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「行くぞたまアリ!!」
「「メメントリ!!!」」
「うん、OK、撮れてた」
うたが静かに立ち上がり、おもむろに前に手を伸ばしてカメラを止める。
点滅していた赤いランプが消え、2人分の会話が止まった。
うたえもん、なんて情けない声を出したり、笑ったりしていたさっきまでとは打って変わって、部屋は時が止まったかのような静寂に包まれていた。
今日はメメントリが2人になってから最初の動画撮影。
元メンバーがそれぞれの道を進み始めて暫く経った。
8人が7人に、7人が2人に。
みんなもうそれぞれの目標を持って、それぞれの手段で、それぞれ頑張っている。
もちろん俺らも例外ではなくて、現に今日撮影をした。
たまアリに行く、そのために。
うたと二人だとしても。
覚悟は、そう決めた。
つもり、だった。
ふとした瞬間、俺の思考は堕ちる。
世界に取り残されたような孤独感で覆われる。
みんな、俺がいなくても大丈夫だったんだな、って。
更新されていく元メンバーの動画を見るたび、ほっとしたような、でもどこか寂しい気持ちになる。
あぁ頑張ってるな、楽しそうだな、良かった。
その思いは、勿論嘘じゃない。
それに元リーダーとしてあいつらの活動を応援すべきなんだ。
そう、頭では分かってるのになぁ。
…なぁんで、こんな寂しく感じちゃうんだよ。
もう過ぎたことなのに、切り替えていかなきゃいけないのに。
まだ寂しいと強く感じている自分がいて。
いつもならもっと騒がしかったのにな。
いつもならもっとわちゃわちゃしてたのにな。
いつもならもっと、もっと、もっと。
なんて、過去のことばっかり、笑
俺、リーダーじゃねぇのかよ。
…いや、“元”リーダー、か。
しっかりしろよ、俺。
たまアリ行くんだろ!!
「、はは、…」
なんて、な。
分かってるんだ、いつまでもうじうじ考えてちゃいけないこと。
分かってるんだ、置いてかないでなんて言っちゃいけないこと。
分かってるんだ、寂しいなんて言ったって、個人でも光っている元メンバーに嫉妬してるだけなこと。
全部、全部、わかってるんだよ。
本当は、ほんとは。
やらなきゃいけないことも、ならなきゃいけないものも、わかってる。
でも出来ないんだ、どうしても。
…なんとなく、部屋をゆっくり見渡した。
気を紛らわしたかったのだろう。
無駄なものが少ないこの部屋。
前に8人で寝れるかチャレンジしたっけ、笑
そこの角はあいつの定位置だったな。
いつも、あそこにいた。
そういえば、あいつはずっとここでお菓子を食べてたよな。
それでテーブルを汚して、よく怒られて、
喧嘩が始まって、
笑いながら加わって。
馬鹿みたいに、ただひたすらに笑い合った。
…あーぁ。
さみしい、なぁ。
「ごめん、はるてぃー。
ちょっと曲流していい?作業BGMってことで」
「…?、あ、ごめ、なんて?」
「あーいや、曲流していいかなって」
「あぁ、曲?いいよ」
……珍しいな、あいつが曲聴くなんて。
なんかあったんかな、なんて考えは一瞬で消えた。
だって。
「この先に出会うどんな友とも
分かち合えない秘密を共にした」
これで気付けないリーダーが居るわけないだろ。
「それなのにたった一言の
“ごめんね”だけ
やけに遠くて言えなかったり」
「明日も会うのになぜか僕らは
眠い目擦り夜通し馬鹿話」
「明くる日
案の定机並べて
居眠りして怒られてるのに笑えてきて」
「理屈に合わないことをどれだけやれるかが
青春だとでもどこかで僕ら
思っていたのかな」
「あぁ答えがある問いばかりを教わってきたよ
そのせいだろうか
僕たちが知りたかったのは
いつも正解などまだ銀河にもない」
「一番大切な君と仲直りの仕方
大好きなあの子の心の振り向かせ方
何一つ見えない僕らの未来だから
答えが既にある問いなんかに
用などはない」
目から暖かいものが流れ、頬に一筋、光が走った。
…正解なんて、分かんなかったよ。
世間からの批判、晒し。
あることないこと言われまくって。
もうどうしたらいいかなんて分かんなくて。
メンバーの心がバラバラになっていくのが怖くて。
どうしたら良かったの。
どうすれば、良かったの。
これが、正解だったの?
俺は、どうしたら、
「はるてぃー、」
俺の思考を断ち切るように、凛とした声が響いた。
「…ん、?」
「あのさ、俺。
お前みたいにさ、
人を動かすとか、引っ張ってくとか、
そういうのはあんま出来ないかもだけど。」
視線を機材に向けたまま、俺を見ずに続けた。
「俺も、たまアリ、目指してるから。」
「…!」
泣きそうな、声だった。
俺、なんか勘違いしてた、かも。
そうだよな。
俺だけが目指してるわけじゃない。
うたは、ただ俺についてきたんじゃない。
あいつも、俺と目指してるんだ。
背を向けられていても、あいつの表情は手に取るように分かる。
…そしてそれは、多分あちらも同じことだ。
あいつ、俺より一枚上手じゃん。
負けたようで少し悔しい。
けど。
「なあ、うた」
「ん?」
「いくぞ、たまアリ?」
「、は、?お前急になに、」
「行くぞたまアリ??」
「…メメントリ、笑」
「、しゃぁああぁああい!!
絶対たまアリ、行ってやる!!!!」
「…元気になるの早くないか?笑」
「おう!!」
お前の、おかげだよ。
「…うた、ありがとな。」
「…おー、」
最後の最後に、照れんじゃねぇよ!w
メメントリが二人になって、初の撮影。
はるてぃー、大丈夫かな、なんて思ってしまった。
なんか、テンション、低くないか。
普通の人ならそんなこともある、で済ませられる。
でも、あいつが?
だから、多分無意識なんだなって分かってしまった。
無意識に、あいつは背負ってるんだって。
確かに、メメントリのリーダーはあいつだ。
あいつが背負ってきたものは計り知れない。
でもさ。
もう、今は俺ら二人じゃん。
悔しいよ。
辛いよ。
俺だって。
でもそれは、あいつの前では言えない。
あいつのほうがショックがでかいだろうから。
でも、どっかであいつを強く見すぎていた。
あいつが辛さを、無意識でも態度に出してしまっていることに、驚いてしまった。
あいつのことは、よく知ってる筈なのに。
でももうそれは今でやめるべきだ。
これからは、今まで以上に支え合う必要がある。
だから俺は、お前に背負わせたくない。
心なしか小さく見える、その背中に届いて欲しくて。
気づいて欲しくて。
曲も、言葉も、正しく彼に届いただろうか。
届いてなくても、俺らは信じ合うしかない。
共に歩んで行くのだから。
例え、また新しい仲間が増えたとしても。
だからこれからも頼むぜ、はるてぃー。