「2人とも‥‥他界した。」
「ぇ‥‥。」
そんな気はしていた。楽しそうな思い出は、全て幼い頃のものだった。それに、日帝様の表情がずっと泣き出しそうな辛そうな顔をしていたから。
でも、どうして私にその話をしたのだろう。思い出すのも苦しいはずなのに。
「あの‥どうして私にその話をしたのですか?」
聞かなければ一生後悔する、そんな気がした。
「‥‥」
「いつもご自身の話しようとしないですよね?」
「なんで?どうしたのですか?ねぇ、日帝様‼︎」
何も言わずに下を見て俯いたままの日帝に、焦りのような苛立ちを覚えた。いつもより速く、大きな自分の声に私でも驚いた。
「‥」
「空と海は、米国との戦争で亡くなったんだ。」
「空は特攻隊で、敵船に突っ込んだんだ。」
話が見えない。でも、淡々とした言い方だった。まるで台本を読み上げているかのように。
心にもないことを言っているのは明白だった。
「海は、船に乗っている所を敵に襲撃された。」
そう言い終わると、まるで何かの栓が抜けたように大きなため息をついた。
大切な人を殺されて、何も思わない人はいない。日帝様から、抑えても漏れ出てしまうほどの憎悪を感じた。おそらく今まで感じた怒りは、この中のたった少しだけだったのだろう。
「‥俺はもういく。」
「何処にですか‥?」
「もう‥分かるだろ?」
なんとなく、分かった。いきなり家族の話をしたのも、家族がどう死んだのかわざわざ教えた理由も。
きっと今から行く場所は、アメリカのところだろう。きっと殺しに行くんだ。家族の仇を討つために。
家族の話をしたのは、自分が死んだら兄弟のことを、楽しかった思い出も、覚えている人が居なくなるからだ。
どう死んだのか教えたのは、きっと自分に言い聞かせる為なのだろう。あいつがいなかったら今頃、まだ兄弟たちは生きていた。って、殺しに行く覚悟を決めるために。
「待って下さい!!!」
そう言って体を動かそうとした。その瞬間、体から耐え難い激痛が走った。
「ぁう、‼︎」
「無理に体を動かすな。まだ治っていない。」
駄目だ。駄目だ。駄目だ。今動かないと日帝様が死んでしまう。
日帝様が撃たれたのは胸の真ん中だ。身体中が包帯で巻かれているのはおかしい。その後の戦闘でもここまで怪我をするほど動けなかったわけではないのだろう。
頭の中で嫌な記憶が流れる。もう見たくない。そうずっと思ってきた景色だ。
日帝様の顔を見た。少しヒビが入っていた。
それは、私が見てきた「日本」たちが、必ず最後に入っていたヒビと同じだった。
「嫌です。いかないで‥。」
懇願するような気持ちで訴えた。また、失いたくない。でも駄目なのだろう。日帝様の覚悟は決まっていた。
きっとこのまま戦争を続けても日本は負ける。新聞や、ラジオは威勢がいいだけだ。負けたらその後はどうなる?安全に暮らせるのか?
だったら終わる前に、死んでもいいから殺したいのだろう。痛いほど分かる。
「ごめんな。」
日帝様は、優しくそう言って出て行った。とても柔らかい笑顔だった。
私は、動かすことのできない体を呪った。私の心は、哀惜の思いでいっぱいだった。
「待って下さい。まだ傷は癒えていないですよね?」
「そうや、もう動かんといて。」
「ごめんなさい。でも、もう動けます。」
「いや、やからって‥」
「お二人だって大怪我を負っていますよね。」
「いや、そうですが‥」
「‥行ってきます。お二人は安静にしておいてください。」
あの後、仲間に発見され、治療を受けさせられた。思ったより深刻な状況だったらしくこのまま行くと流石に綺麗には治らなかったらしい。暫くは動けなくなってしまった。
もはや自分の体などどうでも良かったのに。
今すぐ日帝様の安否を確認したかった。居場所に目星はついている。
私の体は治るのがはやいから、数日すれば歩けるようにはなった。
周りの反対を押し切って外に出た。
「ハァ‥ハァ‥。」
まだ、前のようにはまだ動けない。それでも走った。一刻でも速く行かなければ。
走れば走るほど体の傷口が開き、血が滲む。それでも走るのをやめなかった。
無駄かもしれない。もうかなり時間が立ってしまった。
私はいつもこうだ。肝心な時に何もできず、ただ消えていくのを眺めるしかないのだ。何度だって後悔した。それでも駄目だった。
私が出来ることは何なのだろう?私が出来たことはあったのだろうか?
嫌だ。足が鉛のように重くなっていく。私は何かを呪うことしか出来ない。
「ハァハァ‥ぅグ。」
傷が痛い。血が流れ目の前がぼやける。でもあと少しだ。この丘を越えれば‥
「‥‥ぁ‥」
そこには誰もいなかった。
ただ、血だらけの日帝様の服が落ちていただけだった。
見間違えだと思いたかった。他の誰かのものだったら良かった。
でも、何度も見ても私の記憶はこれが日帝様の物だと告げていた。
「ぅ‥‥ぁあ‥」
言葉にもならない声が出る。
もう分かっている。日帝様は、他の「日本」と同じように消えてしまったのだ。
でも、頭では分かっていても受け入れられなかった。
どうして?なんで?ねぇ、どう言うこと?分からない。分からないよ。
分からないよ。
「ぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
何処からか今までに聞いたことのないような悲痛な叫びが聞こえた。
その声は、私の声だった。
私は、強く日帝様の服を掴んだまま失神してしまった。
ぼんやりと何も見えなくなる視界で、足元には私の血と涙が広がっていた。
コメント
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斗環です‼︎4話目も見てくれてありがとうございます♪ 実は、3話で初めて1話で♡が50になったんです‼︎本当にありがとうございます!!!! ちなみにこの話の中に、東京と大阪が出てきたんですが分かりました? 都道府県ヒューマンズよく知らないから間違ってたらごめんなさい(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)