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駐車場に乗り入れた久次のライトにこいつの影が映し出されたときには焦ったが、久次も中嶋も気づかないでいてくれて助かった。
今日は教室はない。
見つかっていたら言いわけのしようがなかった。
「……ごめんごめん。アトリエで待っててよ。準備するから」
言うと、男はぐいと漣の腕を引いた。
「……!」
「俺は忙しいんだぞ!この後も会社に戻って仕事があるんだ!さっさとしろよ!」
「あ、ちょっと……!」
引きずり込まれたのは、アトリエではなく男の車の後部座席だった。
遅れてきた漣に元々そうするつもりだったのか、後部座席が倒され、荷室とフラットになっている。
「……ちょ!アトリエ以外でヤんのは嫌だって……!」
漣は男を睨んだ。
そうだ。アトリエ以外でやるのは違う。
父さんが俺たちを捨てたあの場所で、
母さんのため、楓のために、
こいつらの相手をしてやることに意味があるんだ。
あそこでヤるから、俺の行為は肯定されるんだ。
場所を移してしまったら、
(こんなのただのセックスだろ……!)
脳裏に久次の顔が浮かぶ。
「うるせえなあ!遅れたお前が悪いんだろうが!」
男の重い身体が覆いかぶさり、身動きが取れない。
太い指が漣のボタンを外す。
数時間前に久次に外された時とは全く違うその感触に鳥肌が立つ。
その白い首に、男のぬめった舌が這う。
「……っ!」
鎖骨から上がり、喉の突起を転がす。
「や……めろって!」
顔を逸らすと男はイラついたように顎をグイと掴んだ。
「お前、抵抗していいと思ってんのか?俺は、お前を買ってるんだぞ……?」
「…………」
「じゃあ返せよ金。ほら!返せ!!」
その手が襟を掴み、下半身に乗った状態で上半身を揺さぶる。
腹がちぎれるほどの痛みに耐えながら、漣は男を見上げた。
「か……」
「ああ?」
「返せ……ません……!すみません……!」
「……だろ?」
男はふんと笑うと、漣の唇を嘗め取るように唇を合わせてきた。
「ん……ッ!……んんっ……!」
ジュルジュルと薄気味の悪い音が、口から、鼻から、耳から、脳に入ってくる。
穢れていく。
壊れていく。
「今日は時間ないからな……」
シャツの隙間から男の指が入っていき、胸の突起を乱暴につねる。
「ぁあッ!」
「解す余裕なんてないぞ?」
その手がベルトを外し、学生服の中に入ってくる。
そして縮み上がった陰茎を邪魔そうに避けると、入り口に指を押し当てた。
「……あああ!ぐう!」
「そんな痛そうな声を出すなよ。昨日もヤッたんだろ?俺、教室終わってから見てたんだよ」
「ぐ……!んん゛!!」
「いつもと比べてやけに静かなセックスだったじゃねえか。あの男のチンポはそんなに小さいのか?」
漣はぐっと男を睨み上げた。
その髪の毛を男が鷲掴みにする。
「俺は、いっぱい鳴かせてやるよ……?」
言いながら漣の細い両足を担ぎ上げ、自分の反り勃ったソレを、指一本も入らなかったそこに突き立てた。
声を出したくないのに、喉を傷めたくないのに、痛みを逃がすためにどうしても悲鳴が出る。
「はは。こんな声、アトリエなんかで出してみろ。殺人事件でも起こったかと、お前のかわいい弟が駆け付けてくるだろうが……!」
男が笑いながら腰を振る。
「ほら!鳴け!これがお前の仕事だ!ほら!鳴けよ!!」
自分の声が遠くなっていく。
……先生。
クジ先生。
俺は……。
“愛し乙女“なんかじゃないよ……。
「今度は、遅れないこと」
避妊具もつけずに漣の中に好きなだけ吐き出した男は、満足したのか一転して柔和な声を出した。
「遅れなかったら、お望み通りアトリエで、優しく抱いてあげるからさ」
「…………」
応える元気もなく、漣は男の後部座席から滑り落ちるように駐車場の砂利の上に蹲った。
「あの件も考えてくれてる?」
男がきつそうなでかい腹を抱えるようにしゃがみこむ。
「……あの件?」
「やだなあ。うちのアパートに住むって話」
漣は男の脂ぎった顔を見上げた。
この男はアパートやマンションをいくつも経営している。
そのうち一つの部屋を漣に貸す代わりに、月額契約で大量の金を落とすということだった。
「ちまちま客を取るよりも、簡単だと思うけどな。君も、彼も、ね?」
「…………」
漣は目に涙を溜めた。
こんなサド野郎に飼われて毎日好き勝手されたんじゃ、身体の方が持たない。
時間で区切る今と違って、一晩中やられたんじゃ、たちまちのうちにヤリ殺されてしまう。
「じゃあね。漣君」
男は機嫌よく手を振ると、高そうなセダンに乗り、砂利を弾きながら駐車場を出て行った。
漣は傍らに落ちていた学生鞄を手繰り寄せた。
「………煙草……」
ポケットを探るが、煙草は入っていなかった。
そうだ。万が一にも久次に見つからないようにと抜いておいたのだった。
「……?」
代わりに何かが指に当たる。
漣はそれを取り出した。
「……はは」
それは先ほど久次からもらった調子笛だった。
D。#Dじゃなくて、D。
漣はプ――――っとそれを吹いてみた。
「♪めぐーし乙女、舞いーいで………」
掠れた声で歌う。
「……ほらな。先生。やっぱ出ねぇ……」
目から一粒の涙が零れ落ちる。
「あんたがいないと……出ないよ……!」
漣は蹲ったまま、砂利に額を付けて泣き崩れた。