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なんで書けないの?
馬鹿なの?
死ねばいいのに
それしかできないんでしょ?
暗い部屋のなかパソコンを前に爪を噛む。
小さい頃からのくせなんだ。
口の中に血の味が広がる。
親指を見ると赤く染っていた。
髪の毛を鷲掴みにする。なんで。なんで。
こんなこと一度もなかったのに。
いつだって無限にアイディアが湧いてきて、追いつくことの方が難しくて。
調子にのってるんだろ。ちょっと売れたからって。
すぐ飽きられるんだ。曲を書かなきゃいけないのに。
鼓動が早すぎる。
両手で胸を抑えたってなんの意味もない
手足が痺れる。
息ができないよ。
助けて。
お願い。
寒い。痛い。苦しい。
死にたい。
元貴?
元貴の部屋から大きな音が聞こえた。
キーボードの鍵盤から手を離し、立ち上がる。
どうしても明日レコーディングする曲が弾けなくて、練習してたんだ。
元貴は今制作期間だった。ずっと寝不足みたいで、目にしたに濃いクマができてた。
僕は暗い廊下に出て元貴の部屋のドアに手をかけた。
荒い息が聞きえてくる。それとどんどんという鈍い音。
「元貴?」
僕はドアを開けた。元貴がパソコンの前に座っていた。
肩を丸めて胸を押さえ込んでいる。肩が大きく上下していた。それに合わせて早すぎる荒い呼吸が聞こえる。
元貴は自分を殴っていた。固く握りしめた拳で。
「…だめだよ!元貴!」
僕は元貴の右手を掴んだ。
髪で隠れて表情が見えないが、全身で僕から右手を引き抜こうとする。
で僕は元貴よりずっと大きいんだ。
僕は右手を掴んだまま元貴の前に回り込んだ。
真っ白い顔に汗だくで、そして泣いていた。
「…ねえ!離して!…お願い。お願い。」
「落ち着いたら離してあげるから。僕の口をみて。一緒に呼吸しよ。」
僕は口を大きく開けて深呼吸を繰り返した。
元貴は目を開けて、それを真似る。
「そうそう、上手だよ」
両手で包み込んだ元貴の手が震えている。
でも少しずつ、落ち着いて。聞こえるのは鼻を啜る音だけになった。
「何があったのか、話してくれる?」
「…書けないんだ。書けなきゃ生きてる意味なんてないのに。…死にたい。辛いよ。みんな居なくなっちゃう。」
元貴はぽつりぽつりと話した。
僕は元貴を抱きしめた。
「僕とひろとはずっと一緒だって知ってるでしょ。忘れられても、ずっと3人で音楽、しよう。
元貴が書けるまで待ってるから。」
元貴は泣いた。昼は仕事で夜は制作。
こうしてハグをしたのはずっと前だった。