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地獄の1丁目アゲイン……。
変態眼鏡……いや、スペンサーの言葉にますます周囲は熱を上げてしまい、俺とノエルは何かを言うこともできないまま、結局は生徒会室に行くことになっていた。ああいうときの熱というのは恐ろしいものだ。移動する途中でノエルが、
「リアきゅんを災難から守れないとは武士としての風上にもおけない行為……申し訳ない……‼」
と悔しそうに唇を噛んだ。これをおふざけでなく真剣な気持ちでやるのだから面白い。ノエルのせいでもなければ武士でもないんだから、気にしないでいいよ、と背を叩くとリアきゅんと目を輝かせた。ノエルの中ではいったいどういうポジになっているんだろうか……。
そんなこんなで生徒会室に到着すると、あのお茶会での構図が場所を変えて出来上がった。全員勢ぞろいである。
レジナルドは生徒会長が座る執務机に座っており、その前に立つ俺とノエルに笑顔を向けてきた。あ----ぶん殴ってやりたいその笑顔……。一般の生徒なら惚れ惚れとするシーンなのだろうが、俺はこいつらに興味がないし、ノエルもそういう意味では最推し以外はどうでもいいといった具合だ。
「やあ、ノエルにリアム。こうしてちゃんと話すのはお茶会ぶりかな?」
「はぁ……ご機嫌麗しくレジナルド先輩……」
「今日はリアムを虐めないでくださいねっ」
俺の挨拶にノエルがそうくっつける。有難いけど挨拶はしようぜ⁈俺は自分がああいったエンドになるのはもちろん嫌だが、こうして打ち解けたノエルがそう言った道に堕ちるのも嫌だ。挨拶挨拶、と慌ててノエルの袖を引っ張ると、どうもぉ、とだけノエルは言った。レジナルドは苦笑を浮かべたが、気分を害したほどではないらしい。良かった。
「まあ、大まかには聞いていると思うが君たち二人には生徒会へ入会をしてもらいたい」
勧誘だとスペンサーは言ったが、レジナルドの言い回しだと選ぶ余地がなさそうだ。
名誉なことではあるんだろうけどさぁ……なんとも返答に困って、はぁ、とだけ俺は返した。ノエルもまたそんな風だ。ノエルとしても興味がなさすぎる事項なんだろう。
レジナルドも俺たちの反応が普通と違うことに少し戸惑っているようだが、こほん、と咳ばらいを一つする。
「まあ、二人とも初めてのことではあるし、戸惑いもあるとは思うが私たちとしても優秀な人材は確保していたくてね。それに──」
レジナルドが続けようとしたときに、こんこん、とドアがノックされて開く。
そこにはキースと……見知らぬ生徒が一人いた。
「……兄様?」
思わず俺がそう口にすると、キースがにこりと微笑む。
学園への登下校はほぼ一緒だが、ノエルから逃げ回らなくてよくなった放課後は、キースのところに逃げることは減った。とはいえ結局、キースの業務が終わる時間まで待ったりするので、一緒にいる時間は多いけれど。
「デリカート家の兄弟は絆が深い様だったからね。今年度生徒会の指導教員をキース先生にお願いしたんだよ。そうすればリアムも馴染みが早いと思ったのだよ」
確かにキースがいることによって俺は心強くはある、けれどゲームの中ではキースはこの生徒会に関わる人物ではない。そうなるとやはり俺がここにいるイレギュラーがキースにも生じている。あまりそこに巻き込むのは気が引けるというか……。既に決定している以上どうしようもないのだろうけど。
レジナルドは俺と目が合っても微笑むだけだ。やっぱ腹黒い気がするんだよなぁ、この王子様……。
「レジナルド君、こちらを紹介しても大丈夫かな?」
「ああ、すみません。先生。お願いできますか」
俺が心中で悪態をつき続けている間に、二人は室内へと入り、レジナルドの横側に立った。
キースが伴って連れてきた人物は、初めて見る顔だ。ゲームの中でも覚えがない。実際の学園内には俺が知らない人物が居てもそりゃおかしくはないが……。
ノエルもそちらを見ていたようで、視線を少し逸らしたところで目が合う。
誰だっけ?と身振りで送ると、首を傾げた。どうやらノエルにも見覚えはないようだ。
「では、改めて紹介しよう。こちらはグラーベ国から留学されてきたディマス・グラーベ殿だ。グラーベ王国の第六皇子でいらっしゃるよ。1学年だが、入学式には間に合わなくてね。本日から登校されている。二人とはクラスが違うから、初めて会うだろうね」
紹介された人物は綺麗な所作で頭を下げた。
グラーベはリタルダンドの北側に位置する、雪の深い美しい国だ。風土のせいもあってか、白皙な人物が多いと聞いたことがある。
なるほど、確かに目の前にいる人物は透き通るような肌を持った佳人だった。流れるような銀の髪が神秘的でまるで石膏像のような美しさを思わせる……だが、制服は男のものである。はい、俺の興味は終了。男率高すぎだろ、ここな!いくらボーイズがラブな世界って言ってもさぁ。
「ディマスは他国における学園の形態にも興味があるようでね。生徒会にも興味があるということだから、特別枠で留学中は手伝ってもらうことにしたんだ」
レジナルドが説明をするように付け加える。王族同士の付き合いがあるのか、レジナルドとディマスはお互いに顔を見合わせて笑った。その仕草から二人が顔見知りのようだと窺える。おお、お似合いじゃん。王族同士ならご一緒になって俺の杞憂を減らしてくれると、助かる。
「ディマス、彼らは君と同じ年なんだし、親交を深めるといい。改めて全員の紹介をしようか」
レジナルドはそう言うと、俺たちを含めて生徒会の面々を紹介していった。ディマスはその間も笑顔を絶やさず、俺たちが頭を下げたりしたときは、自分も下げる。
ここが学園内としても、随分と謙虚な人なんだな、と俺は感心していたが、隣のノエルはなんとも微妙な表情だ。まあ、わからないでもない。この生徒会に関わってくるのは、ゲームを知っている側からすると重要人物と予想できるものの、お互いにデータがない状態。着々と事態が変わっているのは体感できるが……。
「今日はこれくらいにしておこうか。明日から早速このメンバーで発足するので、よろしく頼む」
紹介が終わると、レジナルドがそう締めくくる。俺を含めた1年は業務のことは何も知らないので、今日はこれで解散らしい。
結局、有無をいう暇もなく拒否もできずに俺とノエルは生徒会入りだ。
溜息しか出ない状況であるし、この後はノエルと少し話さないといけないと思いながら生徒会室を出る。ノエルも俺と同じ考えであったのか、生徒会室の戸が閉まると俺の肩を軽く叩いた。
「ねえ、リアム今から……」
「リアム・デリカート」
ノエルの声と同時に、ディマスの声が重なった。
声に導かれてそちらを見ると、先ほどの柔らかい表情から打って変わり、ディマスは眉を吊り上げて腕を組んでいる。
「はい……?」
「フン!レジナルドから話が出たのでどんなものかと思えば、大したこともない。あまりいい気にならないことだ。侯爵家の末風情が」
高慢さに侮蔑を混ぜて、ディマスはそう俺を睨みつけながら言い放ち、踵を返す。
いったいどれくらいか、そんなに長い時間ではないがディマスの姿が見えなくなってから、俺とノエルは目を丸くしてお互いを見遣った。