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「そこは、このわたくしパールにお任せください」
パールは胸を張って自信ありげに応じた。
「まだ駆け出しの身ではありますが、既にドワーフ達とは幾度も交渉し、いくつかの商いに成功しています。パールはドワーフとはすっごく相性が良いんですよ。竜殺しの皆さんの実力がいかにすごいかを彼らに売り込んで共闘を成功させ、必ず多大な報酬を受け取ってみせます。任せてください!」
パールは力強く断言したが、竜殺し達の反応は冷ややかだった。
「あ、あれ?どうしたんですか皆さん。ここは喝采でもって応える場面ですよ……?」
「成程、旅立ち前にクオーツが言った通りであったな」
ラルゴはため息をつきながら言った。
「馬鹿あに、いえ兄が何か言ったんですか?」
「パールは商売の修行とか言いながら実際は遊び惚けていただけ。僕が竜殺しとして英雄と称えられたから対抗心を燃やして、商会を立ち上げたけど名前だけで商売や交渉した経験は全く無い。きっと君らに自分は既に商人として一人前だと吹聴するだろうけど、真に受けて仕事を重要な仕事を任せたりしないようにってね」
ハスバールが苦笑を浮かべながら答えた。
「あ、あの馬鹿兄貴、余計な事を……!」
「今まで猫を被っていたんですね。本性を表すのが早すぎでしょう」
顔を真っ赤に染めながら兄を罵るパールをエリアは冷ややかに評した。
「これではドワーフ達との交渉など成功する見込みはありませんね」
「ちょ、ちょっと待って!パールがドワーフ達と相性が良いってのは本当なんだってば!子供の頃からよくドワーフの工房に行って遊んでいたし、パールの欲求を大体叶えてくれたし!」
「それは要するに体よく利用したと言う事だろうが」
ラルゴが肩をすくめながら言った。
「まあ、こういう物おじしない、全く臆面の無い小娘を面白がるドワーフが一部いたのは何となくわかる気もするがの」
「そうそう、そうなんだよ!きっとここのドワーフの中にもこのパールの愛らしさに参ってしまって言うことを聞いちゃおうって人が必ずいるんだって!お願いだからパールに任せて」
もはやパールは一歩引いて礼儀正しく敬語を使うことを止めて素の自分でいることに決めたようである。
「どうする?」
ハスバールがフリードに聞いた。
「さっきも言ったように、俺は別にドワーフと共闘したい思わないし、奴らが情報を提供してくれるとも思えない」
フリードが断言した為、パールの愛らしい顔が失意にゆがんだ。そして何か言葉を発しようとしたが、慌てて口をつぐんだ。怒りのまま罵倒しようとして、相手が竜殺しの英雄、エトルリア最強の剣士であることを思い出し何とか自制したのだろう。
「でもまあ、こういう野心的な奴、自分の欲望に素直な奴は嫌いじゃないぜ」
フリードはにやりと笑いながら言った。
「やらせてみていいんじゃねえか?失敗しても別に俺たちが損害を受けることもないだろうしな」
フリードの言葉を聞き、失意を露わにしていたパールの表情が一気に輝いた。
「まあ、そうだな。ドワーフとの共闘は叶わなくても、何か情報の一つや二つ拾えることが出来れば儲けものというものだし。どうかな、エリア、ラルゴ?」
ハスバールに問われ、ラルゴとエリアは頷いた。
「わしは別に構わんが」
「そうですね。確かに情報ぐらいは拾えるかも知れません」
「よし、決まりだ」
フリードが立ちあがり、傍らに置いていた大剣を再び佩いた。
「すぐにドワーフの集落に行こうぜ」
一行は魔術師ギルドの術師に教わったドワーフが済む山脈へと向かった。
「ふむ。やはり遥か遠き異国であるラリアルのドワーフもボルドー神を信仰しておるか。まあ当然ではあるがな」
ラルゴがドワーフの住居である洞窟の入り口に飾られた黄金の槌を見て厳めしい顔をほころばせながら言った。
ボルドー神はこの世界で信仰されている十大神の一柱で、鍛冶を司り山脈を支配する神であり、黄金の槌はそのシンボルである。
ドワーフは独自の信仰を持っており、ボルドー神こそが真の世界の創造主であり、唯一信仰すべき神だとしている。
他の種族の伝承では十大神の中で最も神格が高い三つ子の三貴神として称される天空の神ユラテス、海の神オーダイン、冥界の神アルテスラ、そして彼らの弟妹である月と夜の女神ハピュネー、音楽と文学の神オベルテス、法と秩序の女神マーデル、戦争の神マーデル、知識の学問の神ヒース、穀物と植物の神デネスも全てボルドーが造った像に命を吹き込んだ存在だと伝承されているのだという。
ドワーフが他種族と交流したがらないのもこう言った全く独自の信仰、神話体系を有しているからでもあるのだろう。
ラルゴは懐から小型の黄金の槌を取り出し、短い祈りの言葉を唱えた。
ラルゴは戦士であり、刀鍛冶であり、ボルドー神に仕える神官でもあったのだ。