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基地の一角にある総統室。
室内では堕天使と化した書記長、トントンが黙々と書類を処理していた。
同じくW国総統であるグルッペンもまた書類にペンを走らせる。
が、この二人、一方は過度な睡眠不足、もう一方は過度な甘味不足だった。
後者はなんとかなりそうに見えるが、実は難攻不落とも言われたW国の危機に直面しており、ケーキだのパフェだのと騒いだ時には堕天使による即粛清である。
まあどれほど危機なのかと言うと、戦闘特化ではないエーミールが爆弾を持って戦場を駆け回るぐらいには。
こんこんこん。
返事も待たず中へと入ってきたのは外交官であるオスマン。
菓子と紅茶を片手に二人の容態を確認して、溜息を一つ吐いた。
「グルちゃん、とんち。休憩めう」
目の前でプリンをちらつかせれば直ぐに飛びついてきたグルッペンに対し、トントンはぎろりと目線を寄越しただけ。
ああ、大分お疲れやなぁ。
目の前の書記長は徹夜を重ねれば重ねるほど不機嫌になるが、それは防衛本能に似たものだろう。
「あんまり根を詰めても作業効率は上がらんよ?」
子供をあやす様にオスマンが語りかければ、トントンはしばし考えたのち、おずおずとプリンに手を伸ばした。
かちゃかちゃ、とティーカップとソーサーの擦れる音が部屋に響く。
「グルちゃん、戦況は?」
「・・・・・今は優劣がついていない。ただ、相手国の数を考えると、ここ100年で一番厳しい戦いになるかもな」
「これ見て。今はW国の北西、Ω、α、β国に面したところを厚くしてるんやが・・・支配済みのA国とB国で反乱軍が動いてるらしい。立派な人手不足や」
うわあ。
トントンの広げた地図を見て、オスマンは思わず声を上げた。
なぜあの難攻不落とも謳われたW国が苦戦を強いられているのか。
理由は簡単、W国の周囲が一斉に宣戦布告してきたからだ。
といっても白尾国は除いて。
つまり白尾国に頼れば、そこから通じて運営国、日常国を味方につけることができるが・・・それはW国より小さく土地に望まれない白尾国を巻き込むということになる。
これだけは面々が避けたいシナリオなのだ。
「今はひとらんやシャオロン、コネシマ達の各部隊が頑張ってくれとるけど・・・ なかなかに手強い上にA、B国の方まで意識を回すとなると大分厳しいな」
「前線部隊もある程度のところで引き上げてもらわんと、キリがないどころか戦況が悪化するだけやもんね」
「よくわかっているじゃないか。そこでオスマン先生が大事なんだゾ?」
「分かっとるわ。今は副外交官───チーノと、護衛にショッピ君を送り出しとる。相手国には危害を加えないよう話をしてあるけど、ここでどう出るかによっては世界大戦にもなりうるな」
ここ一帯の連合国の間では外交の際の契約を結んでおり、その一つにこのルールが含まれる。
それを破るとなると連合中からバッシングを受けるのは避けられないため、ひとまずここは安心だろうという目論見であった。
「───・・・さて。雑談は終わりだ、糖分も摂取したことだし、各持ち場に戻ろう」
「ほれ書類。追加で回ってきとるで」
「ギャア許してクレメンス!!」
早速騒ぎ始めた二人を見て、この調子ならまだ大丈夫だろう、とオスマンは思考を巡らせた。
「じゃ、仕事頑張るめう〜」
ぐい、と伸びを一つ。
アシンメトリーを揺らしてオスマンは情報管理室へと足を運ぶのだった。