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レナードは、鈍い痛みを頬に感じた。呆然として、微動打にしない。
「どうして、僕が……」
「いい加減にしないか!お前は、一体何をしている」
レナードの頬を、叩いたのはマティアスだった。
「僕は、間違ってないっ。その男が、僕のヴィオラを奪るからいけないだっ」
まるで、幼子が玩具でも取られたように駄々を捏ねるレナードに、マティアスは情けなくなった。
「私は、どうやら育て方を間違ったようだ」
王太子であるレナードは、厳しく躾けたつもりだった。元々賢い子だった故、何をさせても直ぐに覚えた。
その一方で、いつになっても我儘な性格は直らず、自分の思い通りにならないと駄々を捏ねては、無理矢理自分の意向へ捻じ曲げさせる。
マティアスが何度注意しても、聞く耳を全く持たず手を焼いていたのも実状だ。
実際、マティアスが決めた婚約者が気に入らず、自ら連れて来た少女を、勝手に婚約者と称してその様に扱った。そして、結局レナードの思い通りに、今宵その少女を婚約者として披露する事になっていた。
マティアスは、ヴィオラとテオドールの前に膝を折り、頭を下げた。その光景にヴィオラは息を呑む。
幾ら世間知らずのヴィオラでも分かる。一国の王が膝を折り頭を下げるなど、普通は有り得ない。
「愚息が無礼な振舞いをしてしまい、申し訳ございません……弁解の余地すらございません。どんな処分も甘んじてお受けする所存でございます」
「父上⁈何なさってるんですか⁈どうしてこんな男に頭など下げ……っ」
レナードは不満気にそう声を荒げるが、マティアスに腕を引っ張られ床に頭を押さえつけられてしまう。
「誠に、重ね重ね申し訳ございませんっ……レナード、いい加減にしなさいっ。お前も謝罪するんだ!この方は、クラウゼヴィッツ国の第2王子のテオドール殿下だ」
クラウゼヴィッツ国とは、近隣諸国の中で飛び抜けて規模の大きい大国だ。ヴィオラの国
リュシドールは中規模の国ではあるが、クラウゼヴィッツ国と比較するには、些か格が違い過ぎる。
リュシドール国は、クラウゼヴィッツ国からの援助を受けている立場でもあり、物流など資源を止められれば、瞬く間に立ち行かなくなり、崩落するだろう。
「クラウゼヴィッツ国……」
ヴィオラは、目を見開きテオドールを凝視した。テオドール様が…… クラウゼヴィッツ国の第2王子……。
レナードは、音がする程に奥歯噛み締める。マティアスから謝罪するように言われても尚、謝罪するどころかテオドールを睨んでいた。
「テオドール様……」
ヴィオラは、瞬きをした。
「クラウゼヴィッツ国……とは、何処ですか」
そして、ヴィオラの言葉にその場の空気は凍りつく。ヴィオラは、書物はいつも読み漁ってはいたが、社会的な勉強など一切してこなかった。故に、クラウゼヴィッツがどれ程の規模の国で、何処にあるかなど分かる筈はない。
「ハハッ、そうだね、分からないよね」
テオドールはそう言いながら、ヴィオラの頭を撫でた。
「リュシドール国王、僕は別に怒ってなどいないよ。まあ、些か彼の言動には呆れてはいるけどね……それより、別件で少し話がしたい」
テオドールの言葉を、マティアスは了承し、当事者でるヴィオラ、レナード、テオドール、マティアスは場所を移す事になり、改めて話をする事になった。