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傘の下には…
「またそんな絵ばっか描いてるんですか?」
こいつは英介。私を事ある毎にからかってくる奴。
「そんな下らないことをして何の役に立つのやら…」
『うっさいわね!』
私がいつも教室で静かに絵を描いているとこの通り。
私は正直言ってこいつの事が大っ嫌いだ。
「おい英介!先生が呼んでるぞー!」
「それでは、あなたの趣味に付き合ってる暇はないのでこれで失礼」
薄ら笑いを浮かべながらそそくさと去っていく。あんたが勝手に来たんでしょうが!!と言いたかった。
しばらくしてから授業開始のチャイムが鳴ったので席に座ったが、授業中なのに大嫌いなあいつの事が頭に浮かぶ。
学生のくせに常時敬語。よく見せる軽蔑するような表情。晴れの日でも傘を持ってくる。彼の取り柄は容姿しかないんじゃないかと思う。変な奴。何に影響を受けたんだか…
でも、 自分でも不覚だが、たまにあいつのことがちょっとかっこよく感じ…….ない…ないわ!なんて事を考えてるの私は!
「…..おい!蘭!聞いているのか!」
『わ!ごめんなさい!』
やらかした..話を全く聞いてなかった。最近こういうことが多い。これも不意に頭に浮かんできたあいつのせいだわ。
授業が終わり、机にうつ伏せていると後ろからつんつんと指でつつかれる。
「蘭ちゃん最近大丈夫? なんか授業中ぼーっとしてたり、いつもの優等生蘭ちゃんらしくないよ!」
『えぇ? そうかしら…』
この子は桜。アニメや漫画が大好きな子。普通に仲が良いのでよく話すが、あまり心配をかける訳にはいかない。
「そうだよ!もしかして考え事でもあるの?」
『いや…』
どうしよう。このままでは…
「うーん…それじゃあ…あ! “恋”とか?」
『え…?』
恋….!? いやいやまさか私がする訳ない。
「あ~!絶対そうじゃん!そりゃ授業集中できないのも納得だね!!」
桜が目を輝かせる。
『ち、ちがうって…』
「蘭ちゃんさ~英介くんの事嫌い嫌い言ってるけど本当は大好きなんじゃないの!」
『だ、だから…』
「私は全力で応援してるからね!ふふふ。楽しみだな~!!」
桜がまるで音符が飛びそうなくらいルンルンで行ってしまった。
今凄く顔が熱い…私があの、あいつに…ありえない。今のはただ桜に言われただけ。落ち着くのよ私!
次の日 珍しく雨が降ってきた。
天気予報をちゃんと見なかったせいで傘を忘れてきてしまった。
いっそ走って帰ろうと思った。思ったんだけど…こんな大雨。やはり風邪をひく気しかしない。
でも傘を人に借りる訳にもいかない。
もう諦めて走って帰ろうと思ったその時、聞き慣れたあの声が聞こえた。
「おやおや。もしかして傘を忘れてしまったんですか?風邪をひきますよ。」
やっぱり、こいつだ。 彼がいつも肌身離さず持ち歩いている紺色の傘の下に、いつもの薄ら笑いを浮かべたあの顔がある。
『そ、そうよ。何?また私をからかいに来たの…?』
私に話しかけて来たということは、きっとそうに違いないと思った。
「からかいに…?いえいえ違います。今日はただお話したいなと思っただけですよ。」
『お話…?』
そう言って彼は私を傘に入れるように引き寄せる。
距離が近い。
「あなたに伝えたいことがあったんです。」
彼がいつもしないような表情をしていた。まるで純粋な少年のよう。
「僕がいつもあなたをからかうのは、別にあなたを嫌悪してやってる訳じゃないんです。ただ…あなたの気をひきたいだけで…」
『私の気をひく?一体何のために…』
「こうでもしないと僕の事を気にとめてもらえないかと思って。いつも描いてる絵、とても素敵なんですよ。 気付いてないと思いますが、 僕はあなたの事が好き、いや、大好きなんですよ。」
突然の告白に私は驚愕してしまった。 まさか彼が私に好意を寄せていただなんて。
「これだけは伝えたかったんです。 でも、あなたには随分嫌われてしまっているようですし…突然ですみません。では…」
『待って!』
彼が行ってしまう! 私も、私も自分の気持ちに素直にならないと…!
『わ、私もあんたのこと…大好き…よ…大好きって言われて、嬉しかった…』
「!?」
ちょっと言葉が詰まってしまったが、ちゃんと伝える事ができた。
お互い顔が真っ赤だ。まだ雨は降り止まない。
「いやぁ…驚きました。まさか同じ気持ちだったなんて。えーと…では、蘭さん。僕と、付き合って頂けますか?」
『もちろんよ…!英介!」
これがお互いの名前を初めてちゃんと呼んだ瞬間だった。
この時、彼がいつも傘を持ち歩いている理由が分かった気がした。
見慣れた紺色の傘の下には、自分の気持ちに素直になれた2人だけが並んでいた。