赤黒い空に、雷鳴が轟く。荒廃したアメリカ某所、その空間に新たな存在が降り立った。
——白川 歩奈。
189cmの長身、細身でありながら研ぎ澄まされた鋼のような身体。背中には、尻尾と翼が威風堂々と広がっている。
彼女の瞳には一切の光はなく、ただ深い闇のみが宿っていた。
「……待ってろ。」
その声は冷えきっている。だが、確かな決意と、抑えきれない殺意が込められていた。
美々華と霧島の壮絶な戦いを見下ろしながら、歩奈は降り立つ。花弁が舞う演舞の中にあっても、彼女の存在は異質だった。
「……美々華。」
その声に、美々華の動きがピタリと止まる。
「あれぇ、まさか……歩奈?」
美々華の顔に浮かんだのは、どこか楽しげな、しかしどこか焦りを含んだ笑み。
「師匠久しぶりですね」
「アンタに師匠呼ばわりされる覚えはない。」
冷たく、淡々とした口調。その声には、怒りも悲しみも超えた静寂があった。
霧島は、二人の間に漂う異様な空気に、ほんのわずかだが身を引く。
「で、師匠……何しに来ましたか?」
美々華の問いに、歩奈はただ一言。
「アンタを殺しに来た。」
次の瞬間、空間が裂けた。
——ズンッ!!
歩奈が抜いたのは一本の刀。その刀身には黒い雷が纏わりつき、空気を切り裂くたびに稲妻が迸る。
「……来るね。」
美々華は微笑む。だが、汗が一筋、こめかみを流れていた。
「妄想櫛棜——発動。」
歩奈が淡々とつぶやくと、世界が一瞬、歪んだ。
「……え?」
美々華の目の前から、霧島の姿が消える。いや、認識できなくなる。
「ふざけ……っ!」
その隙を逃さず、歩奈は距離を詰める。美々華の反応を完全に読み切った動き。
——ズバァンッ!!
美々華は間一髪で刀を受け止めるが、衝撃で地面にヒビが走る。
「あぁ、やっぱり師匠、強くなりましたね……。」
「アンタを超えるために、どれだけの血を流したと思ってる?」
歩奈は微笑みすら浮かべず、ただ冷たい瞳で美々華を見つめていた。
「……でも師匠はもう、うちには追いつけないよ。」
美々華は笑いながら言う。だが、その言葉に歩奈は反応しない。
「——”コピー”。」
次の瞬間、美々華の「誤認」が発動する。だが、それは歩奈のものだった。
——花が咲き乱れ、美々華を包み込む。
「は? ……なんで——」
美々華の驚愕をよそに、歩奈は静かに刀を構えた。
「お前のすべては、もう私の中にある。」
花と雷、そして闇が交錯する中、二人の戦いは加速する。
「——行くぞ、美々華。」