願いごと6つ
3月14日。世間はホワイトデーで賑わっていて、バレンタイン程では無いにしても、行き交うカップル達はどこか浮かれた様相である。ハルと深影もその例に漏れず、普段の1.5倍くらいの糖度でイチャついていた。
朝早くからデートのために準備をして、ハルの運転する車で、街中まで遊びに来た。
ハルとしては、深影へバレンタインのお返しだけでなく、普段のお返しもしたくて誘った訳だが、どうやら同じ考えだったようで、「車は出してもらうことになっちゃうけど、お返しがしたいから遊びに行こうか。」などと言われてしまった。代わりに、今日のデートプランはハルが全て考えて、深影が気になると言っていた新作のピアスをプレゼントして、ちょっと良い昼食を食べて、午後は家でゆっくりしようか、という話になっていた。帰りの車内で、星のようなピアスを揺らしながら、深影はあ、と声を出した。
「そういえば俺ハルに贅沢覚えて欲しくてさ」
「え」
「これでもするようになった、と思ってるんですけど、」
「俺がこう言うってことは、まぁ、ね?」
深影と一緒に過ごす内に、多少は贅沢を覚えたつもりだった。ただ、大分前に自分のことを大事にしていない、と、当社比で大喧嘩をしたことがあった。その時ある意味での分からせを受けて、ハルは酷く反省をした。そういった点から、できる範囲で自分を甘やかしているつもりではいた。
・・・とは言っても、愛しの恋人からすれば、まだまだ足りないようなのだが。
「だから俺は色々考えました。俺の出した答えは、贅沢したいと思わせたら勝ちなのではないかと。」
「へぇ」
「というわけで、はいこれ」
いつもの車内で渡されたのは、見るからに高級ブランドのチョコレートであった。普段であれば、あぁ、一粒そんな値段するチョコレートなんてあるんだな、と思って終わってしまうような、そんな一品。
「それ6粒入りなの。ハルが1個食べるのにつき、1個言うこと聞いてあげる。」
「え、家宝にしようと思ってたんですけど」
「食べてね???」
そういえば去年バレンタインの時も同じようなことを言って、珍しい深影の苦笑を頂いた。今年は仕事でも使いやすいように、とお揃いの革張りのスケジュール帳を貰って、有難く使わせてもらっている。仕事用に、と貰ったとしても、一瞬使うのを躊躇ったことは深影には伝えていないのだが、その辺も含めてお見通しなのだろう。
「あ、賞味期限一応気にしておいてね。1ヶ月くらいだったと思うし、俺に6個のお願い考えておいて。」
「う、」
正直めちゃくちゃ揺らぐ。深影から貰ったものを大切にしておきたい気持ちと、恋人がなんでも願いを聞いてくれるなら、という下心と。
「あの、すごい今色んな感情が湧いてて・・・」
「知ってる。すごい複雑そうな顔してるもん。」
「ちょっと、せっかくのホワイトデーなので、今日1ついただきます。」
「あ、すごい嬉しい。お願い決まってる?」
「決まってはいるんですけど、」
流石に外で口に出すのもな、と思ったが、助手席に座る恋人は意図を理解したらしい。
「ふふ、分かったよ。いっぱいしようね。」
恋人がくれたものを余すことなく受け取りたくて、身に余ると感じるほどの贅沢を楽しみに、法定速度ギリギリで車を走らせる。
「今日ピアスつけたままシてもいい?」なんて言いながら幸せそうに笑う恋人を見て、「もちろんです、よく似合ってます」と返す。
6つのお願いの内、何個かは深影を喜ばせるために使いたい、などと言ったら怒られてしまうかもしれない。それでも、ハルにとっての幸せとは、2人で分け合うものだ。車内から2人分の鼻歌が零れた。
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