリソンが宣言した瞬間、場にどよめきが起きた。
「これは都市伝説ではない、フェイクニュースでもない。私、ハリソンが大統領の名に懸けて宣言させていただく。彼女は我々の住む天の川銀河の反対側、10万光年彼方から遥々地球へとやって来たのです。この時点で我々からすれば想像も出来ない技術力です!」
ざわめきが増える。ホールは喧騒に包まれていた。
「皆さんお静かに!この程度で驚かれては困ります。我が国は遥か彼方からの来訪者と秘密裏に接触することに成功し、昨日は来訪する予定の日だったのです。そして、皆様が天使と称する彼女は偶然ビル火災の現場に遭遇し、彼女自身の判断で人々を救うために尽力してくれたのです。報道を見る限り、私などより皆さんのほうがお詳しいでしょうから詳細は省きます。大切なのは、彼女は自身の意思で人々を救う手伝いをしてくれたことです。私は合衆国大統領として心からの感謝を捧げたい」
誰もがハリソンを食い入るように見つめていた。異星人の存在が公表され、更にマンハッタンの奇跡の立役者が異星人だと言うのだ。
「それでは、我々の新しい友人をご紹介しましょう!」
ハリソンが腕を大きく広げて宣言した。だが、数分経っても変化は現れず、ハリソン自身も焦りの色を浮かべたまさにその時。
「見ろ!」
一人の記者が天井を指差した。そして。
力強く翼を羽ばたかせ、光の粒子を撒きながらゆっくりとホールを旋回した天使の少女は、そのままハリソンの隣に降り立った。神々しい光景に誰もが息を呑む中、少女は翼を広げたまま優雅に一礼する。
「惑星アードから来ました、ティナです。地球の皆さん、初めまして!」
この日、人類は地球外生命体との本格的な関わりを持った。