「全国美少女選抜優勝者は――院瀬見つららさんです!」
「皆さまのおかげで選ばれました! 本当に嬉しいです。ありがとうございます!」
《万感の拍手、歓声、スカウティングのお誘いが絶え間なく続く――才色兼備の最強美少女、院瀬見つららさんの今後の活躍にご期待を!》
「うん、このプロモーション映像ならいいと思う。これなら古根の男子なら誰でも一目惚れするし、みんな院瀬見つららをちやほやする」
聖菜が満足気に頷いている。でも余計な一言が多すぎ。この子ってどうしてわたしに意地悪いのかな。
「別にちやほやされたいから流すわけじゃないですよ。サプライズで登場するにしても、舞台の上で姿を見せるだけだと間が持たないだろうからそうするだけで……」
「つらら、怒った?」
「別に怒ってないです」
十日市聖菜は中学が一緒の子。クラスは違ったけど、あの頃は聖菜とわたしで人気を二分《にぶ》してるって友達から聞かされたことがある。でもそんな彼女がわたしの推し女をやるなんて想像していなかった。
聖菜は出会った時から大人しくて愚痴も言わない子だったのに、最近になって文句のようなことを言うようになった気がする。
「院瀬見さーん! プロモの出来栄えはどーでしたか?」
聖菜はこんな感じなのに対して、選抜で落ちて落ち込んでいたはずの二見めぐや同じクラスになっただけで推し女になってくれた九賀みずきの二人は、何も変わらずにわたしを応援してくれている。
「いいと思います。あれならわたしを知らない男子がいても、気づいてくれるかなって思います」
「えー? いませんって! 知らなかったのはあの南っていう失礼男だけですよー。院瀬見さんを汚すし、何考えてるのか分かんない感じ。みずきもそう思いませーん?」
「フツメン会長は特殊じゃん? 副会長さんはいい人だし、優しいのに……何であんな個性的な奴が生徒会長なのか意味不明すぎ! 院瀬見さんにあんな態度だしムカつくー!」
プロモ映像を流した後は、きっと今みたいなゆったりとした時間なんて取れなくなる。古根の男子と同じ授業を受けるようになったら、生徒会活動なんて時間は取れなくなるんじゃないかな。
でも、サプライズがあろうと無かろうとあの南翔輝はそれでもわたしにひどい態度をしてくるはず。周りの男子が強く言えない権力があるし、言葉も強い。わたしよりは力は無いけど。
だからサプライズを終えて、正式に共学化される前にあいつともっと――。
「南は可愛い男子。異論は認めない」
そんなことを思っていたら、聖菜が急に変なことを言い出した。この子、まさか、ね?
そもそもほとんど話したことなんて無かっただろうし、南も多分覚えてない。
それなのに、
「……聖菜はどうしてそう思うんですか?」
「あの七石麻と草壁新葉が南に甘えてるから。性格は一見きつそうに見える。でも、多分態度を変えたらきっと違う」
――あいつのことをよく見てるんだ。
確かに、あの他を寄せ付けない厳しい草壁先輩が可愛いって言うくらいだから性格はそこまで悪くないって思えるけど、大して話もしてない聖菜が見抜けるものなのだろうか。
少ししか関わってないけど、あの生徒会長のことはまだよく分からない。
「聖菜さんってー、もしかしてああいうのが好みな感じー?」
「……さぁ」
わたしたちの前でははっきり答えないんだ?
それを聞いてもって話だけど、何だかモヤモヤする。
「フツメン会長とかあり得なくない? だって普通じゃん? 副会長さんの方がどっちかっていうとー……」
九賀の好みは副会長ってことで間違いないかな。そういうことなら応援してあげないと。
それにしても聖菜が南翔輝を――ね。
わたしとしてはどっちかというと年上の先輩たちが気になる。可愛い後輩とかってあの時紹介してたけど、どういう関係なのかは教えてもくれなかったし。
もちろんどうでもいいことだけど、もしかしたらどっちかと付き合っているかもしれないし、実は血が繋がっているかもしれないし真相は分からないままになりそう。
もし草壁先輩の方だとしたら、いくら優勝したからって勝ち目は無い気がする。
わたしよりもスタイルがいいし、胸も――
「――んー……」
「院瀬見さん、どうしましたー?」
「何か、何かね……上手く言えないんですけどー……」
何かが足りてない。言葉に出来ない何かがあるような無いような。
「えっ? 抱きしめてる……? しかもよりにもよって草壁先輩!?」
何で女子寮に来た時にこんな場面に遭遇するの?
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