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第1話 亡き人への願い
晴れ渡る空の朝。
平和な街の中を、井河 夏葵(いかわ あおい)は俯きながら歩いて行く。
すぐ隣から足音が聞こえた気がして、顔を上げる。でも、そこには誰もいない。
優夏(ゆうか)がいた気がした。
夏葵の姉である優夏。友達にも、妹である夏葵にも、両親にも、誰にでも優しく、輝いていた優夏。でも、そんな優夏は、1週間前に亡くなってしまった。交通事故だった。
優夏のいない家。優夏とすれ違うことのない学校。夏葵の目には、世界の全てが霞んで見えた。
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窓から日差しの差し込む夏の昼休み。
「夏葵、移動教室いこ」
そう言われて顔を上げると、鈴花(りんか)が立っていた。アイドルみたいな顔立ちで、男子からも結構モテている。性格も優しくて、夏葵が姉を亡くしたこの頃は、特に気にかけてくれる。
「あっ……うん、いこ」
そんな親友がそばに居ても、夏葵の顔はなかなか晴れない。
夏葵は次の授業の教科書を持って、鈴花と教室を出た。
授業が始まっても、夏葵はずっと上の空だった。優夏がこの世に居ないんだということが、頭から離れなかった。
集中する気もなく、パラパラと教科書のページをめくる。
「ん?」
夏葵は、ページをめくる手を止めた。
そこには、薄いノートが挟まっていた。名前は書かれていない。誰のものだろうと中を見ると、そこにはこう書かれていた。
「願いの魔法 〜久坂中の七不思議〜」
願い、七不思議、という言葉に興味を引かれ、表紙の裏に書かれた文を少し読んでみた。