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シャワーを終え、洗濯物を乾燥機に突っ込んだところで、瑞野は脱衣場に入ってきた。
「俺も、シャワー浴びていい?」
「ああ」
その顔が先ほどまで憎まれ口をたたいていた彼と随分違う気がして、久次は瑞野を覗き込んだ。
「どうかしたか?」
「……ううん」
「もしかしてあいつから電話でもきたか?」
眉間に皺を寄せて覗き込むと、
「あ。……スマホ、先生の車に忘れたわ……」
瑞野は笑い、シャツを脱ぎ始めた。
「………」
その白い手がボタンを外していくのを見ていたら、何か自分はとてつもなく悪いことをしているような気になり、久次は慌てて目を逸らした。
「ソファと、ベッドとどっちがいい?」
誤魔化すようにタオルを準備しながら聞く。
「ソファでいい」
カチャカチャとベルトを外しながら、漣が短く答える。
遠慮しているのかとも思ったが、彼から見たら、26歳の自分は十分おっさんだ。
おっさんが寝たベッドなど嫌なのかもしれない。
「わかった。タオルケット準備しておくから」
「うん」
言うと彼は栗毛色の頭を僅かに縦に振った。
その覗いた首元が、赤く切れていた。
谷原に殴られた際、擦ったのだろうか。
しかし詮索は止めておいた。
憎まれ口はおそらく強がりであり、彼ができる精いっぱいの虚勢だ。
それを暴いてしまってはかわいそうだ。
久次は「のぼせるなよ」といってバスルームを出た。
ピーピーピーピー。
乾燥機の終了を告げる音で目が覚めた。
「…………」
いつの間にか、ベッド脇のデスクの椅子で微睡んでいた。
久次は頭を振って、薄暗い部屋を見回した。
……乾燥機もまだ終わらないうちに、照明を消しただろうか。
回らない頭で考えていると、
「先生……」
振り返る。
そこには久次が準備したTシャツと短パンに身を包んだ瑞野が立っていた。
「枕とタオルケットなら、ソファに置いたぞ?」
言うと、瑞野は首を振った。
「みず………」
「何をしてもいいから、一緒に寝てもいい?」
回らなかった頭に急速に血液が循環していく。
「何を馬鹿な……」
「じゃあ、何もしなくていいから、一緒に寝てくれる?」
瑞野はこちらを見つめたまま言った。
「何をしてもいいから。何もしないでもいいから。一緒に寝させて……」
「ダメに決まってるだろ…!」
言いながらわざとらしいまでに鼻で笑うと、
「……中嶋たちはいいのに?」
「だからあれは……」
「……いや今のは違う。先生を責めたいんじゃないくて」
瑞野は俯くと、苦しそうに首を左右に振った。
「……ごめん。先生」
そしてこちらを見つめ、今にも泣き出しそうな顔で言った。
「……巻き込んで、ごめんね。先生」
◆◆◆◆
ホテルの一室。
『俺のせいだ……。俺のせいで先生は……』
少年が泣いている。
『……巻き込んでごめん。先生』
西日が差す。
部屋に長くのびる二人の影が重なる。
『……違うよ。虹原。俺が、俺の方が、お前を好きになったんだ』
◆◆◆◆◆
気が付くと久次は、瑞野をベッドに押し倒していた。
髪の毛を撫で上げ、その唇に吸い付く。
「………んんッ。せんせ……」
彼の幻想に縋るように、その唇に舌を挿し入れ、吸い付く。
「……んッ……はぁ……」
彼の桃色の唇から、熱い息が漏れる。
それを勝手に肯定と解釈し、Tシャツの裾から指を差し入れる。
滑らかな腹を撫で上げ、彼には少し大きなTシャツを捲り、胸に指を這わせる。
「……んッ……」
中指がその突起に触れる。
「……あッ!」
優しく引っ掻くように刺激し続けると、その腰が悩ましく左右に振れる。
「先生……せんせ……」
その唇を再び、唇で塞ぐ。
すっかり硬くなった突起を刺激し続けると、薄い短パンの中で彼のモノが熱くなっていくのが、重ねた太腿に伝わってくる。
『虹原……!』
声が、聞こえる。
『先生……』
また、声が聞こえる。
今、ここにいるのは……。
誰だ……?
「せんせ……」
掠れた声が響いた。
「クジ先生……」
「………!!」
久次は飛び起きた。
荒い息を吐きながら、自分のベッドについた両手の間で、同じく荒く呼吸をしている瑞野を見下ろす。
「俺は……なんてことを……!」
その変化に瑞野が目を見開く。
「先生……?」
「瑞野、悪かった。今日はここで寝ろ……。俺がソファに行くから……」
「先生……!?言ったでしょ。何をしてもいいって……!」
「ダメだ……!」
久次はフラフラと立ち上がった。
「こんなの、お前を食い物にしてきた、その汚い親父どもと一緒だ……!」
久次は逃げるように寝室を出ると、リビングに逃げ込み、ドアを閉めた。
「…………」
滑り落ちるように座り込む。
『あなた、どうして教師を続けているんですか?』
乙竹の声が蘇る。
『自分が怖くないんですか?もしかしたら、あの事件を繰り返してしまうかもしれない、と』
久次は頭を抱え込んだ。
『その危機感がないんじゃ……』
死んだ彼も、浮かばれませんね?