そして放課後はやってきた。
足音もせず教室のドアが空く。
時刻は深夜10時頃。
…ずっと、…ずっと待ってた。
僕はその人が近づくのを待たないで、胸に飛び込んだ。
太「あつ…しくん?」
敦「…ずっと、…ずっと待ってました…、来なかったらどうしようって」
太「…ごめんね、今日は任務で遅くなっちゃって」
太宰さんが優しく僕の頭に触れて撫でてくれる。今まで焦っていた心が少しづつ落ち着いて、しっかり呼吸ができるようになった。
敦「…、でも、良いんです。…貴方は此処に来てくれましたから」
太「…………ねぇ、敦くん、何があったの」
この人になら言ってもいいと思ってたのに言葉がどうしても思い浮かばない。
この人が、僕の話を聞いて、気持ち悪いと、思ってしまったらどうしよう。
離れていってしまったら?
僕はまた1人だけで苦しんで生きなきゃ行けないのかな、…、そんな事を考えるとどうしても言葉が出てこなかった。
太「…未だ話せないかい?」
敦「…ごめんなさい」
太「怒ってるわけじゃないよ」
怒ってるわけじゃないのは本当らしかったけれど、少し悲しい顔をしていた。
…思わずまたごめんなさいを告げそうになったけど、その前に太宰さんが口を割った。
太「君の話はまた今度。」
太「今日は私の話を聞いてくれるかい?」
敦「…はい。僕も聞きたいです」
太「良かった」
太「話、と言ってもね、職場の話しさ。とてもつまらない日常だよ。…今日の任務はね、ある組織のボスを捕まえて情報を吐かせる!っていう極平凡な犠牲の多く出る仕事だったんだ。」
敦「犠牲、とは死者ですね?」
太「それも含まれるね〜…あまり驚かない?」
敦「はい。何だか身近なような気がしますね。関係の無い人間なら何の感情も持たず殺してしまえるような気さえします。」
太「はは!君はマフィアに向いてるかもね?」
敦「仕事とか…大変そうなので却下です」
太「いずれ…、期待してるよ?」
太「…さっきの続きね。
今日向かった組織はいつもより数が多くてね〜、相棒と向かったんだけど、これまた厄介で倒す敵の数で競おうって話になった訳なんだ。」
敦「ちゃんと犯罪者だったんですね」
太「ふふ、まあね。そして私たち犯罪者は、敵を戦闘不能にしたわけ。」
敦「戦闘不能、てことは殺さなかったんですか?」
太「死んだ人もいるけど、あくまで情報を吐かせるための任務だ。殺すために倒したんじゃないよ〜、まぁ結局引き分けの勝負になってさ、。」
敦「その後どうしたんですか?」
太「1体1で勝負だ!とか言い出したから、私がちょーっと煽ったら、カンカンに怒ってぶっきらぼうに殴りに来るから、逃げてきた!」
敦「じゃあ此処にいるってことは…、その逃げ道の途中…??」
太「あの中也でも流石に校舎には入ってこないでしょ〜」
敦「相棒の名前は中也さんと言うんですか?」
太「そうだよ、」
敦「太宰さんが校舎内に入って来てるんですし、同じ組織の中也さんが入らないという訳にはならないんじゃ?」
太「…敦くんはやっぱり、ポートマフィアに向いてるよ、その思考を生かした方が良い。丁度蜥蜴が来た。」
太「隠れるよ。」
掃除用具入れにギュウギュウに入って、中也という人に気づかれないように待機する。
正直こんなにくっついて居るから何だか心臓が五月蝿くて隠れる所じゃ無かったけど。
思わず距離を取ろうとしても太宰さんの腕が肩を包むので逃げられない。
太「ごめんね〜、もう少し我慢」
もう限界に近いけれど、頑張って足を立たせた。
その時、ふとぶっきらぼうな足音が聞こえて来てその音が教室に入り込むと、ガシャン!と乱暴に掃除用具入れの扉が開けられた。
太「あーー、最悪ぅ、バレちゃった」
開いた扉からオレンジ色の少し長めの髪の毛がチラつく。
全て開き切ると横にいた太宰さんが胸ぐらを掴まれたのか引っ張られてその人に殴られそうになった。
それを既の所で太宰さんが止める。
中「手前!!!巫山戯んな!!いつか絶対ぇ死なす。」
太「中也ったら怖いなぁ、蜥蜴の威嚇が皮膚にチクチクするぅ」
中「…クソ太宰め…」
中「?!、こいつは誰だ」
敦「…、僕ですか」
太「彼の名は敦くんだよ。最近はずっと夜の校舎で会っているんだよ。ロマンチックだと思わないかい?」
中也さんは、どうしてこんな少年が夜の校舎に?、と、疑問を持っても良いはずなのに、それよりもまず、僕の姿を見て口を出した。
中「手前食事はちゃんと取ってんのか、?」
太宰さんと同じ質問をされて驚く。
敦「、朝食は食べたんですけど…全部吐いちゃいました」
中「病気か?」
敦「いえ、そういう習性です」
中「…太宰、手前またよからぬ事を企んでるな」
太「良からぬ事?…なんのことかな」
中「知らないフリもいい加減だぜ。」
中「此奴、睡眠も食事も全く取れてないって顔してやがる。」
太「私も心配したんだ。でも教えてくれない。私は其れを知りたいだけだよ。」
太「知ることが、良からぬ事とでも言うのかい?」
2人のやり取りを呆然と眺めているだけの僕の頭に手を触れている中也さんが、苦い顔をして、“何があった”と聞いた。
敦「マフィア、と言っても、優しい人ばかりなんですね。僕はこれが日常なんです。大丈夫ですよ」
あえて質問には答えない。
ただ、その優しさに心が熱いくらいに痛くなって未だ此処にいたいと思った。
今度こそ家に帰ったら最悪なことになる。
それでも僕は帰らなくちゃ。
敦「もうこんなに遅い時間です、、僕帰りますね」
中「…おい!待てよ、」
振り返らずに路地を歩いた。振り返らなかったのは、この現実から目を逸らさないため。
心を無にして行かなければ屹度今日は耐えられない。
路地を歩く。
帰る。
帰らなきゃ。
中「…待てって言ったのによ」
太「敦くん、もう少し待って」
2人の声に、無と化していた心が溶かされて殆ど泣きそうな顔になる。
…振り返ってしまった。
もう後戻りは出来ない気がした。
コメント
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泣いちゃいます😭😭