コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……はぁ、今日も一日お疲れ様」
夜、宿屋の部屋でひとりつぶやく。
今日は鉱石、薬草、魔法、食材……といったお店をまわって、大量に買い物をして終わってしまった。
明日からはまた冒険者ギルドの依頼を受けるから、今日は一応、お休みという位置付けだったんだけど……。
「――さて、何が作れるようになったか確認してみよう!」
ひとまずアーディファクト系のアイテムは置いておいて、魔法のお店で買った『マンドラゴラの根』がかなり気になっていたのだ。
引き抜くときに悲鳴を上げるという逸話もあるけど、そもそも神経毒を持っているんだよね。
この手の薬草は使い方によっては薬にもなるから、何が作れるのかはとても楽しみだ。
それじゃ、『創造才覚<錬金術>』……っと。
作れるアイテムを確認してみると、大量のアイテム名が頭を駆け巡った。
さすがに他にもいろいろと買い込んだものだから、作れる種類が半端ない。
「……痛っ?」
そしてやってくる、ちょっとした頭痛。
ズキン……くらいのものだけど、『創造才覚<錬金術>』でも反動がくることがあるのか。
「うぅん……。
頭痛が職業病みたいになってきたなぁ……」
こういうのを回避する、魔石とかアーティファクト系のアイテムは無いのかな?
空箱の魔石みたいに、割合で減らしてくれるだけでもありがたいんだけど――
……まぁ、無いものねだりをしても仕方が無いか。
さて、アイテム探しを続けよう。
しばらく探していると……さすがに神経毒を持つマンドラゴラだけあって、やはり幻覚や幻聴の効果を持つアイテムが多く見える。
そんな中――
「ん……? これは……」
──────────────────
【性格変更ポーション】
飲んだ者の性格をランダムで永続的に変更するポーション
──────────────────
………………。
……何という恐ろしいアイテムがあるのでしょう。
そういえば脳の病気で、脳のどこかが圧迫されると性格が変わってしまう……みたいな話があったっけ。
つまり、それと似たようなことを起こしてしまうのかな?
……これを上手く使えば浪費癖も治るかもしれないけど、そもそもこんな薬を作っても良いのだろうか……。
下手をすれば浪費癖とは違う部分が変わって、余計面倒なことになるかもしれないし……。
ちょっと自分でも試したくなる気持ちはあるけど、永続的に変わるわけだからなぁ……。
もう少し、違うのは無いのかな……。
──────────────────
【性格変更ポーション(時間限定)】
飲んだ者の性格をランダムで一時的に変更するポーション
──────────────────
……おや? 時間限定のやつもあるんだ。
これならちょっと、作ってみようかな。
「れんきーんっ」
バチッ
いつもの音と共に、右手の上には透明の液体が入った瓶が現れた。
見た目は、どこからどう見ても水っぽい。
それじゃ、かんてーっ。
──────────────────
【性格変更ポーション(時間限定)(S+級)】
飲んだ者の性格をランダムで一時的に変更するポーション。
効果が12時間持続する
※追加効果:濃度による時間調整が可能
──────────────────
うん、成功したみたい。
これをそのまま飲むと効果は12時間だけど……、薄めればもっと短くなるのかな?
……それじゃ、ちょっと薄めてみることにしよう。
いろいろ試してみた結果、コップ1杯に2滴ほど入れると、最短の5分になるようだった。
本当なら1分くらいで試してみたかったけど、5分なら……まぁ、問題は無いか。
それじゃ、ちょっと怖いけど飲んでみ――
コンコンコン
――ようと思った瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。
あ、あぶない。もう少し早く飲んでいたらどうなっていたことか……。
「はい、どなたですか?」
「アイナさーん、こんばんわ!」
ドアの向こうからエミリアさんの声がする。
何だろう? 部屋に来るなんて珍しいなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうも、突然にお邪魔してすいません」
「いえいえ、どうしたんですか? 珍しいですね」
「あの、ちょっとお願いがありまして」
「お願いですか? できることならやりますけど」
「ありがとうございます!
えっとですね、これなんですけど――」
エミリアさんは持参したコップを2つ、テーブルの上に置いた。
見れば、中には緑色の粉末が入っている。
「何ですか、これ?」
「今日のお昼に食材を買いに行ったじゃないですか。
あそこで買ったものなんですけど……」
「ああ、そういえば何か買ってましたね」
「この粉末、緑黄色野菜から抽出した成分なんですって。
健康と美容に良いって触れ込みだったので買ってみたのですが、かなり苦いそうで」
……元の世界にもそんなのがあったような気がする。
不味いけど、もう1杯飲みそうな感じのアレ。
「それで、ですね、
一人で苦いのもいやなので、アイナさんもどうかなと思って」
「エミリアさん、他人を巻き添えにしないでください」
「まぁまぁ。
こういうのも経験ですよ、お願いしますっ!」
うーん……。
エミリアさんの困り顔には弱いんだよなぁ……。
「むぅ、分かりました。えっと、それじゃお水ですね」
バチッ
「はい、『湯冷ましの水』」
私は粉末を溶かすための水を作り出した。
アイテムボックスの水をそのまま出すのでも良かったけど、錬金術で作ればS+級になるからね。
飲む前から苦いことは分かっているので、とりあえず出来るだけのことはしておこう……という苦肉の策だ。
「ありがとうございます。
ポーション瓶だと、1つでコップに1杯くらいですか」
「それならもう1本、要りますね」
バチッ
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。それではこちら、アイナさんの分で」
「どうも……。
うわぁ、苦そうですね……」
「それでは、一緒に飲みましょう。いっせーのぉ……」
「「せっ」」
ゴクリ
「「――――――――――――にっがああああああああああああああああ!!!!!!!!!」」
「ひゃ、ひゃー、これはーっ!!」
エミリアさんは近くにあった水を慌てて飲んだ。
「あああ、エミリアさん!
私にも水! 水、くださいっ!!」
私もエミリアさんからコップを受け取り、一気に煽る。
苦さはかなり残るが、それでも飲まないよりはマシだ。
……それでもまだまだ足りない。
私はアイテムボックスから水の入った大きな瓶を出して、追加で飲んだ。
「……はぁ、はぁ……。
どうにか収まった……」
後味はまだ残るものの、何とか窮地を脱することは出来た。
しかし、あの粉末だけでこれほどの苦さを出せるとは――
「エミリアさんも、もっと水要りますよね?」
「……そうね。
でもわたしは、それよりももっと――」
ガシャン!
エミリアさんは乱暴にテーブルを横に倒して、私に迫ってくる。
ええ? 一体、何事――
「……わたし、アイナのことが欲しいなぁ。
ねぇ? 良いでしょう?」
「はぇ?」
……エミリアさん?
顔付きがいつもと違うし、言葉の調子も違うし、何だかおかしいですよ?
性格が変わったっていうか――
「……もしかしてっ!!?」
そういえばエミリアさんが飲んでた水は……もしかして、性格変更ポーションを薄めたやつ!?
って、私も飲んじゃった!? 確か、飲んじゃったよね!?
「どうしたの……? こっちを見てよぉ……」
むちゅ♪
「――――――――――――ッ!!!?」
その感触と共に、エミリアさんの手が私の身体に触れてくる。
私はそれを、何とか力ずくで引き離すが――
「ちょ、エミリアさん、やめてっ!!」
「……えぇ?
ダメなのぉ……?」
エミリアさんは悲しそうな顔でそんなことを言ってくる。
そりゃ、ダメに決まってるじゃない!!
「わ、私はこういうの、は、初めてなんだからねっ!
も、もっと優しくしなさいよっ!!」
まったくもう、雰囲気が足りないんだから!
そんなこと自分で気付きなさいよね!!
「うん、ごめんね……。
わたし、優しくしてあげるから――」
「わ、分かれば良いのよ! まったくもう――」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おはようございます」
「「…………お、おはようございます……」」
「……お二人とも、どうかされたんですか?」
いつもの、朝の挨拶……。
しかし私たちのおかしな様子に、ルークは不思議そうな顔をする。
「ななな、何でも無いですよね、エミリアさん!」
「そそそ、そうですよね、アイナさん!」
エミリアさんの顔を見ると、昨晩のことを思い出して、顔から火が出てしまう。
彼女も同様で、私とは目を合わせようとしない。
「……気を取り直して、今日も頑張りましょう!
まずはご飯! ご飯を食べに行きましょう!」
「そうですよ! わたしは元々、色気より食い気なんです!」
……その言葉に、私は再び気まずい思いが蘇る。
まぁ、効果時間が5分だったのは……助かったかな、うん……。