新入生歓迎会の後、私たちは新入生にテニスの基本を教える時間になった。先輩たちがそれぞれ1年生を見て回る中、私はひとりで少しだけ外れた場所で、地面に転がったラケットを拾っていた。
「うわっ!」
そのとき、突然背後から声が聞こえ、振り向くと、そこにはうっかり転んでいる新入生――**川瀬くん**がいた。
「え、川瀬くん!?大丈夫!?」
慌てて駆け寄ると、川瀬くんは少し恥ずかしそうに立ち上がり、ラケットを持ちながらも顔を赤くしていた。
「あ、あの、すみません…」
「大丈夫だよ!ちょっと転んだだけでしょ?」
川瀬くんは小さく頷いたが、その表情はまだ少し困惑している。
(なんか、すごく真面目な顔してるけど、ちょっとドジなところが可愛いかも…)
「本当に大丈夫?足とか痛くない?」
「大丈夫です!本当に…」
川瀬くんはそう言いながらも、どこかぎこちない動きでラケットを持ち上げた。
(あれ、もしかして…ラケットの持ち方も…ちょっと…)
「ちょっと見てて、持ち方が少し変だよ。」
「えっ、そうなんですか!?」
私は川瀬くんのラケットの持ち方を指摘して、正しい持ち方を教えた。川瀬くんは少し驚いた顔をして、恥ずかしそうにラケットを持ち直す。
「おお…こうやって持つんですね。」
「うん!最初は誰でも間違えるから心配しないで。」
そう言いながら、私は川瀬くんにテニスの基本的な動きや姿勢を教えていった。川瀬くんは本当に真面目で、覚えようと一生懸命に頷いている。
その様子を見て、私は少し心が温かくなった。
「じゃあ、今度はラリーをしてみようか?」
川瀬くんは、少し緊張した様子でうなずいた。
「はい!頑張ります!」
ふたりでラリーを始めてみると、最初はちょっとぎこちなかったけれど、徐々にリズムが合ってきて、次第に楽しくなってきた。川瀬くんの笑顔も少しずつ増えていく。
「楽しいですね!」
「うん!こういう感じでやっていけば、だんだん上手くなるよ。」
その時、ふと横を見ると、先輩が遠くからこちらを見ていた。
「くるみ、お前、後輩の面倒見てるな。」
「えっ、あ、はい、少し…」
先輩がちょっと嬉しそうな表情を浮かべながら近づいてくる。
「川瀬くん、いい感じに教えてもらってるみたいだな。」
川瀬くんはびっくりして、急に恥ずかしそうに顔を赤くした。
「す、すみません、広瀬先輩…」
「いや、いいんだよ。これからいっぱい練習すれば、もっと上手くなるから。」
先輩の言葉に、川瀬くんは少し安心したようだった。
「くるみ先輩、ありがとうございます!」
川瀬くんがそう言いながら頭を下げる。
「うん、頑張ってね!」
そのまま私は川瀬くんを見守りながら、テニスを続けた。
(川瀬くん、ほんとに頑張り屋さんだなぁ…)
先輩が後ろから近づいてきて、軽く私の肩を叩いた。
「お前、後輩の面倒見てるな。さすがだ。」
「そんな…何もしてないですよ。」
「いや、見てたけど、いい感じだった。」
先輩の言葉に、私は少し顔を赤くして、川瀬くんと一緒に練習を再開した。
(先輩に褒められると、やっぱりちょっと嬉しいな…)
その日の練習を終えた後、新入生たちはみんな笑顔で帰っていった。川瀬くんも最後に私に言った。
「くるみ先輩、ありがとうございました!これからも頑張ります!」
「うん、頑張ってね。応援してるよ!」
川瀬くんが元気に手を振って帰るのを見送って、私は先輩の方を振り返った。
「先輩も、新入生に色々教えてるんですか?」
「まあな。でも、お前みたいに優しく教えるのは得意じゃないから、いつも適当だよ。」
「そんなことないですよ!」
「ふふ、ありがとうな。」
先輩が微笑むと、その笑顔が心にしみて、私は思わず胸が温かくなった。
(先輩とこうやって過ごす時間、これからもっと大切にしなきゃな…)
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!