br.side
最近、僕の彼女は変な時間帯に家を出入りする。
朝6時
「行ってきます。」
「朝ごはんは?」
「ごめん。食欲無いや。」
そう言って出かけていく。
いつもは…というか、前は7時半に家を出ていた。
恋人を疑ってはいけないが、やはり疑ってしまう。”浮気してないか”って。
「やっぱりこんなこと思っちゃダメだよな。」
そう言いながらリビングのソファに座る。
最近、きんさんの様子が変だ。
帰ってきた時にお酒の匂いはしないが、酔ったみたいに吐く。
声をかけると後ろめたそうに
「なんでもない……気にしないで」
という。
誰かと飲みに行ったのなら素直にそう言えばいいのに。
そんなに後ろめたいことなのか?、けれど疑ってしまう理由はその他にもある。
最近、夜の方がご無沙汰な気がする。
ご無沙汰というか、2ヶ月くらいしていない。
誘ったとしても
「ごめん、今日はちょっと…」
などと言って先に寝てたりする。
考えてみれば思い当たることは結構あった。
例えば他にも、色々なものを捨てているところとか、
俺の好みじゃないゆったりとした服を買ったりとか、
カバンを放置せずに肌身離さず持っているところとか、
スマホの通知がなる度ビクってなっているところとか、
動きが鈍いところとか、
苦しそうな笑顔を向けてくるところとか…
嫌いなら嫌いとはっきり言って欲しい。
冷めたなら冷めたとちゃんと言って欲しい。
3年前に結婚を誓って、同性結婚は認められないから指輪だけつけた。
同性だからって結構苦労もした。
苦労して結婚したことがきんさんの別れられない足枷となっているのだろうか……。
だとしたら離してあげなくてはいけない。
だが、僕はきんさんのことが好きで仕方ないので離すなんて僕にはできない。
僕はどうしようもない男なのかと思う。
けれど、指輪を渡した時に絶対に離さないと言った限り、守ろうと誓ってしまった。
これ以上動くことが出来ない。
「朝から憂鬱な思考になっちゃった。」
リビングでそっと呟く。
ソファの上で目を閉じると孤独を感じる。
言うたから見放された気分だった。
こう感じ始めてから1ヶ月以上経つ。
もうそろそろどうとか言ってもいいのではないかと思う。
いや、あっちが切り出しにくい話題なのだから俺から切り出そうか……
別れるようなことになっては嫌だな。
(どうしよう
優柔不断な俺は結論を決めれず支度をして会社へ行く。
行く途中に色々考えてはいたものの同じ考えをぐるぐると辿るだけだった。
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「今日も遅くなるのか……」
そう言いながら家でお酒を飲む。
つまみもお惣菜のものだ。
料理をするのが嫌になってしまった。
結局、帰ってきても食べるか分からないのだ。
好きな人の食べられない食事を僕が作ったって仕方がない。
玄関が開く音がする。
「おかえり。」
そう言いながら玄関へ足を運ぶ。
「ただいま……ってお酒の香りがする。」
そう言いながら鼻をつまむ。
お酒を飲んでいてシラフではなかったのか、
「どこいってた。」
とぶっきらぼうに聞いてしまった。
「どこって……別に大したところじゃないよ。」
きんさんがそう言う。
「僕じゃない男と会ってたの?」
「……違う。…………お酒、飲み過ぎだよ。」
そう言ってダイニングテーブルへ足を運び空き缶を始末しに台所へ向かう。
「あっ、焼き鳥焼いてるけどきんさんも食べる?」
「焼き鳥!?」
きんさんはグリルの中を覗く。
するとダッシュでトイレに行って吐き始めた。
「え、ちょ大丈夫!?」
そう言って背中をさする。
「大丈夫……だから。……あっち……行って。」
喘ぎながらそう言う。
やはりきんさんもお酒を飲んできたのかと思う。
「なあ、どこで飲んできたの?」
そう聞くと、
「飲むわけないじゃん。なにいって……うっ」
そう言って吐き続ける。
飲んでない?
じゃあ病気なの?
大丈夫?
病院に行った方がいいの??
「ちょっと待ってて。今保険証取ってくるから!カバンの中にあるよね?」
そう言って僕はリビングに置いたカバンを取りに行く。
「ぶるーく、ッちょっ……ダメって……おぇっ」
きんさんは吐きながら引き留めようとしてくる。
だが僕はお構いなくカバンの中を除く。
そうすると驚いたことに母子手帳とマタニティマークがあった。
「え?…………ちょ、どういう……こと…」
疑問に思いトイレで吐いているきんさんを見る。
「なんで……ダメって言ったのに……」
きんさんが喘ぎ、泣きながらそう言う。
けれど自分には何一つ聞こえない。
これは本当にきんさんの物なのか…
いや、疑う余地もない。
しっかりと彼の名前が書いてある。
吐き終わったきんさんがおぼつかない足でこちらに向かってカバンを奪い取る。
「…………出てくから…許して。……子供を…ぶるーくとの子供を産むこと……許してください。」
そう言い、涙目でこちらを見てくる。
僕の子供?
理解ができないよ。
そもそもきんさんは男だ。
妊娠なんてするはずがない。
けれど母子手帳を持っているということは妊娠しているってことで、
つまり……
思考回路が意味不明な方向へ行く。
「とっとりあえず、座ろっか。」
そう言ってソファに誘導する。
きんさんはゆっくりと座る。
「に……妊娠?……男だよね?きんさん、女の子だったりするの?」
そう言いながら首を傾げる。
飲んでるせいか言うたが手に持っている母子手帳が幻覚だとも思ってしまう。
「男だけど…妊娠してるって言われて……それで……」
そう言いながらまた泣き始める。
「ちょっと、泣かないでよ…」
そう言ってもきんさんの涙はなかなか収まらない。
「ごめん。妊娠して。…絶対に迷惑かけないから、産ませて。」
「えーと、、、…迷惑とかそういう前に………にっ妊娠おめでとう。じゃなくて、妊娠してくれてありがとう。」
きんさんの手を優しく握る。
「えっ。」
きんさんはキョトンとしている。
「妊娠してくれてありがとう。まだあまり現実味がないけど、僕の好きな人が僕の子供を妊娠してるのはすごく嬉しいから。」
「…………なんか、変態臭い。」
「失礼な、……でも本当にありがとう。だから出ていくなんて言わないでよ。」
「…………わか……った。」
きんさんがまた泣き始める。
けれど、この泣き方は安心した時の泣き方だった。
俺はそっと抱きしめる
「ぶるーく、俺、ものすごく怖かった。」
「うん。」
「本当は中絶したかった。でも、エコー写真見たら出来なくって。」
「うん。」
「どうしたらいいかわからなくって……もうダメかと思った、、、」
「良かった。きんさんが中絶しなくて。」
「俺も今そう思ってるよ。」
「今、何ヶ月目なの?」
「5ヶ月」
「え!?ごっ、5ヶ月!?そっそれって!?ええ!?5ヶ月って言ったら性別がわかるんじゃ!?」
「うん。女の子だった。」
「女の子って!?僕、気持ち分からないよ!?」
「大丈夫だって。そのうちわかるもんだから。落ち着いて。」
「落ち着くったって…あれ?服とか……えーとそれから……女の子って何で遊ぶのかな?」
「落ち着いてって言ってるじゃん。もう。頼りないお父さんだな。」
きんさんが苦笑しながら言う。
お父さん……だなんて
「きんさん。」
「何?」
「僕、今すぐきんさのこと抱きたい。」
「ええ!?また、どうして…」
「ベット行こ。」
「……えーと。ダメ。」
「なんで!?」
「妊娠期間中にやったら胎児に影響があるからです。」
「…………はあ……抱きたい。」
「だーめ。はい、お風呂入って寝ようよ。」
そう言ってお風呂に向かう。
「はあ。お父さんか……実感なんて湧くかな。」
でも、出ていかなくて良かった。
浮気じゃなくてよかった。
そっと胸を撫で下ろす。
正直、きんさんが居なくなると自分の精神が崩壊してしまう。
自分はきんさんに執着しているのだと強く確信する。
「きんさん、大好きだよ。」
そっとこぼした言葉に彼は
「俺も。」
と返事をしてくれた。
コメント
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また恋歌さんの作品が見れるなんて嬉しすぎる!なんかリアルで夢中で読んでしまいました!体調には気をつけてください😊次の作品も楽しみにしてます!!