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「せ、先輩、これからどこ行くんですか?」
「ふふふ、心配しなくても大丈夫ですわ。晴翔様にちょっとだけ、お願いがありまして」
「なんですか?」
「私、お見合いばかりで、恋愛は初めてなのです。なので、普通のデートがしてみたいのです。高校生がしている、普通のデートが」
普通のデートか。俺も決して経験が豊富なわけではないが、先輩の助けになってあげたいと、そう思った。
「わかりました。そのくらいならお安い御用です」
「ありがとうございます。まずは、ショッピングモールと言うところに行ってみたいのですが」
「ショッピングモールですか?」
「えぇ、恥ずかしながら、行ったことがないので。買い物は使用人の皆さんがやってくれますし、お爺さまが危ないからダメだと言うんです」
あのお爺さん本当に過保護なんだな。まぁ、それだけ先輩のことを大事に思っているのだろう。
「ですが、今日は晴翔様が居ますからね。安心しています」
「出来る限り、しっかりエスコートさせてもらいます」
俺達は、車に揺られながら目的地である、地元の大型ショッピングモールへ向かった。
ーーーーーーーーーー
「うわぁ、結構大きいですねぇ。それに人がいっぱいです」
「そうですね、ここら辺では、一番大きな施設かもしれませんね」
ここのショッピングモールにも、結構お世話になってるな。香織と綾乃ともここでデートしたっけ。今では懐かしく思えるな。
俺達が車から降りると、運転手の女性がそっと近づいてきた。
「齋藤様、本日はお嬢様のこと、よろしくお願い致します」
「はい、任せて下さい」
キリッとした顔立ちで、スーツに身を包むその姿は、出来る大人の女性といった感じだ。格好良いな。
「彼女は、私の専属ドライバーの葛西さんですわ。彼女見た目はあれですけど、結構ドジっ子で可愛いんですよ」
後半は、本人に聞こえないように、声を抑えて俺に教えてくれる先輩。あの見た目でドジっ子って、そんなわけが・・・。
葛西さんは、挨拶が終わると颯爽と運転席の方へ歩いて行った。
「んぎゃ!?」
そして、見事に転んだ。マジか、何もないところで転ぶなんて、さすがドジっ子。
少し痛そうに顔を抑えているが、俺たちがいることを、思い出したのか、ハッとこちらを振り向いた。
「齋藤様、今何か見ましたか?」
どうやら無かったことにしたいようだ。
「いえ、何も」
しかし、転んだ女性をこのままにするのも忍びない。俺は、葛西さんに手を差し伸べた。
「あ、ありがとう、ございます」
少し、遠慮がちに俺の手を取ると、その場から立ち上がった。あれ、顔が汚れてる。俺はハンカチを取り出すと、そっと汚れを拭いてあげた。
「ひゃっ!?」
ん?なんかいま、変な声が聞こえたような。
「な、なんでもありません。そういうことは、お嬢様にしてあげてください」
咳払いをしながらそう言う葛西さんは、ほんのり頬をそめ、照れ臭そうにしていた。
「でも、今は葛西さんに必要そうでしたから」
「ふふ、優しいのですね。ちゃんと洗って返しますね」
そう言って、両手でハンカチを包んでしばし見つめていた葛西さんだったが、顔を上げると、ハッとした顔をして、そそくさと車へ戻ってしまった。
「す、すみません!では、あとはお二人で!」
一体なんだったのだろうか。一瞬先輩の方をみていたようだったが。俺は、先輩の方へ振り返るが、いつも通り笑顔の先輩がいた。
「すみません、先輩。では、行きましょうか」
俺は、先輩に手を差し出そうとしたのだが、先輩が掴んだのは、手ではなく腕だった。
「ふふふ、では行きましょうか」
ーーーーーーーーーー
「まずはどこに行きましょうか?」
「えっと、そうしましたら晴翔様に選んでもらいたいものがありまして、よろしいですか?」
「はい、いいですよ」
この時の俺は、確かにそう言ったのだが、まさかこんなことになるとは思っても見なかった。
目的地の店に着くと、先輩はどんどん中へと入って行く。俺はというと、足がすくんで入ることが出来なかった。
「どうされました?」
「い、いや、だってここ。女性用水着の店ですよね?」
「そうですよ。でも、カップルですから問題ありませんよ」
いやいや、問題大有りですよ。俺は最後まで抵抗したが、店の前で駄々をこねている訳にはいかず、渋々中へ入ることに。
「晴翔様は、どのような水着が好みですか?」
「えっと」
俺は、先輩の方をみる。先輩は一見スレンダーな体格に見えるが、出るところはしっかり出ていて魅力的な体型をしている。
「ふふふ、ではワンピースとビキニではどちらが良いですか?」
「そ、そうですね、どちらかというと」
「いや、やっぱり着たところ見て判断してもらいましょう」
名案ですわ!と両手を合わせて言う先輩。そして、何着かの水着を持って試着室に入ってしまった。
も、もしかして、しばらく1人ですか!?
俺は居た堪れなくなり、出て行こうかと思ったのだが、店員さんが声をかけてくれた。
「彼氏さん、別に堂々としてて大丈夫ですよ。誰も不審者なんて思いませんから、ほら」
そう言って、周りをみるように促される。店内には数名の女性が居たが、『大丈夫ですよー』と手を振ってくれた。
はぁ、みんな優しい人でよかった。
「ありがとうございます、店員さん」
「いえいえ、あの、間違ってたら申し訳ないのですが、HARU様ですよね?」
「は、はい、そうですけど」
「やっぱりですか!?あの、一緒に写真良いですか!?」
「良いですよ?」
俺は、店員さんと写真を撮ったあと、お礼がしたかったため、サインを書いた。そしたら、飛び跳ねて喜んでくれた。
こんなに喜んでくれるなら、良かった。もっとみんなに喜んでもらえるように、有名にならないとな。
「あのー、晴翔様」
「あっ、先輩、すみませー」
俺は振り返ると、言葉を失った。シンプルな三角ビキニであったが、今までに見た中で、一番綺麗だと思った。
「綺麗だ」
思わず、心の声が漏れてしまった。
「は、晴翔様、そんなまじまじと見ないで下さい。なんだか、恥ずかしいです」
「すみません、綺麗だったので、つい。先輩、似合ってます」
「あ、ありがとうございます。では、これにしましょう。あと何着か選ぶので待ってて下さい」
「はい」
はぁ、やばい。心臓が飛び出しそうだ。俺は、先輩の水着姿が頭から離れず、しばらく悶絶していた。そして、そんな姿を見て、周りの女性達もまた悶えていた。
「格好良いのに、さらに可愛いなんて!!」
「やばい、動悸がするわ」
「はぁ、ご馳走さまでしたぁ。お腹いっぱい」
店内は異様な雰囲気に包まれていた。そして、そんなお店の様子を伺う人物が居た。
ーーーーーーーーーー
「あ、あの、先輩方。これはどう言う状況ですか?」
「あぁ、桃華ちゃん来たのね。今日ハルくんが不知火先輩の家に連れて行かれたのよ」
「そして、今晴翔と先輩がショッピングモールに居るのを偶然見かけたから、尾行しているんだ」
「そんなことになってたんですね!教えてもらえて良かったです」
図書室の一件があってから、この3人の仲は深まり妙な友情が芽生えていた。一緒に魔王に挑む勇者の気分だ。
「それにしても、先輩方。偶然見つけたって言ってましたけど本当に偶然ですか?」
「「・・・」」
「はぁ、詳しいことは聞かないことにしますね」
「助かるわ。あっ、移動した」
「追いかけるぞ」
私達は、その後バレない位置をキープしながら2人を追いかけた。
「あーあんなに密着して!」
「あの人、見かけによらず積極的だな」
「あの人やっぱりやばい人ですよ!早くHARU様を助けてあげないと!」
その後、2人はある店の前で立ち止まる。ま、まさか水着の店!?
それに、抵抗しているハルくんを無理やり連れて行くなんて、許せん!
その後も、成り行きを見守ったが、なんだか終始和やかな雰囲気で時間が流れていった。
「あの人、見かけによらず、胸大きいわね」
「た、確かに」
「どうせ私はぺっちゃんこですよ、先輩方はまだ良いじゃないですか。ぶー」
それにしても、店にいる人全員がハルくんをみて、なんだか興奮している気がする。まぁ、確かにハルくんは、格好良いのに急に悶えだしたりするから。
あれ?あの人何してるんだろ?
「先輩方、あのおじいさん、ずっと水着屋さん覗いてますよ」
「ちょっと注意してくる」
「あ、綾乃ちゃん」
率先して行ってしまう綾乃の後を2人は追った。確かに、このおじいさんずっと覗いているけど、どこかで見たことある気がする。
「おじいさん、覗きは犯罪ですよ」
いきなり話しかけられて、驚いたようで、バッと勢いよく振り返る。
「なんじゃ、貴様らは。儂はあの子の祖父じゃ!必要以上にイチャイチャしないか監視しているんじゃ」
「え、もしかして、不知火先輩の?」
「そうだと言ってあるだろう。それにしても、お前達はなぜ澪を知っておる」
「私達の先輩ですから。ちなみに、ハルくんは私達の彼氏ですから」
「ほう、澪の後輩か。そういえば、あの小僧以外に女の子が2人ほど来たと言っていたな。澪のこと、これかもよろしくのぉ」
「はい、先輩にはお世話になってますから」
なんだ、良いおじいさんじゃない。心配して、損した。あ、でも、余計なこと言っちゃったかも。
「そういえば、さっき、あやつの彼氏だとか言わんかったか?」
わわわわ、どうしよう。綾乃ちゃん助けて!と振り返ると、綾乃ちゃんは、ふっと微笑むと一歩前に出た。
「私の自慢の彼氏です!」
言いやがったぁぁぁ!なんでこういう時はいつもポンコツなのかしらこの子はぁぁぁ!
「なんじゃとぉぉぉ!!」
それから、殴り込みそうになるおじいさんを3人がかりでなんとか抑え込み、説得した。その後、なんでこうなったか分からないが、4人で尾行することになった。