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幼少期、 朝目覚めれば、少し離れたところで眠る兄貴。起こさないように少しずつずれて、優しく抱きつく。 兄貴の心音がとことこ心地良いリズムを刻んでいて、心の底から安心する。 あたたかい兄貴の体温を感じて、俺の少し冷たい体が、兄貴の体温を奪い取るような感覚、でも暖かくて、安心して、そのまま目を閉じた。
そして今、目覚めない兄貴の隣に寝転がって、最近の話をしてやる。少し離れたところで浅い呼吸を繰り返す兄貴、目は虚ろで、肌は青ざめている。きっと、今の兄貴はおれよりつめたいんだろうな、なんてぼんやり考えて。兄貴に触れる。ガラスの破片が喉の動脈に刺さっている。ところどころから鉄の匂いがする。
「今助けてあげるから、兄貴」
とうの昔、兄貴から体温を奪い取ろうとしたこと、ちょっと申し訳ないと思ってる。
それのお詫びと言ってはなんだけど、俺の体温をあげるから、どうか。おれより早く死なないで。
止血して、俺と兄貴をチューブで繋げて。俺から液体が抜かれていくのを眺める。
俺は、兄貴のためなら、なんでもするよ。
きっと、目覚めたら俺は俺じゃなくて、兄貴の弟じゃなくなる。兄貴も、俺の事は覚えてない。
そっと、心地良くて暖かい、細いようでしっかりした手が、俺の頭を優しく撫でた。
それかどこかやさしくて、かなしくて、くやしくて、もっとふれてほしかった
しにたくないな、あにきのそばにいたいな
『愛してるよ、ラディ』
なんて、掠れた声がした気がした。
お互い面識はないけど、存在は覚えてた、不思議な話