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えー、俺が今、どんな状況かというと……。
「我《われ》はお前の体に宿る、その力を我《われ》の体の一部にして、この世界の王になる! その野望を叶《かな》えるためには、お前が邪魔だ! さっさとくたばるがいい!!」
「お前みたいなやつに、この力を渡すわけねえだろ!」
洞窟《どうくつ》の主《ぬし》である【エメライオン】(体長十メートルほどの獅子《しし》)と戦っています。
「なあ、『|力の中心《センター》』! 第二形態になるにはどうしたらいいんだ! 俺の体力が尽《つ》きる前に教えてくれ!」
俺は『|大罪の力を封印する鎖《トリニティバインドチェイン》』という十本の鎖《くさり》を背中から出して戦っている最中に、俺の体の中にいる【誕生石】の一つ【アメシスト・ドレッドノート】にそんなことを訊《き》いた。
ちなみにこの時、俺の目は黒から赤に、髪《かみ》の色は黒から白に変わっている。そして、俺の鎖《くさり》はもともと彼のものである。
「我《わ》が主《あるじ》の願いは理解した。しかし、第二形態になれるかは……」
「俺次第ってことか? 定番だな、おい」
俺は【エメライオン】の攻撃《こうげき》を回避《かいひ》しながら、そう言った。それに対して、彼は。
「第二形態になるということは、人ならざる者《もの》への階段を上がるということだ。我《われ》の力を先代の誕生石使いが使わなかったのは、それだ」
「へえ、それは……すごいな」
注:これからのナオトのセリフの『……』は【エメライオン】の攻撃を回避している時です。
「だが、それ故《ゆえ》に強力な力を手に入れることができる」
「『|紫水晶の形態《アメシスト・モード》』と比べて、体の負担は……大きいのか?」
「いや、あれとは根本的《こんぽんてき》に違う。あれは最終形態に似ているが、所持者の潜在能力《せんざいのうりょく》を無理やり引き出すため、体にかかる負担は極《きわ》めて大きい。【暴走】の一歩手前の形態と言っても過言《かごん》ではない」
「そっか。で? 第二形態になるには……何をすればいいんだ?」
「……もし、我《われ》を今以上に受け入れることができればなれるやもしれん」
「なんだよ、お前自身もよく……分かってないじゃないか」
「我《われ》と適合できたのは先代を除いて主《あるじ》だけなのだ。仕方ないだろう」
「それも……そうだな。なあ、先代の誕生石使いって【誕生石】をそれぞれ体のどこに……入れてたんだ?」
「我《われ》が知る情報によると頭部、右腕、左腕、右足、左足にそれぞれ五つ。そして胴体《どうたい》に二つだったそうだ」
「お前がもし先代に使われてたら……どこに入ってたんだ?」
「うーむ、おそらく胴体に入っていただろうな」
「どうして……そう思うんだ?」
「胴体に入っていた二つはそれぞれ胸筋《きょうきん》の中に入っていた。よって、我《われ》が入っていたであろう場所は……」
「【へそ】ってことだな。なるほど、なるほど。たしかに【へそ】には入れたく……ないな」
「そういうものなのか?」
「母親と繋《つな》がっていた場所に何かを入れるなんてことは、普通のやつはしない……からな」
「もし、主《あるじ》なら、そんな時はどうするのだ?」
「えっ? 俺か? そうだな……まあ、勝つためなら【へそ】の中だろうと【〇〇たま】の中だろうと入れるだろうな」
「……なるほど……よし、今の言葉を忘《わす》れるなよ? 我《わ》が主《あるじ》よ」
「ああ! もちろんだぜ! 相棒《あいぼう》!」
俺は【エメライオン】の隙《すき》をついて【エメライオン】がひっくり返るくらいの蹴《け》りを額《ひたい》に入れて着地した。
注:空を飛べるのは、チエミ(体長十五センチほどの妖精)から風の加護(かご)を受けたからである。
「よし、今だ! 第二形態になれ! 我(わ)が主(あるじ)よ!」
「なあんだ、意外と簡単じゃねえか。あと、俺のことは、これから名前で呼んでくれ。堅苦《かたくる》しいからさ」
「承知《しょうち》した。では、ナオトよ。第二形態に名前をつけてくれ」
「名前? うーん、そうだな」
「早く決めろ、やつが襲《おそ》ってくるぞ!」
「分かってるって! えーっと……」
第二形態か……うーん、『ア〇メが斬(き)る!』に出てくる『イ〇クルシオ』みたいな、かっこいい名前がいいな。かっこいい名前……かっこいい名前……おっ! これでいいんじゃないか!
俺がピコン! と思いついたその名前は、かなりかっこいい名前だった。
『|力の中心《センター》』にそれを教えている時、その声は【エメライオン】が動く音でかき消されてしまった。
「よし、それで行くぞ! ナオト!!」
「ああ! やろうぜ! 相棒《あいぼう》!!」
「ベラベラと独《ひと》り言《ごと》を言いながら、ちょこまかと動きおって! 正々堂々、戦わんか!」
【エメライオン】は怒《おこ》りながら、そう言った。その後、俺はニシッと笑った。
注:【エメライオン】には、彼が彼の相棒と話している間は、彼の声しか聞こえない。
それは、彼の相棒が念話で彼に話しかけていたからである。
分かっているとは思うが、ナオトの『……』は【エメライオン】を蹴《け》った後《あと》からは、間《ま》を表している。
「これから見せてやるよ! 俺の……いや! 俺たちの新しい力を! 行くぞ! 相棒《あいぼう》!」
「承知《しょうち》した! 我《われ》と共《とも》にやつを倒《たお》すぞ!」
「言われるまでもねえ! やってやるさ!」
「よし、ならば共《とも》に叫《さけ》べナオト! 熱《あつ》い魂《たましい》で!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その時、ナオトの体から放たれた風圧は【エメライオン】だけでなく、その場にいる全ての生物の体を震《ふる》わせた。
____そして、遂《つい》にその時はやってきた!
『【|白くあどけない香雪蘭《ホワイト・フリージア》】アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
その時、ナオトの体から放たれた風圧はその場にいる全ての生物が吹き飛んでしまうかもしれないような勢いであった。
メルク(ハーフエルフ)は瞬時《しゅんじ》に半球型の結界を張って自分とマナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)とナオトのバッグを守った。
【エメライオン】は必死に地面を踏《ふ》みしめて、吹き飛ばされないように踏ん張っていた。
それが止んだ時、ナオトの姿が一変していた。
全身を覆《おお》う『白い鎧《よろい》』と『紅《あか》い瞳《ひとみ》』が特徴的であったが、鎖《くさり》の数は変わらず十本であった。
「これが俺の……いや、俺たちの新しい力だ!」
俺が両手を開いたり閉じたりして、自分の力がどれほどまでになったのかを確認していると【エメライオン】が嘲笑《ちょうしょう》しながら言った。
「ふん! 姿が変わったところで、我《われ》には到底《とうてい》及《およ》ぶまい!」
俺は【エメライオン】の方を見上げながら、こう叫んだ。
「それは今から証明してやるよ! 未来のことは未来予知でもなけりゃ分からないからな! それじゃあ、行くぞ! エメライオン!」
「望むところだああああああああああああああ!!」
「第二形態の力を見せてやる……『電光石火《ジェットアクセル》』!!」
その時の俺には、こちらに襲(おそ)いかかってくる【エメライオン】の動きがとても遅《おそ》く感じられた。
『電光石火《ジェットアクセル》』は鎖《くさり》の力を入手した時から使えたが、今回は明らかに違った。
俺の目が相手の動きについていけるようになったということなのだろうか?
いや、だとしたら今ごろ俺はやつを瞬殺《しゅんさつ》しているはずだ。だとしたら、これが第二形態の効果だということだな。
そんなことを考える時間があるほど、やつの動きが遅《おそ》く感じたため、俺は【エメライオン】の額《ひたい》に狙《ねら》いを定めると、大地を踏みしめた。
その後、圧縮されたエネルギーを一気に解き放ち、目標めがけて跳躍《ちょうやく》&飛行した。
「これで! 終わりだあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
俺の拳《こぶし》は【エメライオン】の額《ひたい》に直撃《ちょくげき》した。
その直後、『|若葉色の水晶《エメラルド》』製の体にピキピキと亀裂《きれつ》が入り、それは|徐々《じょじょ》に全身に広がっていった。
「戦いながら己《おのれ》の壁《かべ》を打ち破り、新たな力を得た……か。ふん、なかなか面白いやつだな。お前は」
「いや、それは違うよ。お前がいたからこそ、俺は新たな力を手に入れることができたんだ。ありがとう、【エメライオン】」
「己《おのれ》を進化させた敵に感謝をする戦士……か。ふん、それもまた、一興《いっきょう》やもしれんな……ナオトよ、お前に全二十八の誕生石の一つ、『|若葉色の水晶《エメラルド》』の力を与える。受け取ってくれるか?」
「試験は合格……ってことだな。いいぜ、お前の力は俺がきっちり受け取ってやる! だからもう、ゆっくり休んでくれ。これからは、俺が……いや、俺たちがお前の力を受け継ぐんだからよ!」
「そうか。ならば、我《わ》が身に触《ふ》れよ。さすれば、お前の望みは叶《かな》うだろう」
「ああ! 分かった!」
俺が【エメライオン】の方に駆《か》け寄《よ》ると、【エメライオン】は俺の方に額《ひたい》を近づけた。
「えーっと、さっき俺が壊《こわ》したところが空洞《くうどう》なんだが、大丈夫なのか?」
「問題ない。さあ、お前の手で我《われ》の中にある力を掴《つか》み取《と》るがいい!」
「……ありがとう【エメライオン】。お前が今まで守っていた力……大切に使わせてもらうよ」
俺はそう言いながら、【エメライオン】の額《ひたい》の穴に手を入れた。
すると、少し進んだところに何かがあったため、俺はそれを取り出した。
それは、辺《あた》り一帯を照らすほどの黄緑色の光を放ちながら、俺の手を離《はな》れると空中をふわふわと飛行し、胸骨《きょうこつ》あたりから俺の体の中に入ってしまった。
「これで終わりか? なあ、【エメライオン】。今のでおわ……」
「さらばだ、二代目の誕生石使い。また会える時を楽しみにして……いる……ぞ」
そう言い残して【エメライオン】は黄緑色の光の粒《つぶ》となって消えてしまった。まるで最初からそこには何もいなかったかのように……。
「……ありがとな、【エメライオン】。お前のこと、絶対に忘れない。また会えるといいな……」