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この世界に生まれた瞬間から、ばいきんまんは「汚い存在」だった。
誰もが彼を見て、嫌な顔をする。
誰もが彼を見て、「ばいきん」と呼ぶ。
汚い、臭い、不潔、邪魔。
そんな言葉を投げつけられるのが 当たり前 だった。
「お前はばいきんなんだから、清潔な場所には入るな」
「お前がいると、みんな病気になっちゃう」
「お前なんか、いなくなればいい」
幼いばいきんまんは、まだ小さな体を震わせながら、暗い洞窟の奥で、ひとりぼっちで泣いた。
「……なんで?」
自分は何もしていないのに。
ただ、ここに生まれただけなのに。
どうして、こんなにも憎まれなければならないのか?
ある日、ばいきんまんは 町へ降りた。
そこでは、人間たちが楽しそうに暮らしていた。
美味しそうな食べ物、きれいな家、温かい笑顔。
それを見て、ばいきんまんは思った。
「おれも……あんなふうに、なりたい……」
勇気を振り絞って、一歩を踏み出した。誰かに話しかけようとした。
しかし――
「ぎゃああああ!!ばいきんよ!!」
「くるな!!」
「うつる!近寄るな!」
人々は彼を見た瞬間、逃げ惑った。誰も彼に手を差し伸べない。
誰も彼と友達になろうとしない。
彼が「ばいきん」である限り。
怒りが込み上げた。
なぜ、ばいきんというだけで、こんなにも差別されなければならないのか?
ならば――
「オレは”悪”になってやる!!」
人間たちが恐れる「ばいきん」なら、徹底的に恐れられる存在になってやる。
優しくしても拒絶されるのなら、最初からすべてを壊せばいい。
こうして、「ばいきんまん」は生まれた。
町を襲い、人々を怖がらせる。
食べ物を盗み、悪事を働く。
彼が何かをするたびに、人々は震え上がった。
その反応が、ばいきんまんの唯一の存在証明 だった。
「おれは”悪”だ!」
「おれは”ばいきん”だ!!」
そう叫ぶたびに、彼は自分が何者なのかを確かめることができた。
そんな彼の前に、一人だけ立ち向かう者が現れた。
「君が何をしようと、僕は許さない!」
それが、アンパンマンだった。
最初はただの邪魔者だと思った。でも、何度倒しても、何度やり直しても、アンパンマンは絶対に諦めなかった。
「おれを”悪”にしたのはお前らだろうが!!」
「なんでお前は、そんなに”正義”でいられるんだ!!」
ばいきんまんは叫んだ。
しかし、アンパンマンはただ微笑み、こう言った。
「だって、僕は”君の敵”だから。」
ばいきんまんは、何のために戦っているのか?
それは、ただの戦いじゃなかった。
それは、ただの悪事じゃなかった。
彼は、ただ――「誰かに認められたかった。」
しかし、誰も彼を「友達」とは呼ばなかった。
だから、彼は今日も悪事を働く。
アンパンマンがいる限り、自分は「悪」としてここにいていい。
「おれは、ばいきんまんだ……」
それは、世界に拒絶された男の 唯一のアイデンティだ。