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レイの目が月光を反射して鋭く光る。
その姿は、ただ立っているだけなのに圧倒的な威圧感を放っていた。
「なっ……!」
刹那、レイが音もなく間合いを詰める。
男が刃を振るう前に、その腕が鋭く捻り上げられた。
「……っが!」
鈍い音が響き、男の膝が崩れ落ちる。
その目には冷徹な怒りが宿っている。男は抵抗しようとするが、レイの力には敵わない。
「お前か――内通者は」
冷たく言い放つレイの目には、冷徹な光が宿っていた。
だが、俺の顔を見た瞬間、その鋭さがふっと和らぐ。
「……お前は何をしている、と言いたいところだが――今は無事で良かった」
そう言って、レイはそっと俺の頭に手を置く。
「カイル、お前はもう少し自分を大切にしろ」
「……レイ!」
「お前は何をしている、と言いたいところだが――今は無事で良かった」
レイが俺に近づき、そっと頭に手を置く。その手は温かく、優しい。
「カイル、お前はもう少し自分を大切にしろ」
そう言って、レイは短い溜息を吐く。
「――ごめん。でも……俺だって、レイの役に立ちたい」
「……なら、無茶はするな。それが俺の望みだ。部屋に戻れ」
レイが俺を見つめ、僅かに微笑む。
そのまま踵を返し、闇の中へと消えていった。
月光が彼の背中を照らし、遠ざかる足音が静かに響く。
俺はその場に立ち尽くし、心臓の音が鳴りやまない。
「……俺、推しにまた助けられた……」
額に残る温もりを手で触れながら、部屋へと戻る足取りは妙に軽かった。
※
レイの「お前はもう少し自分を大切にしろ」という言葉と、温かく頭を撫でる手の感触を思い出しながら、俺はベッドに腰を下ろす。
「……しっかし、俺……役に立ってねぇ~~……」
自分が狙われていること、そしてレイがその全てを引き受けて守ろうとしてくれていること――嬉しい反面、やっぱり俺は守られているだけじゃダメだと痛感する。
申し訳なさすぎる……。
でも、レイがいなければ今ごろ俺は――。
そう思えば、喉の奥がぎゅっと苦しくなった。
生まれてこの方、俺は安全な国で暮らしていたので、あんな殺気を受けたことはない。
喧嘩だってしたことがない。ただただ地味に生きてきた。
「……レイ、ありがとう」
小さく呟いたところで、ふと廊下から騒がしい声が聞こえてきた。
「――侵入者を連れていけ!」
「本当にこいつが……?」
バタバタと足音が廊下を駆ける音。俺は思わず立ち上がり、扉へ向かう。
そして、ほんの少しだけ扉を開けて外を覗き込んだ。
そこには、兵士たちに拘束された先ほどの男――あの内通者が引きずられていくところだった。男の顔には薄暗い笑みが浮かび、何かを呟いている。
「――鍵が、いずれ……」
「黙れ!」
兵士が男の言葉を遮るように怒鳴るが、その一言が俺の耳に強烈に引っかかった。
「……鍵?」
その言葉が気になり、俺は扉の前で一度立ち止まった。
レイの「部屋を出るな」という声が頭をよぎる。
――でも、このままじっとしていていいのか?
俺の中で、小さな迷いが生まれる。
だけど、今はレイだけに任せたくない。少しでも手がかりが欲しい。
「……行くしかないか」
決意をして部屋を出た。
……侵入者が捕まったということは、多分安全に近づいたのではなかろうか……そう思いつつ、兵士たちを追う。
辿り着いたのは、初日にエミリーが説明してくれた執務室だ。
そこに兵士たちは入っていった。
「……牢屋ではないんだな」
どこにあるか知らんけど。牢屋と言えば地下がセオリーっぽい……。
「また部屋を出たな……」
背筋が凍るような声が、すぐ後ろから降ってくる。
「ひゃっ!?」
慌てて振り向くと、そこにはレイが立っていた。
「……!」
反射的に胸を押さえる。心臓、壊れるかと思った……!
「お前は、少しも学ばないな」
レイは静かに溜息を吐き、俺を見下ろしてくる。
びっくりした……!ほんとに……心臓に悪い……。
レイはそんな俺を見つめ、少しだけ口元を緩める。
「本当に油断ならない奴だ」
「えっと、違うんだ!ただ、今の男が『鍵』って――」
「――聞いていたのか」
レイの目が一瞬だけ光る。その目に圧されて、俺は思わず口をつぐんだ。
ふう、と大きく溜息をレイは吐く。
「……ついて来い」
「えっ?」
「――お前にも知る権利がある」
そう言うと、レイは俺の手を取った。
手を引かれるまま廊下を進み、邸内の奥まった――執務室へと連れていかれる。
部屋に入ると、そこには先ほどの男が椅子に拘束されていた。周囲には数人の兵士、そしてレイの側近らしき男たちが睨みを利かせている。
「カイルはここで見ていろ」
レイの言葉に頷きながら、俺は部屋の端に立つ。
レイはゆっくりと男に近づき、鋭い視線を向けた。
「お前の背後には誰がいる。言え」
「……ふん、何も答えるつもりはない」
男は挑発的に笑うが、レイの目は微動だにしない。その冷徹な視線に、男の余裕が少しずつ崩れていくのが分かる。
「――言え。でなければ、ここで終わりだ」
レイが腰に下げた剣に手をかける。彼の気迫が部屋全体を覆い、俺でさえ息が詰まりそうだ。
「……っ、は……お前がどれだけ守ろうとも、いずれ終わるさ」
男がついに口を開いた。
「青二才がこの地を治められるわけがない……!真の統治者はあの方こそが……!」
「――アルベルトか」
レイの声が低く響き、部屋が凍りつく。
「やはり、お前は叔父の手先か」
「お前の『鍵』――その命が絶たれれば、結界は消える」
男の視線がこちら――俺の方へ向いた。
「っ……!」
一瞬で全身が冷たくなる。俺を、カイルを狙う理由――それは『鍵』という力にあるということか……?
「カイル!」
レイが俺の前に立ち、背中で男の視線を遮る。
「いくら守っても、どうせこの『鍵』はすぐ壊れる」
男はレイの背中越しに俺を見つめ、にやりと笑った。
「俺が壊させはしない」
レイの声が低く響く。
「お前らがどんな手を使おうとも……たとえ命を賭しても、カイルを失わせはしない」
男の顔が悔しそうに歪み、兵士たちによって引きずられていく。
その間際、男はもう一度俺に向かって吐き捨てた。
「……どうせ、すぐ死ぬさ」
その言葉が呪いのように、俺の頭に焼き付く。
「……レイ」
心がざわつく。冷たい侵入者の言葉が、まるで毒のように心に沈んでいく。
その瞬間、レイがそっと俺を抱き寄せた。
「……お前は何も気にしなくていい。」
レイの腕は強く、だけど温かい。
心臓の音がすぐ耳元で響く。
「俺が、お前を守る」
耳元で囁かれる声が、まるで誓いのように聞こえた。