ミスター赤ちゃんがキッチンへ向かう。
とてもお腹が空いて、ミルクだけでは満たされないからだ。
「あ!ミスターバナナがなんか作ってる!」
無意識のうちにミスター赤ちゃんは隠れていた。つまみ食いをしようと体が動いたのだ。
もう一つ、もう一つと数えているうちに全て食べ尽くしてしまうので、つまみ食いは禁止されている。ミスター赤ちゃんはつまみ食い常習犯の一人だ。
ミスターバナナは油から細長い何かを箸で持ち上げ、呟いた。
「少しきつね色になってしまったな、、」
細長い何かの正体、それはえびの天ぷらだった。
「あ、あれ見たことあるぞ!名前は、、何だっけ?」
そう思っている間にミスターバナナはえびの天ぷらをキッチンペーパーの上に置き、クリーム色をした野菜を箸で持ち上げた。今度は野菜を天ぷらにするようだ。
ミスター赤ちゃんはえびの天ぷらを五秒間見つめた。何か頭の中で引っかかっているような気がするが、えびの天ぷらがあまりにも美味しそうで微塵も気にならなかった。
こっそり抜き足差し足、えびの天ぷらへ近づく。
手を伸ばした途端、頭の中で何かが再生された。
─────見たところ、赤ちゃん用の椅子に座り夕食を食べているようだった。
目の前にはミルク、テーブルの真ん中には、、何故か名前が出てこない。
じっと見つめて思い出そうとしていたら、誰かの笑い声が聞こえた。
「ふふっ、なぁに赤ちゃん。これが気になるのー?」
声を辿ると、白衣を着て、メガネを頭にかけている女の人が横に座っていた。
ミスター赤ちゃんは困惑した。テーブルの真ん中にあるもの同様、誰なのか思い出せない。
すると女の人は
「これはね、エビフライって言うの!私がレシピを見ながら一生懸命に作ったのよ!」
そうだ、エビフライ。いつエビフライというものを覚えたっけ。ミスターブラックか?すまない先生だったっけ?
そう思いながらミスター赤ちゃんは、エビフライを食べようと手を伸ばした。
「あ!赤ちゃんはまだ食べれない!毒だからね!もっと大きくならないとめっ!だよ!」
その言葉に衝撃を受けた。ミスター赤ちゃんはミルク以外もときどき食べるからだ。
俺は今まで毒を食べてたのか?でもまだ体はなんともないし、、
「、、一緒にエビフライを食べれたらいいな」
そう女の人は、呟いた。
たった一言の呟きが、ミスター赤ちゃんの心に突き刺さった。
「それまでに私!たっくさんエビフライ作るわよ!」
そう言いエビフライを頬張った。
「うぅー、なんかしなしなだわー、、」
、、味はイマイチのようだ。
だがその表情を見て確信したことがある。これは昔のことだと。
だが、ミスター赤ちゃんにとってこの昔話は知らないものだらけなムービーのようなものだった、進んでいくと共にみるみる視界がぼやけていく、、
「──ん?」
「─ミ─赤ちゃん?」
少しずつミスターバナナの声が聞こえてくる。
ミスター赤ちゃんはやっと我に返った。
「大丈夫か、、?」
とても心配しているようだった。
「なにが?俺はなんとも、、」
頬に水のようなものが流れる感覚が、脳に届いた。
心配されるのも当然、ミスター赤ちゃんはいつのまにか涙を流していたのだから。
「あ、あ、、?なんだよこれ、、?」
気づいた瞬間、止まらなくなった。
─────落ち着いた後、ミスターバナナはこう言った。
「少しきつね色になってしまったんだ、食うか?」
ミスター赤ちゃんはとっさに
「エビフライ!」
と嬉しそうに叫んだ。
ミスターバナナは苦笑いで
「ははっ、やっぱりそう見えるか、、」
「え?エビフライじゃないの?」
そう疑問に思うミスター赤ちゃんにミスターバナナは答えた。
「本当は天ぷらを作ったんだ。」
天ぷら?天ぷらって何?という顔をした。察したのか、ミスターバナナはレシピの本を持ってきた。
「天ぷらはな、小麦粉と卵、天ぷら粉を使っている。それと比べ、エビフライは小麦粉と卵、パン粉を使う、これが天ぷらとエビフライの違い。エビフライがパン粉を加えた分だけカロリーが少し高くなるんだ。」
「へぇ〜!れんぷあはれんぷあ用の粉があるのか!」
「天ぷらを聞いたのははじめてか、これはてんぷらだ。」
「ねんぷあ?」
「て、ん、ぷ、ら。」
ミスターバナナはゆっくりと発音をしてあげた。
「天ぷら!」
「よし、食うか?」
「天ぷら食う!」
ミスター赤ちゃんは新たに一つ、言葉を覚えた。
そして欠けていた記憶も────
コメント
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神以外の何物でもない天才だ☆