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素直になっちゃう薬を飲んだやつがれ君

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「素直になっちゃう薬を飲んだやつがれ君」のメインビジュアル

素直になっちゃう薬を飲んだやつがれ君

1 - 素直になっちゃう薬を飲んだやつがれ君

♥

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2024年04月03日

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⚠️注意⚠️

・太芥

・口調が間違ってるかも…そこは温かく見守ってください🍵

・学スト軸

























[其処の黒髪、此れ、欲しくないかい?]

「は?」


何時も通りの帰り道。唐突に声をかけられ、思わず眉をひそめる。


「急に何だ」

[いやねぇ、貴方、恋してるでしょう?]

「は??」


本当に意味が判らない。何を根拠にそんなことを云っているのか。


[否定しないってことは…いるみたいだねぇ]


確信したように、ニヤリと笑う。その目は、やつがれの感情を全て知っているような目をしていて、思わず息を呑んだ。


「……」


結論から云おう。やつがれには好いている人がいる。

その中でも、叶わない恋という奴だ。


「…で、用件は何だ。やつがれと漫談でもする為か?」

[いいや?先刻も云っただろう?売りたい物があると]

「売りたい物…は、其れか?」


老婆の右手に握られているのは、怪しげな色をした液体が入った透明な小瓶。

見たところ、何かの薬の様だった。


[ああ。此れだよ]

[此れには一寸した面白い効果を付けててね]

「其の効果とは?」

[うーん…それは飲んでからのお楽しみだ]

「効果を教えぬのなら、其のような怪しげな薬を買う道理も無い」

[まあまあ、そんなことを云わないでおくれ]

[決して危険なものではない。其れは保証しよう]

「………」

[そして、此の薬は貴方の恋路に必ず役立つぞ?]


嘘か真か定かではないが、余りにも真剣な表情をする老婆に、一瞬飲み込まれそうになる。


「…………」

[悩んでおるな。では、こうしよう]

[此の薬は無料ただで譲ろう。其れなら如何だ?]

「……はぁ」


勿論、偽物の可能性もある。ただ、此れが本物なのであれば、其れを無料ただで貰える機会等、またと無いだろう。


「…そこ迄云うのなら、買ってやる」

[ふふ…貴方の恋路の成就を願っているぞ]

「………」


無言で薬を受け取り、逃げるようにその場を離れていった。


































「………」


夜も更け、もう寝ようかと考え始めていた頃。やつがれは薬と睨み合いを続けていた。


「(見れば見る程怪しい薬だ。匂いは余りしないが……)」


飲むか、飲まないか。二つの境で唸りながら考える自分に莫迦らしさを覚える。


「…(危険は無さそうな故、如何せなら飲んでみるとしよう)」


意を決して蓋を開け、目を瞑り、ゴクッと一気に飲み干す。


「…………」


暫く静止する。躰に異変はない。


「…偽物か…?」


そんな違和感を覚えつつも、まあ害は無かったからいいかと思い直し、布団に潜り込んで就寝した。

























朝、騒がしい声や音が響く中、教室に入る。


〈りゅーうっ!おはよ!〉

「…お早う」


ん?


〈え?珍しくない?何時もは朝から騒がしいとか云うくせに〉


此奴は中島敦。会えば喧嘩はするが、なんだかんだで付き合いが長いクラスメートだ。


そんなことより、何だこの感覚は。口が滑ったように言葉が出てきた。


「…知らん。唯の気分だ」


取り敢えず、誤魔化すことにした。


〈え、珍しっ。明日雪でも降るんじゃない?〉

「五月蝿い。貴様はやつがれを何だと思っているのだ」

〈ちょ、御免って!そんな拗ねんなよぉー…〉


そんな他愛もないやり取りをしつつ、朝のホームルーム迄時間を潰す。






























キーンコーンカーンコーン……

四時間目が終わり、昼食を食べようと颯爽と席を立つ。


〈あ!龍!お昼一緒に食べない?〉

「否、悪いが今日は無しにしてくれ」

〈…やっぱ今日のお前可笑しくない?普段、そんな優しい断り方しないじゃん〉

「………」

然り。今日のやつがれは可笑しい。何故か、口が滑ったと云わんばかりの言動をしてしまう。


〈まあいいけどさーんじゃ、またね!〉

「嗚呼」


此方に手を振り、廊下へ走り去っていった。


却説、何時もの場所へ向かうとしよう。





















「…………」


人一人居ない図書室に身を下ろし、弁当箱を広げ、持ってきていた読みかけの小説を開く。


騒がしい場所を嫌うやつがれにとって、図書室は静かに昼食を食べるには打って付けの場所だった。


「…………」ペラ


響くのは、時折カツンと鳴る箸の音と、本の頁を捲る音だけ。

本当に心地いい場所だ。










『もーらいっ』


ヒョイッと弁当に詰めたおかずを摘んで口の中に入れたお調子者。


『んふふ〜美味しいねぇ』

「!?え、あ、だ、太宰さん…?」

『え、今更驚いたの?普通気付くでしょ、ドアの音とか足音で』

「……本に集中してたので」

『君の集中力、私にも分けて欲しいものだね』


くすくすと笑う此の人は、一つ上の先輩の太宰さん。彼此れ一年程の付き合いであり、そして_____







やつがれが好いている人。





『芥川君は相変わらずだね。寂しくならないの?』

「…太宰さんこそ、其処ら中から昼食の誘いを受けていたのでは?」


向かい側にドサッと座った太宰さんは、苦い顔をして云う。


『だって、知らない人と一緒に昼食なんて無理じゃない?ほんと、知らない人と一緒にご飯食べよーとかよく云えるよね』


太宰さんは、容姿端麗、頭脳明晰、更には生徒会書記長という、漫画にでも出てきそうな完璧さを持ち合わせている人だ。

故に、女子生徒からの歓声は勿論、告白の回数も片手では数え切れない程らしい。


「…………」

『?如何したの其の顔、もしかして〜嫉妬?』


ニヤニヤと笑いながら訊いてくる。そんな独占欲の塊の様な感情を持っている等______


「そうですけど、何か不都合でも?」


ん?


『え?』

「太宰さんが女子生徒と笑顔で話す姿を見る度にもやもやします」


待て。何を云っているのだやつがれは。

そんな感情とは裏腹に、やつがれの口は止まることを知らない。


「其の笑顔は、やつがれには向けてくれないのですか?」

『ちょ、ちょっとストーーーップ!!』

「むぐ」


いよいよ我慢しきれなくなったのか、勢い良く立ち上がって両手でやつがれの口を押さえた。

太宰さんは、今迄見たことがない顔をしていた。

頬は真っ赤に染まり、顔を顰めている。


『あ、あのね?えと、あの、何が何だかよく判らないのだけど…』


僕も何が何だかよく判らない。何故、何故こんなにもするすると言葉が出てくるのだ。

まるで、口だけ別人の様な____


「んんん!」

『え、あ、御免御免』


息が苦しくなり、慌てて手を離した太宰さん。

もう遅いと判っていても、慌てて自分の口を押さえる。


「(何だ、今の……)」


今の僕は、酷い顔をしている。頬が、顔が、すごく熱い。


『芥川君…?』

「!!す、すみませッ…い、今のは…!!」


間違いです。そう云いたいのに、口が頑なに開かない。云いたくないことはするすると出てくるくせに、云いたいことは出てこない。


『と、取り敢えず、私はもう行くから……』

「!!」パシッ


躰が、勝手に____


「行かないでくださいっ……」

『…!!』

「だ、太宰さん、は、僕のこと嫌いなんですか」


違う。違う。


頭と躰の言動が一致せず、恥ずかしさの余り更に顔が熱くなる。

混乱やら恥ずかしさやらで頭が可笑しくなり、生理的な涙も溢れそうになる。


『…はぁ、本当に君は…』

「!!」


真逆、こんな形で自分の嘘が露になるとは思わなかった。

叶わない恋ならば、隠さなければいけないのに。

如何して。如何して。

もういい。振るなら振ってくれ。そうすれば潔く諦め切れる。














『私のこと、煽ってる?』

「は…?」


余りに予想外の返答に、思わず素っ頓狂な声をあげる。


『君は、何時からそんなに素直になっちゃったかなぁ…ま、可愛いけど』


ニコリと笑うと、やつがれを壁の方へ追い詰め、顔の横に手を置く。

其れが壁ドンなのだと、恥ずかしさや混乱で埋めつくされた頭では、理解するのに数秒かかってしまった。


『先刻、芥川君のことが嫌いかって云ったよね。其の答え、今教えてあげる』

「………」






_____________







「…!!」

『ふふ…顔真っ赤にしちゃって…かーわい♡』

「だ、太宰さッ…」


すり、と頬を撫でると、顔が近づく。



顔が沸騰したように赤い。もう、もう_______













「っ!!」バシッ

『!?』

「はあ…っ、はあっ…」


この一線は超えてはダメだと、本能が警笛を鳴らした。


「………」

『…………』


心底驚いた様な顔をしている太宰さんを横目に、本と弁当箱を持つと、逃げるように図書室を出ていった。




















タッタッタッ……

先程の言葉が、何度も何度も頭の中で繰り返される。







『私も芥川君のこと、好きだよ』









驚いた。真逆、同じ気持ちだとは思わなかっ た。

嬉しかった。逃げる理由なんて無かった筈。



なのに、なのに、



何故、逃げたんだ。


恥ずかしかったから?

突然の返事に混乱していたから?










__否、違う










やつがれが付き合うべき相手ではないと、釣り合わないと、

察してしまったから。


如何せ叶わぬ恋だと、

諦めていたから。








ああ、馬鹿だ。散々恋心を寄せておいて。

馬鹿、馬鹿。

自己中心的もいいところだ。


















その日の夜は、当然ながら中々寝付けなかった。

逃げた自分への後悔と、劣等感と、それからほんの少しの嬉しさ。

ぶつかり合う真反対な感情に、自分を見失っているような感覚に陥った。








__此の薬は、貴方の恋路に必ず役立つぞ?







「…!!」


そうだ。思い出した。

口が別人になったような感覚。口が滑ったように出てくる言葉の数々。


「(真逆、全てあの薬の所為なのか…?)」


きっとそうだ。其れ以外に何も心当たりが無い。


ということは、此の薬は、






「(自分の気持ちが素直に出てきてしまう薬?)」







そう考えると、これ迄の自分の行動に全て辻褄が合った。

一つ目の霧は晴れた。

後一つ。






__此の薬は、貴方の恋路に必ず役立つぞ?








「(…実に下らぬ。矢張り貰うのでは無かった)」


後悔先に立たず。もやもやを内側に抱えた儘、眠りに落ちた。


































緊張と不安が入り交じった感情を抱えながら、登校した。


〈…龍、お前大丈夫か?今日なんかすごい落ち込んでない?顔も疲れてるし……〉


矢張り流石と云うべきか。敦はいち早くやつがれの異変に気づいた。


「……大丈夫ではない」


あの薬の所為か、今は嘘を付けない。


〈…お前がそんな弱音吐くの珍しいじゃん。如何したの?話聞くよ?〉

「…………」


話そうかと口を空けたとき、丁度朝のチャイムが鳴った。

「また昼休みね」と約束を取り付けた敦は、颯爽と授業の準備に入る。

やつがれの頭はあの人のことで埋めつくされていた。

























〈御免。一寸購買行ってくるから、此処で待っといて〉

「嗚呼」


敦はやつがれと違い、購買で昼を済ませる事が多い。

購買から少し離れた場所で静かに敦の帰りを待つ。






『芥川君』

「!?」


後ろに立っていたのは、 今、一番会いたくなかった人。

よりにもよって、一人で居るときに。


「あ、だ、太宰さん……」

『………』


無表情で此方を見つめる太宰さんは、一体何を云おうとしているのだろう。


「…すみません。もう行きます」

『あ、一寸待っ___』


また逃げた。

何を云われるのか怖くて。

もしかしたら、あの言葉は嘘だと云われるのかもしれないと、堪らなく怖くて。











「(…告白等、しなければよかった)」


叶わぬ恋なら叶わぬ恋で終わらせたかった。

もう、厭だ。













『…………』

《…おい太宰。何をボーッとしてんだよ》

『ん?ああ別に何でもないよ。さ、お昼食べよ♪ 』

《あ”?何で俺が手前と飯を食わなくちゃいけねぇんだよ》

『だって、女子達に「一人なら私と食べようよ〜」とか云われて面倒くさいもん』

《はぁぁぁぁ…》

『あと、中也の作った卵焼き美味しいもん』

《完っ全に其れ目当てだろーが!!》

『いやいや、五割は前者の理由さ』

《はぁ…わーったよ》

『珍しく素直だね。卵焼き美味しく食べて貰えるの嬉しいの?』

《死ね》

『酷いッ!!!』



















「………」

〈御免御免、遅くなって……って、すごい顰め面だな〉

「………」

〈まあ、何があったかは後で聞くとして、取り敢えず屋上行こう〉

「……嗚呼」


流石にやりすぎたかもしれない、という余りにも今更な罪悪感を抱えながら、敦の後を追った。





















〈…で、何があったの?〉


先程、購買で買ったメロンパンをかじりながら訊いてくる。


「……太宰さんに告白した」

〈うんうん……っては?〉


目を大きく見開き、此方を凝視する。

余りにも唐突すぎたか。

しかし、素直になる薬を服用した今、嘘で取り繕うこと等不可能だ。


〈え、いや、ちょ、え?〉

〈龍、太宰先輩のこと好きだったの?〉

「嗚呼」

〈マジかぁ…全然気づかなかった〉


心底驚いた様な声音で頭を抱える。

そんなに僕は判りづらいのかと、少し疑問に思った。


「それと、僕は今、素直になる薬と云う物を服用している」

〈はぁぁ…?何だよ其の薬…〉

〈お前、そういうの貰う性格じゃなくない?〉

「否、薬の効果は知らされておらず、飲む迄どのような効果なのか判らなかったのだ」

「それでも服用したのは……僕の恋路に役立つと云われた故」

〈いや乙女かよっ!!〉

「……五月蝿い」


力なく吐いた言葉は宙へと舞って消えた。


〈それで、其の薬の所為で今迄頑なに隠してた太宰先輩への思いを云っちゃったって訳か〉

「そうだ」

〈太宰先輩に振られたからそんなに落ち込んでるの?〉

「否、太宰さんに告白は受け入れて貰えた」

〈え?太宰さん、龍のこと好きだったの…?〉

「?敦は、太宰さんと同じ生徒会だろう。何も聞いていないのか」

〈否、初耳だよっ!!〉


よくよく考えれば、抑も太宰さんは自分の恋の話を進んで誰かにするような人では無い。

なんなら、一途に誰かに恋焦がれる様な性格ではない。


〈まあそんな事は置いといて、折角両思いだって判ったのに、何でそんなに落ち込んでるの?〉

「……逃げたからだ」

〈え?〉

「太宰さんが嘘を云っているのではないか、僕で本当に善いのか、其の様な考えが頭によぎり、思わず逃げてしまった」

「今日も太宰さんに声を掛けられたが、気まずさ故、口を利いておらぬ」

〈………〉

「…?何だ」


全てを話し終え、隣で静かに聞く敦の顔を見ると、その顔は心底呆れていた。


〈…お前、そんな理由で逃げたのかよ…〉

「そんな理由とは何だ」

〈そんな理由はそんな理由!!〉

〈折角、お前の告白に返事してくれたのに自分は逃げるとか、都合がいいにも程があるでしょ 〉

「うぐ……云い返せぬ」

〈取り敢えず、今日太宰さんと話しなよ 〉

「…善処する」


矢張り、其れ以外に方法は無いのか…

否、之ばかりは逃げた僕の責任。今日、確り太宰さんと話をしよう。


そう決意して、昼休みは終わった。





























「……却説、如何すれば善いのか…」


太宰さんと会う約束等、取り付けていない。太宰さんのクラスにも出向いたが、既にいなくなっていた。生徒会役員である敦にも訊いたが、今日は来ていないらしい。


「(もう帰っているだろうか……)」


なら明日にでも……


「……あ」


もしかしたら。否、きっと違うと思う。

でも、ほんの少しの希望を持って、とある場所へ一直線に走り出す。























ガラガラ

向かった先は図書室。あの人が本を読む趣味が無いことは判っている。

でも、此処に居る気がした。








「あ……」


夕焼けに照らされ、静かに佇む影が一つ。









「…太宰さん……」


今、一番会いたかった人。


『ふふ、遅いよ。芥川君』

「…なんで、此処に居るんですか」

『君こそ、何で此処に居るの?』

「……此処に行けば、会えると思ったので」

『そう』

『私もね、此処に居たら君が来てくれると思ったんだ』


目を細めて微笑む太宰さん。矢張り、僕の行動等、全てお見通しと云う訳か。


『さ、訊きたい事は沢山あるんだよ』

「………」


僕の方へ近寄ってくる。最初は、何を云われるのだろうか。


『……と、その前に』

「?」

『抱きしめさせて。君のこと』

「!?」


またもや、返ってきたのは的外れな言葉。

此の人は本当に意味が判らない。


『散っ々逃げたんだもん。我儘聞いてよね』

「…はい」


矢張り、僕は嘘のように素直だ。

其れは、薬の所為だけでは無い。

きっと______






ぎゅっ


「ん……」

『やっと、やっと近くで触れた』

「………」


温かい。安心するような優しい手だ。


『…なんで、逃げたの』

『私のこと、好きなんじゃないの?』

「…其れ、は」


太宰さんの声は、酷く震えて悲しそうだった。


「…元々、太宰さんへ告白等する心算はありませんでした」

「太宰さんには、僕の代わり等幾らでもいるでしょう」


今更ながら、恥ずかしい理由だ。


「でも、この前の帰り道に、ある薬を貰って」

「事前に効果は知らされていなかったのですが、服用してからの違和感で、薬には素直なるという効果である事に気づいて」

「だからあの時、自分の思いを抑えられず、あのような事を口走ってしまいました」

『………』

「真逆、太宰さんと僕と同じ気持ちとは思いませんでした」

「嬉しかったのですが、その……もしかしたら嘘なのではないか、僕で本当に善いのかと…考えてしまって」


ずっと下を向いた儘、一気に話した。今、太宰さんはどんな顔をしているのだろう。

きっと、下らないと莫迦にした様な顔をしているだろう。






『……莫迦』

『芥川君の、莫迦』


そう弱々しく呟き、肩に顔を埋める。

ぎゅう…と、抱きしめる手に力が篭もる。


『嘘なんかじゃないよ。告白されたのも、すっごく嬉しかった』

『だから、私なりにちゃんと返事をした心算だったけど…』

「………」


その声は真剣で、真っ直ぐで、心の底から出た本音なのだと判った。


『芥川君の代わりなんて、幾らでもいるって云ったよね』

『そんな訳無いじゃん』

『芥川君じゃないと、厭だ』


息を吐く様に浴びせられる愛の言葉。

力を込めた手。

悲しそうな声色。

嗚呼、僕は本当に酷い事をしたと、今更ながら酷く後悔した。


『芥川君は、私のこと、好き?』

「好きに決まってるじゃないですか」


薬のお陰で、スラスラと言葉が出てくる。

顔を赤く染めながら、続ける。

今度は、確りと顔を見て。目を見て。視界がやつがれだけになるように。


「太宰さんではないと、厭です」

「太宰さん、やつがれと恋人になってください 」

『……ふふ、芥川君ったら熱烈だね』

「…別に善いじゃないですか」

『返事は勿論、はいだよ』


ニコリと微笑む。愛おしく、優しく、少しばかりの執着心も添えて。


「…太宰さん」

『なあに?』

「昨日の続き、してください」

『薬のお陰で、随分と素直になったものだねぇ』


そう云いながら、徐々にやつがれを壁に追いやり、逃げ道を無くしていく。

太宰さんの目が、ほんの一瞬、獲物を捕えた獣に見えた気がした。





















トンッ

『顔真っ赤…そんなに物欲しそうな目しちゃって…♡』

「ッ……」


グイッと顎を掬い上げると



ちゅっ

「ん…っ」

ちゅっ…はむ…っ

「ん、♡んんん♡」


何度も角度を変えて口付けられる。

甘噛みされたり舐められたりする度、ぞくぞくとした快楽が押し寄せる。


ぐちゅッ、♡

「ん”!?♡♡」

『(びくびくしちゃって…可愛いなぁ♡)』

ぐちゅっ レロッ…♡

「ん”ぁ♡♡ん”〜ッ”♡♡」


唐突に舌を入れられ、躰が更に反応する。

ぞくぞくと駆け回る快楽が堪らない。


「ぁ゛♡♡」

『ぷはっ……』


間に銀色の糸が引かれ、ぷつりと切れる。


『キスだけでこんなに喘いじゃって…そんなに気持ちいいの?』

「はぁ…はあっ…♡♡」

「もっと…くださいぃ…♡」


溶け落ちた理性と薬の所為で、歯止めが効かなくなりそうだ。


『ふふ…満足するまで気持ち良くしてあげる♡』

「ん…♡」



いよいよ、群青が深い蜜柑色にすっぽりと包まれた頃。

お互いの気持ちを確かめ合うように、再び口付けを交わした。



















Fin

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