勧められるままに焼酎を飲んでいたら、いよいよ脳があまり回らなくなってきた。
テーブルを挟んでいるはずなのに、篠崎がすごく近くにいるように感じる。
いつもとは違う、篠崎の眠そうに据わった目が、色っぽい。
(やばい、この目、3回くらい抜ける……)
あらぬことを考えながら、さらにグラスの中の液体を喉に流し込む。
だんだんアルコールを感じなくなってきた。
甘い水。そう。これはただの甘い水だ。
「……いーい感じに出来上がってきたな」
そんな由樹を見ながら篠崎が笑う。
「そろそろかな……?」
言いながら立ち上がる。
(そろそろ……?なんだ??)
ぼーっと篠崎の足を見ていたら、それがすぐ隣まで来た。
「よっこらしょっと」
言いながら由樹の隣に座る。
(えっ………)
体が反射的に距離をとろうとするが篠崎がその腕を掴んで引き寄せた。
引っ張られるまま、篠崎の隣に収められた由樹は顔を真っ赤にしながら上司の顔を見上げた。
「はは。すげー赤い」
篠崎は笑いながらその頬を大きな手で撫でた。
(なんだ?この展開??)
密着した腕から、腰から、篠崎の体温が伝わってくる。
由樹は4.5畳ほどある個室を見回した。
(こんなの誰かに見られたら、恥ずかしいのはあんたじゃないんですか)
「誰も来ねーよ」
篠崎の声が耳元で響く。
(……エスパーですかっ?)
ますます顔を赤らめて由樹は震える手をグラスに伸ばした。
それを篠崎が笑いながら取ってくれる。
「ありがとうごじあいます」
「なんだって?」
「ありがとうごじゃいます」
「はは」
楽しそうに笑っている。
由樹は訳も分からず、グラスの中の甘い水を一口飲むと、篠崎を見つめた。
「そんなに見んなよ。穴開くって」
言いながら由樹の指からそっと抜き取ったグラスを今度は自分が飲み始めた。
「…………!」
「どうした?」
「だって、ぐ、グラス………」
「間接キスってか?今更だろ。あんなキスしてんのに」
「……!!」
篠崎は反対側の膝を立てるとこちらに向き直った。
由樹の頬をもう一度手で触れる。
「ふふ。あっつ」言いながら笑っている。
硬い皮膚。
優しい体温。
手首につけているのだろうか、色っぽい香りのするコロン。
「……新谷」
コロンとは別の男の匂いがする。
いや、篠崎の匂いがする。
「正直に答えろよ」
もうすでにトロンと溶けている由樹に向かって篠崎は言った。
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