「海、?」
そこまで人がいなかったからか
玲くんが入ってきた。
「疲れちゃったね。」
「海は海のペースでいいよ。 」
「焦んなくていいの。」
玲くんの優しい声に
また泣けてきてしまった。
「大丈夫、大丈夫。」
あの頃みたいに
大丈夫と繰り返しながら
頭を撫でられる。
「もっと頑張りたいのに、。」
もっと頑張りたい。
なのに、頑張り方がわからない。
例えるなら
水の中。
溺れて助かろうと踠くけど
踠けば踠くほど苦しくなって
体が沈んでいく。 そんな感覚。
息ができなくて
もう助からないんじゃないか
死んでしまうんじゃないかって
どこかで考えながら
踠くことを諦めきれない。
立ち止まってしまったら
それこそ今までの頑張りが
全部全部水の泡になってしまう気がして
“今”にすがってしまう。
駄目だなぁ。
ほんと、駄目だ。
「玲ー!お客さん帰るってー!」
この騒がしい声は哲汰さんかな。
「はーい!今行くー!」
玲くんと入れ替わるようにして
哲汰さんが休憩室に入ってきた。
「久しぶり。元気してた?」
「…一応、?…哲汰さんは、?」
「アトリエにこもってた。」
「忙しい、?」
「まぁそれなりに。でも楽しいぜ?」
「…そっか、。ならいいね、。」
「海の同級生たち?」
「あぁ、うん、。テスト勉強してるの。 」
私もやってたんだけどね、って
苦笑いを浮かべれば
少し心配そうな顔をした。
「出来なかった、。」
「授業進みすぎててさ、」
「内容さっぱりだったの、。」
「私だけ進めてなくて」
「悔しくて、ムカついて、」
「どうしてだろうって」
「いつからこうなったんだろうって」
「わかんなくて、」
『海は真面目だから考えすぎるんだよ』
哲汰さんはそう言った。
それは私が学校に行けなくなった日
どうしたものかと玲くんが悩んでいたとき
玲くんにかけた言葉でもあった。
『海はいっぱい考えてるんだよ。』
『言葉にするのが苦手なだけで』
『海はいっぱい考えてる。』
『だから見守ってたらいいんだよ。』
「頑張ってなきゃ、死んじゃいそう、。」
「えー?海、頑張ってるでしょ?」
「…全然頑張れてないよ、。」
玲くんに言えないことでも
哲汰さんになら言えてしまう。
理由はわからない。
でも気付いたときから
哲汰さんにならなんでも言えた。
だからたまに
私の一方的な話を聞いてもらう。
「海?」
「ん?」
「…海は絵描いたりする?」
「んー…絵は好きじゃない、かも、。」
「そう?」
「うん、。でも魚の絵描くのは好きだよ。」
「他は?」
「描かない。」
「えぇー?」
「…小学校の時、先生に」
『青い花はないよ。だからそれはおかしい』
って言われたから
絵、描くの、嫌になっちゃった、笑
「テーマは住んでみたい街だったの、。」
「全部自由に好きなように描いてって」
「色も好きなように塗っていいよって」
「先生言ったのにね、?」
へらりと笑って見せれば
『それは先生が良くないよ』ってひと言。
「海ー?パスタ茹でてほしいかも!」
「はーい!じゃあ、行ってくるね。」
「じゃあ俺も戻って絵描くわ。」
「うん。」
エプロンをつけて休憩室を出れば
『スッキリした顔してる』って
玲くんが安心したように笑った。
「哲汰ありがとう。」
「別に俺、なんもしてねぇよ。」
「海の話、聞いてくれたでしょ?」
「あぁ、。それくらいいつでも聞くわ。」
「頼もしいねぇ。」
にひひ、と笑う哲汰さんが眩しい。
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