第6話 「危ない服屋さん」
前回のあらすじ
シャルルと混浴し、添い寝し、デートの約束をしました。
キィヨォ!という聞き慣れない生き物の鳴き声が目覚ましとなり、奏は眠りから覚めた。
「ん……んぁあ…」
寝転びながらVの字に両手を伸ばし、硬くなった体をほぐす。伸びきったのを確認し、奏は目を開いた。目の前には、日光浴をする猫のように幸せそうな寝顔をしているシャルルがいた。
「……え?」
奏は、あまりにも衝撃的な光景に思わず言葉を漏らした。そう…昨日は疲労が溜まっており、脳が正常に働いていなかったのである。故に、シャルルをベッドに誘った記憶もなく…この有様というわけだ。
とりあえず起こさないと……
体を左に捻ってシャルルのことを起こそうとすると、「んんぅ……」という、起きることを拒むようなうめき声で拒絶されてしまった。
「はぁ…いい加減に起きなよ……ん?」
奏の視界の端を横切った、謎の黒い影。小さい体で俊敏な動きをするヤツは、カサカサと翼をこすれさせ動き回っている。そのヤツとは、黒い悪魔とも言われ、Gと恐れられた……
「ゴ!ゴッゴゴゴキブリ!? 」
久凪は誰に殴られ蹴られてもすました顔で受け流すことの出来る肝の座った男だが、虫関連のいじめはとてつもなく苦痛だった。特にゴキブリは……ゴキブリに不意をつかれた奏は、足に絡まった布団に足を奪われ…シャルルの方に倒れかかってしまった。
「ん……んぅぁ?」
タイミング悪く、いや…この時を待ってたと言わんばかりにシャルルが眠りから覚めてしまった。今の状況は、はっきり言って最悪である。
簡単に説明すると、シャルルの頭の両側に手を置いて、押し倒すような体制になっていた。
「え…えっと、これは?」
シャルルが奏を問い詰めた。
「ご、ごめん!そんなつもりじゃ……」
必死に自分の無罪を説明した。説明してる間、シャルルは少し顔を赤くしていた。どうやら、奏がシャルルに淫らなことをしようとしていたと思っているらしい。
「いや、いいんす。カナデのことは、それなりに信用してるっすから……でも、」
なにやら言葉を詰まらせ、足をモジモジさせながらなにかいいたげな様子だった。やっとの思いで口を開き、言葉を発するシャルル……
「私、女の子同士の恋愛は悪いことじゃないっすから、あまり気にすることじゃないっす。
私はなんとも思ってないんで、気にしないでいいっすよ!……」
「はは、は……」
どうやら励まされているらしい。シャルルよ、こういう時の励ましは逆効果だぞ……
瞳を少しウルウルさせ俯く奏。可愛い少女を慰めるためにカサカサ音を立てて駆け寄ってきたのは、少し肌黒い小さな……
「ひゃあ!!ゴキブリィ〜!?」
「元気になったみたいで良かったっす。」
ゴキブリ討伐は宿の人に託し、シャルルと奏は目的の服屋に向かっていた。街はいつも通りに賑やかだったが、なにやら今日は少し違うらしい。
「掲示板に人だかりができてるっすね…ちょっと見てくるっす。」
「え?あちょっと!」
掲示板に集まる人の間をすらすらと通り過ぎてゆき、シャルルは掲示板の前にたどり着いた。
掲示板には、指名手配犯の顔写真や子猫探しの依頼などの張り紙がしてあった。そして、その上から被さるように存在感をアピールしているのは1枚の新聞。民衆がみていたのはこれのようだ。
【号外、少女強姦組織”ヌリス”の一味と思われるモヒカンの男性ふたりが、首を斬られた状態で発見された。騎士団は、被害者の復讐とみて調査を進めている。】
「昨晩私のことを襲ったやつか?物騒な話しっすね。」
他人事のように新聞を読むシャルル…ひと通り読み終わったのか、奏の方へ戻って行った。
「なんの騒ぎだったの?」
「_どうやら、この街に近頃勇者が来るらしいっす。」
近くにあった適当な新聞の内容を奏に伝えた。
「勇者!?会ってみたいなぁ…」
シャルルが隠し事をしているとは知らず、勇者という単語に目を輝かせた。
「まぁそのうち会えるっすよ。私、あいつとは仲いいんで。」
「え!?そうなの?!」
シャルルねぇさんすげぇ…
と、心の中でシャルルを尊敬する奏の手を引っ張って、シャルルは掲示板を後にした。
「ここが服屋っす。」
「おぉ……」
目の前には…小さな丸い窓に花まで添えられた、赤い屋根をした可愛いらしい建物があった。服屋というよりレストランのような感じだ。
シャルルが扉を開けると、目の前には高級そうなヒラヒラしたドレスに店の明かりを反射してキラキラしているカッコイイ鎧まで、色々な種類の服が取り揃えられていた。
「ん?あらいらっしゃぁい♡」
店の奥から出てきたのは、紫色の髪をしたヒョロガリの男、いや…女?
「ロマンジさん、この子にあう服を取り繕って貰いたいっす。お金はこの子が出すっす。」
「あら、あらあらあんらぁ〜♡もしかしてお友達?シャルルちゃんと同じであたしのタイプドストライクだわ♡いいわよいいわよ!やってあげる。あなた、名前はなんて言うのかしら?」
「か、カナデです……」
「んん……グッド!!あなたに合った可愛らしい素敵な名前じゃなぁい♡あなたのこと好きになっちゃいそ☆んーまっ♡」
ロマンジは奏に向かってあっつい投げキッスをした。奏に向かってヒラヒラ飛んでくるハートを、シャルルが叩き落としてくれた。
「見ての通り、ロマンジは美少女に目がないっす。いい腕なのに残念っすけど…」
「あはは…面白い方ですねw……」
引きつった笑みを浮かべる奏、どうもオカマというものが苦手らしい。
「あぁ、そうそう。カナデちゃんの服だったわね。それなら、これとかどうかしら?」
「うげ……」と思わず声を出してしまった。ロマンジが持ってきたのは、前世でも馴染みのある服……メイド服やチアガールの服だったのだ。
「もぅ……そんな顔しないで♡これは単に私の趣味だから!付き合ってくれれば値段、安くするわよ?」
「はぁ……まぁ、安くしてくれるなら?」
渋々OKした奏、この世界に来てからというもの、男を失いかけている気がする。
「あら!カナデちゃん乗り気ねぇ♡じゃあこっちもお願いしちゃおうかしら♡」
カウンターの奥から次々と服を持ってくるロマンジ、シャルルの顔は見えないが……奏のコスプレを見たいのか止めに入らなかった。
「おいいい加減にしろ!!服は最大五着までにしてくれぇ!!」
アストヘルド全体に、奏の怒りの声が響き渡った……
第6話終了。オカマって難しいですね…
次回第7話、「シャルル・マーレ」
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