「うん、今日も元気そうだね」
「け、くん、おいし?」
「ん…と、じろも、おいしぃ?」
「ぅん!!」
今日も問題なく喋り、問題なく食事をとる。
この子達は蝶と人のキメラのようなもの。この子達の生活を支えながら成長を毎日かきこんでほしいとお偉いさんから言われたのだ。
名前は藤士郎と景と言うらしい。双子の子達が実験体になりたいと言った、とお偉いさんが言っていたけれど…ホントなのかな?
「ん…?糸?もしかして…!!」
なんて言いカメラを構える。カメラを構えたとたん、2人して近くの障害物に糸を付け、その糸に寄りかかる。近くにあった布や葉を、自分を包み込むように巻き付ける。
巻くのに時間がかかってしまっている藤士郎と黙々と準備を進める景。先に準備が終わりかけてしまっている景が藤士郎をずっと待っている。
「ごめ、けぇ、く」
「んーん、だい、じょー、ぶ」
景を待たせてしまって焦っている藤士郎に優しく今の言葉を投げかける。その言葉のあとにゆっくりでいいよ、と言われて安心した顔になる藤士郎。
藤士郎も準備が終わったようで2人で最後の挨拶を交わす。
「お、やすみ、けぃ、くん」
「ぅん、おやす、み、とぅ、じろ」
「ぁ!?背中割れてる!!」
あれから数年。幼虫から成虫になるための期間が終わり、背中の殻が割れ始める。
その割れは段々と大きくなり、頭から足先まで大きく裂かれる。その中から出てきたのは綺麗な藤色の髪をなびかせる藤士郎だった。
藤色の羽をピンっと張り、空気にさらしている。その羽は藤色から下に行くにつれ、白になっていてうっとりするぐらい綺麗。
大きめのあくびを1つ。綺麗な瞳を擦りながら周りを見渡す。僕の存在に気づくなり一言。
「ねえ、晴くん。景くんは?」
幼虫から成虫に成長したからだろう。つたない言葉を一言一言いう幼虫時代と一転変わって、スラスラと綺麗な声で言う。ちゃんと成虫になれたんだと思うと心做しか嬉しく感じた。
「たぶん、その隣の殻じゃないかな?まだ出てきてはないよ」
「…景くん、いつ起きるのかな?性格はたぶん変わってないよな…喋り方は変わってるかも!?」
「お喋りな部分は変わってないな笑」
すると景の入っている殻が割れ始める。キラキラと瞳を輝かせる藤士郎。藤士郎と同様、頭から足先まで裂けた殻。その中から出てきたものは成虫になりかけたところでドロドロの黒い液体になってしまっている景だった。
藤士郎は目をまんまるにし、何回かパチパチと瞬きをする。次の瞬間、景に向けた言葉を言う。
「きれいだねぇ、」
「髪の毛長くなってる、結ってあげるね!景くんは…三つ編みが似合うかな?」
「とうじろ、それっ…」
「ん?景くんだよ!きれいだよねぇ」
藤士郎は昔から考えることが苦手で、死というものにもあまり触れなかった。だからか、景が死んだということがわからないようだ。
「羽も、僕とお揃いだ!色は僕と違って褐色から白なんだ!……すっごくきれいだなぁ」
「景くん、美人だよね。寝ててもわかるぐらい美人。ほら、晴くんも見て!」
急に僕の方をみて景を僕の手の上にのせる。正直引いてしまった。確かに綺麗な顔で寝ているように瞳を閉じている景。けれど、首から下は全て黒いドロドロの液体。
僕は今、景の生首を持っているのだ。少し観察してから藤士郎に返そうと思いじっくりと見る。すると閉じていた瞳がパチっと動き始める。
「ぇ!?目…!」
「と、じろぉ」
「!!景くん!!!おはよう!早く立ってお空飛ぼう?」
「とー、じろ、すごいきれい、だな、」
「でしょでしょ?羽は景くんとお揃いだよ!」
その場でクルっと一回転をし、景に自身の綺麗さを見せびらかす。藤士郎を見ている景は優しい顔で微笑んでいた。
「とーじろ、ぎゅー、しよ…?」
「いいよ!はい、ぎゅー!!!」
「ちょ、それは!!」
藤士郎はぎゅーと言いながら景の身体だったものにハグをする。藤士郎にドロドロとした液体がまとわりつく。まとわりつく液体を藤士郎は受け入れ、景くんからのぎゅーだ!と嬉しそうにその液体を離そうとしない。
「藤士郎!!!」
「ぉわ、なに!?僕景くんとぎゅーしてるんだけど…」
この黒いドロドロの液体と長時間触れ続けていると、いつしか藤士郎もこの液体のようになってしまう。景はばいばい、と言うなりまた瞳を閉じてしまった。
「景くんまた寝ちゃった?もう、お眠さんだなぁ」
「っ、藤士郎!お風呂入ろう?」
「?なんで?景くんの匂いが落ちちゃうからやだ!」
「だって!…臭くないの?」
そう。景だったものの液体は腐った肉のような酷い匂いがするのだ。藤士郎にはすぐにでもお風呂に入ってもらいたいが…難しいみたい。
「くさい?なんで?前の景くんみたいにいい匂いだよ?」
「…え?」
「ぼく、景くんの匂いすきだなぁ」
「…藤士郎ごめんね」
〜報告書〜
預かった実験体No.1046&No.030の成虫までの生活保護の任務完了。
だがNo.030が成虫になれず液体となり死亡。
No.1046は無事成虫に成長。健康状態にも害なし。No.030の液体は瓶に入れ後日送らせて頂きます。
No.1046はもう少し生活保護をさせていただきます。
コメント
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まじで発想がスゴすぎるよ。。。 語彙が幼げだから、純粋で 自然な優しさで心が痛くなるやつ… 文才ありすぎて言葉でない…