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冬の夜風が冷たく頬を刺す中、メンバー全員が20歳を超えたことを記念して飲み会を開いていた。大きな個室にメンバー全員が集まり、テーブルを囲む形で賑やかに笑い声を響かせる。
「もりぴ、飲みすぎじゃない?」
史記が、俺の手にあるグラスを見て苦笑する。
「これくらい平気だって。俺最近強くなったから!」
一方、愁斗は角の席に腰掛けて、やや静かに場の様子を眺めていた。周りのメンバーが次々と彼に絡み、ふざけ合ったり笑わせたりしているため、彼の周囲も自然と明るい雰囲気に包まれている。
「しゅーと、これ飲める?」
勇馬が愁斗グラスを差し出した。
「お前、もう回ってない?俺まで潰す気?」
愁斗は苦笑しながらそれを受け取り、軽く一口だけ飲む。元々お酒は強くないが、今日は少しだけ自分を甘やかそうという気分だった。
____
宴もたけなわになり、数時間が過ぎた頃。メンバーの何人かはすでに眠気と酔いに身を任せていた。
「しゅーと、大丈夫か?」
少し離れた場所に座る弟の姿を見つける。愁斗は赤ら顔で、どことなく力の抜けた様子だった。いつもしっかりしている彼が、今日はなんだか無防備に見える。
少し心配になり、弟の隣に腰を下ろした。
「……ひで、あったかい。」
突然、愁斗がぽつりと呟く。思わず驚いて顔を覗き込むと、視線は虚ろで、少しだけ甘い酒の香りが漂ってきた。
「どうした?珍しいな、こんなに酔うなんて」
「だって、ひでがいると安心するんだもん……」
いつも自分にはツンとした態度の弟が、こんなにも素直に甘えてくる姿は初めてだった。一瞬言葉を失った。
「お兄ちゃんのこと大好きだなー」
何と返せば良いか分からず、いつも通りふざけたように言うと、肩を軽く叩いた手を、愁斗が掴む。
「……ひで」
甘えたような声で呼ばれた自分の名前に、思わず息を飲む。普段ならばこの至近距離を鬱陶しがりそうな弟が、真っ直ぐにこちらを見上げている。
「なんで、俺だけのひでじゃないの……」
そう呟いてすぐ手に目線を落とした弟の姿に、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「……そんなこと言うなよ」
やっとの思いで捻り出した言葉だった。
照れ隠しに笑おうとしたのだが、弟の瞳に映る感情の深さに、笑いも消えてしまう。
「……本気で言ってんの?」
「ひで、いつも1人で抱え込もうとするでしょ?俺……もっと頼ってほしいのにさ………弟じゃ、頼りない…?」
愁斗は泣きそうな声で続ける。どんな時でも至って冷静に振る舞う弟の、弱さが露わになる瞬間だった。
その瞬間、抑えていた感情が堰を切ったように溢れ出す。
「俺はさ、お前に頼るとかよりも、守りたいんだけど」
弟の細い肩を引き寄せる。
「しゅーとは俺のかわいい弟で、大事な相棒で、…」
続けようとしてピタリと止めた。
ただ、目の前の愛しい存在を安心させたくて必死だった。
「……ひで?」
愁斗は続きを求めるような顔で俺を見たが、俺がこれ以上口に出さないと悟ってすぐに俺の胸に顔を埋めた。
「俺も、ひでが好きだよ」
肝心なところはいつも、意外と弟の方が大胆だったりすることは、兄である自分が1番よく知っていた。
____
翌朝。リビングのソファで目を覚ました愁斗は、頭を抱えた。
「昨日、俺……?」
ぼんやりとした記憶をたどるが、はっきりとは思い出せない。
「おはよ、しゅーと」
キッチンで朝食を作る兄が振り返り、ここが自分の家では無いことに気づく。
「お前、結構可愛いこと言ってたぞ」
「……え?」
心当たりがなさすぎて、愁斗は怪訝そうに眉をひそめる。
「何言ってたの?おれ」
「もちろん秘密」
そう言ってニヤリとする兄に、「なんだよー」と口を突き出しながらまた寝転がる。
「気にすんな。どうせ、いつかまた溢れ出した時に聞けるだろ」
さらりと笑いながら、兄は席に着いた。
その言葉に、愁斗は胸がざわめくのを感じた。自分が何を口にしたのかはわからないけれど、きっとそれは、自分の奥底に隠していた大切な感情だったのだろう。
「…そんなこと、二度とないかもしれないけどね」
少しムキなって返してみたが、蕩けそうな程優しい眼差しでじっと見つめられてしまっただけだった。
「それなら、俺が溢れさせてやるけどなー。待っとけ」
さらりと告げられたその言葉に、愁斗は目を丸くした。
今はまだこのまま____
いつかまた「溢れる時」に考えよう。