彼女は、無音のまま連行されていた。
背中を拘束されたまま、両脚を引きずりながら歩く。
視界に入るのは、無機質な白壁と、足音を吸収する絨毯だけ。
――ここは《白階》の地下収容所、「第三隔絶帯」。
公開裁判も、弁護もない。反逆因子は、“データ”として廃棄される。
だが――一毬は笑っていた。
「……ふふっ。やっぱりですねぇ、一毬って、とことん……可愛いんですよ。ほら、処刑台に上がるこの姿も、ね?」
顔は擦れて血だらけ、髪は切り落とされ、
能力は封じられているというのに――
まだ、彼女は「自分語り」をやめなかった。
処刑官《白階筆頭・裁断者(ジャッジメント)》が無表情で告げる。
「被処刑対象、一毬。実験体番号【MID-0115】、異能《無窮自己列伝》により階層秩序を撹乱。
個人の異能により“社会的多重影響”を発生させたとして、本日をもって抹消処分とする」
首輪に組み込まれた拘束が展開される。背後に、次元断層が開く。
それは、彼女という存在が「過去」「未来」「可能性」すべてから削除される穴――《白階》が保持する“完璧な処刑装置”。
「ねえ、最後に、一つだけ……?」
一毬が顔を上げた。
目は赤く充血していたが、どこか澄んでいた。
「全部の一毬に……ありがとうって、言ってもらえたんです。それだけ、もう、いい。……だから……可愛く、殺してね♡」
《処刑開始》
断層が彼女の存在情報を噛み砕くように飲み込む。
声も、姿も、記録も、ゆっくりと消えていく。
「……って、ウソウソ、やっぱりちょっと怖いかもぉ……」
それが、最後の言葉だった。
──一毬、情報的消去完了。「対象 MID-0115、削除済。異能封印コード:焼却」処刑官が記録端末を閉じ、背を向ける。
数秒の静寂。だが、モニターの裏で一人、呟く男がいた。
「……“無窮自己列伝”、ね」
その声は、《黒帯役》ガラ・スーグ。処刑の映像を静かに見届けながら、喉を鳴らす。
「自己を信じすぎる女の、哀しい最期よ。──だが、“全ての可能性”が終わったとは、限らんだろう?」
そう呟く彼の眼に、処刑ログには存在しない“一つの影”が映っていた。一毬は、本当に死んだのか?
それとも、“あらゆる自己”の一つが、生き残ったのか?
答えは、まだ誰も知らない。
《護井会》でさえも――。
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コメント
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こんかい今回も神ってましたぁぁぁぁぁぁあ!!!! ありがとうひまりいいぃん...最後まで可愛いかったぜ...(?) っておん?なんか...生きてる...んですか?これは!!?そうなのか!? どうなんだ!?あの人達にも分からない...なら...どうなんでしょうねぇ...?(?) 次回もめっっっっさ楽しみいいいいいぃ!!!!!!!!