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第一章
僕らの マスク戦争
pandemic〜3部 弟、ハクト
客の男性は、何か言いたそうだったが、店の奥から騒ぎを知った母が,こちらに駆けつけると同時に、男性は,バツが悪そうにそそくさと立ち去って行った。
母は、ハクトを軽く抱きしめ、大丈夫だよと優しく背中をさすり、僕を見上げてありがとうと目配せした。
「ハクちゃん、学校も家から出る時も、このカードは,必ず首からかけて出かける約束でしょ!周りの人達に、苦しくて、マスクは出来ない事を教えてあげるためなのよ。それに今日は、まっすぐ家に帰る日でしょ?ハクトの好きなお芋のおやつも用意してあるし、今日の予定は、ハクトの手帳に書いておいたよ。見ていないかな?」
僕は、弟のバック内を探し、いつも入れていたところに手帳が無いことを母に伝えた。
「えっ,ウソ!昨日、キッチンで書いてから…アッ、そうお父さんが帰ってきて、話し込んで、手帳をそのままソファーに置き忘れたかも。」
ハクトは、日付と曜日と時間にとても厳しいというか、週の決まり事が決まっていて、突然の変更には対処しにくい。家や下校の時には必ず手帳で確認するのが、彼の日課だった。
因みに弟は、友達と一緒ではなく、1人で帰る。なるべく安全で真っ直ぐな道をえらび(近道は危険)、何があっても、走る事は皆無で、ひたすら、ゆっくり歩き、ほぼほぼ正確な時間に帰宅する。
弟の特徴の1つで、今はかなり減ってきたが、学校に上がる前は、度々パニックを起こし、家族は大変な修羅場を耐えてきた。この日、このシチュエーションで,パニックを起こさなかったのは、幸いだった。
「ハクト,ハクチャン!ほんとにごめんネ、お母さんが手帳渡すのを忘れたのね。だから、直接お母さんに聞きにきたんだね。ソウヨ、ハクなりに考えて、…ここにきたんだね!すごく偉いよ、よく来れたね❗️」
ハクトが他人から怒鳴られてもパニックを起こさず、怖くても逃げなかったのは、唯一、母親の自分に合う為だと確信したミツコは、何も言い返せない息子の不憫さと、到底理解してはもらえぬ今の社会の現実に涙した。
「お母さんは、まだ仕事だからお兄ちゃんと帰ってね。…、ところでシズキ、あなたは何か用事だったの?」
僕は、手短に訳を話し3者面談のプリントを渡し、署名と印は後でもらうことにして、吸入器を使用するほどではないが、少し肩で息をしている弟を,急いで家に連れて帰ることにした。
ハクトの気管支喘息は、かなり重い。なるべく発作を回避し、重篤化を防がなければ、死に至る場合がある。
ハクトは小5のわりに、見た目にも小さい。身体的には小三位か?それだけで障害の有無など見極めつかないだろう。そして6歳の時に、辛い自閉症の診断をも受けた。
自閉症があると、ある特定の行動パターンを繰り返す。変化することを非常に嫌う、それにより、時々家族は振り回される。そして今も他人とのコミュニケーションは非常に難しい。
家族とは、それなりの応答は出来る。たまに笑顔も見せる。専門家の話や施設なども通ったりしたが、家族と一緒にいることが1番、弟は落ち着いている。無理せずに、ハクトのペースで暮らしていくことを、家族で話し合って決めた。
第二章 覚醒〜1へ