10.君との恋
「凛、そろそろだな。」
「蜂楽は?最近来ねぇな、別にいいけど。」
「みんな受験やら就活やらで忙しいぽいよ。俺は父さんの会社継ぐ予定だしもう決定。だからお前に会いに来れるんだよ。」
「そっか、みんな出ていくんだよな。」
横のブランコに揺られる凛の横顔は寂しそうに微笑んでいた。
あれから家族で思い出の場所を巡って、みんなでお別れ会を改めてして、凛の葬式を行った。
冴の言葉によって崖の下の凛の遺体が発見。
脂肪が確定したことで葬儀も済まされた。
分かってた事だけど改めて形が出てくると、こう胸にくるなんとも言えない悲しさがある。
「なぁ、潔。俺の心残り、叶えれそうか?」
凛の問いかけに俺は胸を掴まれた。
「…ほんとにずりぃよ。ばーか。」
俺の目から涙が流れる。
なんでもっと早く想いを伝えなかったのか。
後悔ばかり溢れてきて、時間が止まってしまえばいいと心から本気で思った。
「…触れない、か。」
凛の手が俺に伸びていた。
でもその手が俺に触れることはなかった。
もう時間がなかった。いつ消えてもおかしくはなかった。
「みんなを呼ぼう、凛のお別れ会だよ。最後くらいはさ、凛のことちゃんと送りたいから。」
泣きすぎて喉が痛い。声が掠れる。鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔を見て凛は笑った。
「笑うなよ!お前の為に泣いてんのに!!」
「なんだよそれ!余計なお節介だ、ばーか!」
「バカっていうほうがバカなんだよ!」
「…もっと、もっとこうやってたかった。」
急に凛がそう零した。
抱きしめられないのが悔しい。
こいつの未練を叶えてやれないのが心残り。
こいつを置いて、歳を重ねることに嫌気がさす。
「凛、俺はもう振り返らない。でも、お前との夏は絶対忘れない。だからお前もいい加減前向いて、笑って、登るんだ。」
「死んだことも無いくせに上から目線だな」
「うっ!悪かったな…笑」
「嘘だよ、俺がこっち側で良かった。潔が生きてくれれば、俺の未練なんか大したことない。」
「…ほんと、正直になったな。」
俺の言葉に凛は大きく頷いてみせる。
「もう時間がないなら、意地張る必要もない。」
「時間がない」その凛の言葉にはずっしりとした重みがあった。
一向に止まらない涙と、もう見えなくなってしまいそうな凛の姿を心に刻んで。
「よっちゃん!準備できたー?」
「世一、少しは息抜きになったかな。」
「大丈夫よ、凛くんともお分かれはできたみたいよ。」
「え、なんで?」
「あの子の顔、見てよ。」
もう心のつっかえは取れている。
目の前の車に荷物を積んでいた母さん達に駆け寄ると俺は「ごめん、行こう!」と笑いかけた。
あれから少しして、凛は見えなくなった。
何かを合図に消えてなくなってしまった。
凛の未練を叶えてやれなかった。
でも、お別れの日、蜂楽を含めた皆の顔を見た時、俺にはまだ生きる理由が見えた。
「ありがとう、みんな。それと、蜂楽!!またお墓参り行こうな。みんなで、会いに行こう。」
それに対して蜂楽は大きく微笑んでくれた。
小さくなっていくみんなの姿を最後まで見て、この夏の思い出を思い返すのは楽しい。
何も聞かない両親に改めて感謝してしまう。
凛は、凛との後悔はここに置いていく。
凛の思い出と想いは俺の心と一緒に持っていく。
それが凛の最後の願いだった。
凛と別れたあの日。
「あ、潔!みんなを呼んで…って言ってたお別れ会、あれはしないでいい。俺が見えてたこともみんなには内緒にしてほしい。」
「え、でも未練が……」
「いい、充分叶った。潔、本当に、大好きだった。ありがとう、また、」
「……うん、また。絶対また会おう!」
__「俺の未練は、みんなと生きたかったこと」
〜END〜
コメント
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なんか胸が締め付けられるような感じがしました、他の感動する話よりもグッときて泣いちゃいました笑、こんなに感動したのはこの話が初めてです。ありがとうございます。また見に来ようと思います。どうか来世でも皆が仲良く過ごせますように……