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優花が足を踏み入れると、倉庫の中にいた数人の生徒たちが彼女の存在に気づき、一瞬の静寂が訪れた。彼らは皆、優花と同じくらいの年齢に見えたが、それぞれが異なる雰囲気をまとっていた。
一人の少年が、ゆっくりと彼女に近づいてきた。背が高く、少し乱れた黒髪が彼の顔にかかっている。彼は無言のまま、少し警戒するような視線を優花に向けた。
「ここに、何か用があるのか?」
その声は、決して冷たくはなかったが、何かを探るような響きがあった。優花は一瞬躊躇したが、倉庫の静けさが彼女の心を落ち着かせた。
「ええっと…ただ、ちょっと見てみたかっただけ…」
そう言って、優花は自分の言葉に少し戸惑いを感じた。この場所が彼らにとって特別な場所であることは、彼の態度からも感じ取ることができた。
「ここは、私たちの秘密の場所だから。まあ、見られて困ることもないけどね。」
今度は、明るい声が後ろから聞こえた。振り返ると、長い髪をポニーテールに結んだ少女が微笑みながら近づいてきた。彼女は、優花の緊張を和らげようとするかのように、親しみやすい笑顔を浮かべていた。
「私は田中美咲。あなた、転校生でしょ?噂になってたから、すぐにわかったわ。」
美咲はそう言って、優花に手を差し出した。その自然な態度に、優花も少しだけ肩の力を抜くことができた。
「水野優花です。よろしくお願いします。」
優花が手を握り返すと、美咲は満足そうにうなずいた。その瞬間、他の生徒たちも次々と自己紹介を始めた。彼らは、この倉庫を「放課後の隠れ家」と呼び、日々の喧騒から逃れるために集まっているのだという。
「ここでは、学校での悩みとか、話しにくいことをみんなで話したりしてるんだ。誰にも邪魔されないし、何を話しても外には漏れない。」
俊介という名前の少年が、少し恥ずかしそうに笑いながら説明した。彼は他の生徒たちと同じく、この場所に特別な居心地の良さを感じているようだった。
優花は、彼らがこの倉庫で築いてきた信頼関係に感銘を受けた。同時に、自分がこの場所に足を踏み入れたことが偶然ではなく、何か意味があるように感じ始めていた。
「もしかして、私も…ここにいてもいいのかな?」
優花の声は、ほんの少しの不安を含んでいたが、彼女の内側から湧き上がる新しい希望も感じられた。
「もちろんさ、優花ちゃん。ここはみんなの居場所だからね。」
美咲が笑顔で応え、その言葉に優花はようやく心の中に暖かさを感じた。彼女は、これから始まる新しい日々に向けて、小さな一歩を踏み出したばかりだった。