コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
西成。
大阪の片隅にあるこの街には、他所とは違う時間が流れていた。
朝が来ても目が覚めない者たちがいて、夜になってようやく目を覚ます生き物がいる。
汗と煙草と血の匂いが混じった空気は、誰もが「普通」や「常識」を置いていかねば入れぬ結界だった。
そこに、ひとりの少年がやってきた。
加賀谷京志(かがや・きょうじ)。
伝説のムエタイファイター、加賀谷慎吾の息子。
30戦無敗、無敵と謳われた父の背中を、5歳からずっと追いかけてきた少年。
だが、追いつけなかった。
いや、追いついても――父は振り向かなかった。
感情を持たない父に育てられた京志は、感情の表現を知らなかった。
孤独。沈黙。鍛錬。流したのは涙ではなく、汗と血ばかり。
そんな京志が、父の意向で転校することになったのが、西成第一中学校(通称:西成1中)。
「何でまた、こんなとこに……」
その街には、彼の常識を壊す者たちが待っていた。
そして――彼の心を変える者たちも。
血よりも強いものがあると、少年はまだ知らなかった。