コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ミスれば、いいのに」
そう呟いてしまった瞬間、
私はその無意識の僻みに驚き口を塞いだ。
幸い、歓声の声が大きく、
誰にも聞こえていなかったようで安堵する。
現在、私が座っているのはベンチ。と言っても、
公園にあるようなものではない。
私はバスケットボール部の一員として、
レギュラーとして試合に出ている。しかし、
先ほど軽い接触をしてしまい、
交代を余儀なくされたのだ。そんな中見る試合。
今まではこちらの方が点数を取っていたのだが、
もうほとんど差はない。時間が経てば、
逆転を許してしまうだろう。普段の試合ならば、
これを糧に練習に励もう、とも
切り替えられるのだが、
今回はそう簡単に切り替えられない、
理由があった。
『さすが決勝戦!
今まで以上に白熱した戦いです!』
決勝戦。この試合は決勝戦なのだ。
今まで勝利してきたからこそ来れた場所。
その、最も大事な試合で負けるわけには、
いかないのだ。
その必死さは僻みとなった。
相手が怪我をすれば。
相手がシュートでミスをしてしまえば。
相手がドリブルをできなくなってしまえば。
そんなマイナスなたられば。
正々堂々、真剣に、勝負をすべきなのに。
でも、勝つには、勝って欲しいなら、
何を考えれば良い?
分からなかった。
そんなたらればを思った罰か。
今回の決勝戦では逆転され、準優勝という結果で
終わってしまった。暗い雰囲気は、
チームに関係のない人すら、
巻き込みそうなほど。それを払拭しようと、
キャプテンが大きく声を上げる。
「みんな頑張った!悲しんでばかりじゃダメ!
これでまた一歩成長すればいい!
冬、勝って!」
他のメンバーはその声に応えたが、
私はあの罪悪感で俯いたままだった。
だから、それをキャプテンが見ていたなんて
知らないまま、帰宅してしまった。
翌日。勝ちだろうが負けだろうが決められていた、
予定通りの練習だ。今まで以上に真剣に
練習に励むメンバー。それを尻目に、
私はマネージャー業務をこなしていた。
こんな中なぜ練習しないのか。
勿論、仕方なくだ。練習しなければ、
置いていかれるという焦燥が生まれてしまう。
しかし、昨日の怪我が思ったよりも酷く、
悪化を防ぐ為にとドクターストップが
かかったのだ。怪我をしたのは足だったので、
なるべく負担をかけない動きで
業務をこなしていく。
時折手伝うことはあるものの、
足に負担をかけないように意識しすぎたせいか、
作業が終わった頃にはもう部員たちは
モップ掛けの段階に入っていた。
見学で少しでも先輩から学べれば、と
思っていたが仕方がない。
ため息をついて、
自分の荷物をまとめることにした。
「__ちゃん!」
そう、キャプテンに呼ばれた。もう校門を出る、
というところだったので、
まさか呼ばれるだなんて思わず、
過剰に肩を揺らして後ろを振り向く。
「よかった、まだ帰ってなくて」
「・・・?」
長い髪を揺らしながら、先輩は走ってこちらに
寄ってくる。そんなことを言われる理由が
思いつかず、首を傾げた。そんな私の姿に笑い、
彼女は言った。
「一緒に帰ってもいい?」
「あ・・・はい」
戸惑いはあるものの、断る理由など思いつかず、
そう返事をした。
「そっか!よかった!」
裏など感じない屈託のない表情に、
肩の力が抜ける。それを見越していたわけでは
ないのだろうが、先輩の方も私を見て
安心したようだった。
「足の怪我、大丈夫?荷物持とうか?」
「い、いえ!先輩の手を煩わせるほどでは!」
「気にしないでいいんだよ!ほら」
そんな流れで。自然な動作で荷物を取られ、
動きが鈍っている私になすすべはなく、
そのまま並んで歩くこととなった。
この光景を他の部員が見たら何事だと
思われるだろうと、私は内心怯えながら歩く。
一方の先輩はそんな事
気にも留めていないのだろう。
わざわざ私に歩幅を合わせて歩いてくれる。
「__ちゃんは、何か悩んでる?」
「!?」
直球すぎる不自然なタイミングで問われたそれに
私は驚いた。何故バレたのか、
それを話すためだけにわざわざ先に出た私に
追いつくように走ってきたのか、
疑問に思うことだらけだ。
直球だった自覚はあったのか、
すぐに謝罪の言葉が飛んできた。
「って、ごめんね。これじゃ直球すぎた!」
「い、いえ、大丈夫です」
「えっとね、決勝終わり、__ちゃんが
悩んでるように見えて・・・
周りは先輩ばかりだったし、
色々打ち明けにくいこともあったんじゃない?
まあ、私も先輩なんだけど・・・
話して欲しいな!引き継ぎまでとはいえ、
まだキャプテンはってるわけだし!」
「悩んでいるように、見えたんです、か?」
「うん!先輩の勘、かな!」
その、付き合ったことのないノリに流され、
私たちは喫茶店に入った。外で話すには
気温が高すぎたからだ。
「あっつかった〜。飲み物でも頼もうか!」
「あ、はい・・・」
促されるまま各々注文をする。
注文をただ待つことはしないのだろう。
先輩はこちらを伺っているようだ。
話すべき、なのだろうか。
この自分自身の罪を。
「大丈夫!この話は必要無かったら
他言はしないし、
できる限りアドバイスもするから!」
「必要無かったら、って・・・」
「ほ、他のチームに何かされたとかだったら
言わなきゃいけないからねっ!?」
信じてもらえなかったと思ったのか、
先輩は焦ったようにそう言った。
なぜだか無責任に他言しない、と言われるよりも
信じることができて、肩の力が抜ける。
先ほどのためらいはどこへ消えたのか、と
思ってしまうほど、スラスラと自分の想いを
吐露してしまう。
「私、試合中に怪我をしてベンチに戻されて、
その時、相手チームに逆転されそうになってて
おもわず、ミスればいいのに、って、
言ってしまったんです。言ってしまえば、
たったそれだけのことなんです。
重くもなんともないんです。
でも、私はこれが罪だと思った。
プレイヤーなら真剣に勝負しなければ
ならないのに、相手のミスを願うなんてこと、
したく無かったのに。今までそんなこと
なかったのに。そう思ってしまったら、
思考がまとまらなかったんです。勝つなら、
相手がミスをすればいい、と思ってしまった
自分が、恥ずかしくて・・・!」
だって、その思考になってしまったら。
「もう、私たちの努力も、相手の努力も、
否定しているのと同じなんです・・・!」
「・・・そっか」
先輩は比較的落ち着いていた。
泣きそうだった私にハンカチを手渡し、
そう呟いた。先輩らしからぬ、小さく、
ぎりぎり聞こえる程度の呟き。
「泣かないで、ね?」
「泣いて、ません・・・」
ハンカチは受け取ったが、
それを目に当てることはしなかった。
泣けば、その罪から逃げているのと
同義なのでは、と思ってしまったからだ。
「うんうん。__ちゃんは強いよ。
自分でそこまで考えて、後悔できるんだから」
先輩は目を伏せた、だがそれは一瞬。
不思議に思う間も無く、彼女の口が開いた。
「じゃあ、私なりにアドバイス、しようかなっ」
彼女は笑顔だ。だが少し、影があるように
感じてしまうのは、何故なのだろう。
「私のアドバイス、きっとすごく効くと思うよ!
だって、______私もその感情を
持ったことがある、当事者だったから」
きっと、これが全ての理由だろう。
「私もね、一年の時にレギュラーになったんだ。
ほら、この高校、実力主義の権化、って感じで
三年生だからー、とかそういうのないでしょ?
ってこれは関係ないか!」
重い話と捉えられたくないのだろうか、
それとも彼女がそう言った内容を話すのを
苦手としているのか、真相は定かではないが、
なんとなく無理をしているように感じられる
喋り方。
「__ちゃんと同じ、あの試合に
出たんだけどね。私は初めベンチスタート。
先輩の消耗が激しくなって、
私が交代で出たんだ」
もうその続きは、
聞かなくても予想できてしまった。
「私が入ったと同時に、逆転されたんだ。
それで、点差は埋められないまま、
むしろどんどん離れていった」
今でこそキャプテンとして、部員を引っ張る力、
部員がその姿について行きたい、と思うほどの
実力を兼ね備えている先輩。
だが、初めから強いものなどいない。
「他のメンバーの先輩たちは、善戦したって
言ってて。でも私はね、ベンチにいる間に
こう思っていたんだ。でもそれは、
試合中も少し思ってしまって。
邪念があったから。だから、負けたのは
私のせいだって、思ったの」
「こう、思っていた?」
「・・・相手が、負けてしまえばいい。
シュート、できなくなればいいって」
「・・・!」
「あははっ。そんなに驚かないで?」
おおよそ、私が思っていたことと同じ。
だがそれを、先輩も思ったことがあるなんて。
その驚きは顔に出てしまったのだろう、
苦笑いで、自嘲するように言った。
「ダメだったなって。そう言う思考は、
真剣勝負を望む私たちに必要ない想いだって、
気づいたよ。
それで、勝ちたいのならどう思えばいいのか、
どういう意志を持てばいいのか、
考えたんだ」
「その意志っていうのは?」
答え合わせを初めからしてしまうなんて、
狡いだろう。
しかし、もう私は追い詰められていた。
昨日と今日、考えても考えても、
答えが纏まらなかったのだから。
「・・・その様子だと、自分で考えたんだね。
なら、大丈夫。私もそれに答えてあげるよ」
「ありがとう、ございます」
「うん。いいんだよ、大丈夫。
私はね、自分が勝つ、って思うようにした」
「っえ?」
もったいぶらずに出された答えは
当たり前のことのように見えて。
思わず声を出してしまったが、
それは予想済みだったのだろう先輩は
そのまま続けた。
「相手が下に行くようにじゃなくて。
自分が上に行くことを目指すようにしたんだ。
相手がシュートミスすれば、じゃなくて、
私が絶対にシュートを成功させる!とか。
相手のミスじゃなくて、自分の成功を思うの。
同じ意味のはずなのに、全然違うことのように
見えるでしょっ?」
「自分の、成功を・・・」
「これからの意志はあなた次第で変わる。
罪の意識が残らない試合が、
きっとあなたの糧になる。これは私の例。
他の人は違うことを思っているかもしれない。
でもあなたは自分の意志を貫いて?」
「自分の意志を貫く・・・っ先輩、
ありがとうございます!」
もう、意思は決まっていた。自分で考えろ、
なんて思われるかもしれないけれど。
それでも私は、彼女の話に感銘を受けた。
尊敬する彼女と、同じ意志を、継ぎたい。
「いいんだよ、大丈夫!
これでもう、__ちゃんは、成功できるね!」
「はい!」
頼んだ飲み物は既にきて、冷めてしまった。
しかし、私の心はそれと反比例するように
熱くなっていく。
___ 早く、バスケがしたい。
「そのためにもまずは、怪我治さなきゃね!」
「はい!」
もう間違えることはない。
耳馴染みのあるスキール音。
プレイヤーの荒い呼吸。
いつもなら聞こえる音は聞こえない。
ひとり静かな空間に立たされているのでは
ないかと錯覚する。
ボールが自身の手から離れた。
同時に、その静かな空間に、
無遠慮なブザーの音が鳴り響く。
私は願う。
(シュート、成功して!
私の今までの練習の成果、出せるように!)
ブロックが失敗しろなんて思わなかった。
諦めたわけではない。だが、ブロックされたか、
なんて結果は見ずに、目を閉じた。
ボールが、ネットをくぐる音がした。
『優勝_____高校』
その瞬間、自陣のベンチからの歓声。
仲間からの、タックルのような抱きつき。
もう、罪なんて感じなかった。
______________________
どうでしたでしょうか!
ちなみに先輩が思ってるのは
私が考えたものです。
皆さんに強制しようとか、
そういうのじゃないのでご安心ください!
ただ、相手を下に持ってくるより
自分が上に行くのを目指した方が、
勝負としていいんじゃないかな、と
思っただけです!
ちなみに寝ぼけて書いてるので
誤字脱字あったらすみません・・・
では、閲覧!
ありがとうございました!