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今日は朝からどんよりとした空模様。わたしは小雨が降り始めた窓をぼんやり眺めながら、「今日は傘が必要になるかもなぁ…」とつぶやいた。だけど、玄関を出る時、すっかりそのことを忘れていた自分に気がついた。
学校に着く頃には雨は本降りになっていて、傘を持っていないわたしは、校門前で立ち尽くしていた。こんな雨の中、走って教室に行ったら服がずぶ濡れになるのは間違いない。…終わった。美桜姉に迎えに来てもらう?今日は美桜姉バイトだし、萌音は部活?てやつだし、大和は…。千奈さんと話してるかもだし。両親は阿呆みたいに帰ってこないし。えー?どうしよ、。
どうしようかなぁ…と困っていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「冬亜、傘ない?」
振り返ると、そこには成瀬亜希くんが立っていた。同じクラスで、何かとわたしのことを気にかけてくれる男の子だ。
「う、うん…忘れちゃった…」わたしが答えると、亜希くんは傘を軽く持ち上げて見せながら、「じゃあ、入ろう。一緒に使おう。」と言った。
「えっ、でも…」
「遠慮しなくていいって。ほら、。」
そう言って亜希くんは、わたしの頭上に傘を差し出してくれた。その仕草がなんだかとても自然で、わたしは思わずドキッとしてしまった。
二人で相合傘をしながら校舎へ向かう道。傘が小さいせいで、わたしたちは自然と肩が触れるくらいの距離で歩くことになった。
「ごめんね、亜希くん。わたしのせいで…」
「別にいいよ。それに、冬亜が濡れて風邪ひいたら大変だし。」
亜希くんが何気なくそう言ったその一言が、なぜかすごく胸に響いた。普段から優しい人だとは思っていたけど、こうして一緒に歩いていると、もっといろんな一面が見えてくる気がする。
「亜希くんって、ほんと優しいよね。」
「え?なにそれ、急に。」亜希くんが少し照れたように笑った。その顔を見て、わたしもなんだか恥ずかしくなってしまう。
ところが、校舎の入り口に着いた瞬間、わたしたちの相合傘を見ていた同じクラスの子たちが駆け寄ってきた。
「えーっ、成瀬と真田さんが相合傘してた!」
「これってどういうこと?もしかして付き合ってるとか?」
突然の質問攻めに、わたしは頭が真っ白になってしまった。
「ち、違うよ!」慌てて否定するけど、みんなの視線が痛くて、顔がどんどん赤くなっていくのがわかる。
その時、亜希くんが一歩前に出て、みんなに向かってこう言った。
「いや、たまたま傘がなかったから貸しただけ。そんな大したことじゃないよ。」
その言葉と同時に、亜希くんがわたしの肩を軽くポンと叩いてくれた。その仕草がなんだか安心感をくれて、わたしはやっと深呼吸することができた。…大したことじゃ、ない…。
「そっか、成瀬が助けただけなんだ。」
「でも、なんかお似合いじゃない?」誰かが茶化すように言うけど、亜希くんはそれ以上何も言わず、静かに教室へ向かって歩き出した。
その日の授業中、わたしはなんだかずっとソワソワしていた。隣の席の亜希くんの横顔が、どうしても気になってしまう。あんなに自然にわたしをかばってくれるなんて、本当にすごい人だなと思った。
放課後、わたしは思い切って亜希くんに声をかけた。
「今日はありがとう。助かったよ。」
「気にしなくていいって。それに…。」
「それに?」
「なんでもない」
そう言って笑う亜希くんを見て、わたしはまたドキッとしてしまった。この気持ち、なんだろう。
胸が温かくて、でも少し切ない。わたしは小さく「ありがとう」とつぶやいて、その場を立ち去った。