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お昼過ぎ、私たちはコンラッドさんのお屋敷を訪れていた。
前回とは違う部屋に通されたあと、コンラッドさんの到着を待つことに。
『性格変更ポーション』を見せることについては、色々と考えはしたものの――
……最終的には『作れちゃったし、見せてしまおう』くらいの軽いノリに収まっていた。
人様の性格を変えるなんて大それたことだけど、まぁ……ね。
「やぁやぁ、いらっしゃい」
「こんにちは、突然にすいません」
「いやいや!
依頼のものが出来たとなれば、早速試したいと思ってね!」
コンラッドさんはそう言いながら、椅子にどかっと座った。
「……それで?
浪費癖の方は、治すことが出来るんだろうね?」
「あの、作ってきたものは少し違いまして……」
「うん?」
不思議がるコンラッドさんに、『性格変更ポーション』を見せながら説明をする。
浪費癖は治るか分からないが、そもそもの性格を変える効果を持つアイテムだ……ということを。
「……ふむ。性格自体を変えるのか……」
「はい。浪費癖が変われば良いのですが、別のところが変われば浪費癖は残るかもしれません」
「それは、賭けだなぁ」
まったくです。
「少し危険なものなので、使わないで済むなら使わない方が良いと思います。
でも、私が作れるのはこれくらいなので――
……他のもので、ということでしたら、この依頼はキャンセルさせてください」
さり気なく、撤退宣言をチラつかせてみる。
実際のところ、『性格変更ポーション』は使わないで、このなまキャンセルになってくれるのが一番良いかもしれない……。
「ちなみに、効果はしっかりあるんだろうね?」
「それはもう。
泣きたくなるくらいに効果がありますよ」
「ほう、試してみたのかね?」
「……ええ、色々ありまして」
「ふむ……。
なかなか信じがたい効果ではあるが……試してみることにするか!」
……え? 試してみちゃうの?
「あの……ちょっと効果が凄いので……。
出来れば私たちも見届けたいのですが……」
いや、正直別に見届けたくは無いんだけど……悪用されたら困るからね。
巡り巡って自分の口に入る、なんてことがあった日には洒落にもならないし……。
「しかし、これは我が家の問題だからなぁ……」
「見届けさせてくれたら、代金は特別に無料で良いですよ」
「よし、見届けていってくれたまえ」
……早っ!!
「それでは、見届けさせていただきますね」
「うむ。しかしそうなると、どうやって飲ませれば良いものか」
「そうですね……。
ああ、私は錬金術師なので、何か美容に効果があるアイテムを持ってきた……とか何とか言って」
「クリームのようなものならまだしも、このポーションはいかにも水っぽいからな……」
……確かに。
そのおかげで、私とエミリアさんは間違って飲んじゃったわけだしね。
てっとり早く、何か見た目の演出でも出来れば良いんだけど――
「うーん……あ!」
「どうかしたかね、アイナさん」
「えぇっと、炭酸ってご存知ですか?」
「たんさん……? 何だね、それは」
「ルークとエミリアさんは知ってる?」
「「いいえ?」」
ふむふむ、この世界には炭酸という発想は無いのか。
それならここで、使わせてもらおうかな。
「ちょっと『性格変更ポーション』を戻しますね」
アイテムボックスにしまって、それから……れんきんっ!
バチッ
いつもの音と共に、私の右手の上に再び『性格変更ポーション』が現れる。
しかし今回のは特別製。
空気中の二酸化炭素をアイテムボックスに入れて、それを溶かして炭酸にしてみたのだ。
ここら辺は、学校で習った化学の知識が活きてきたね。
「おお……なんだね、これは?
小さい泡が浮かび上がってきているぞ……?」
「これは炭酸といって……一応、美容に良い泡なんです。
まぁ、続けて飲まないと効果はありませんけど」
「いやいや、しかしこれなら物珍しさということもあるな。
きっとこれなら飲んでくれるに違いない!」
……上手くいくかな?
さっさと帰りたいし、上手くいってくれると良いなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらくすると、コンラッドさんの奥さんがやってきた。
「あら、お客様? ようこそ我が屋敷へ。
……ところであなた、何か御用ですか?」
「ああ、こちらの方は旅の錬金術師のアイナさんといってな。
今日は美容に良いという不思議な水を持ってきてもらったんだ」
「美容に? ふぅん……?」
奥さんは、コンラッドさんの前にある瓶に興味を示した。
「あら? 何だか泡が立っていますわね。これは何ですの?」
「はい、それが美容に良いとされる泡なんです。
血の巡りを良くして、お肌に栄養を回りやすくしてくれるんですよ」
「へぇ……?
でも私、そんなものは初めて聞きましたわ?」
「これは異国で生み出された技術でして、私がこれから広めていこうと考えているんです。
ミラエルツでも販売を考えているのですが、まずはガレンドルグ家の皆様にと思いまして」
「ほほほ。それは殊勝な心掛け。
それでは、これは頂いておきましょう」
奥さんは瓶を手に取り、そのまま部屋から出て行こうとする。
「……あの、コンラッドさん?」
「う、うむ!
あー、その水な、ちょっとここで飲んでいってみないか?」
コンラッドさんの言葉に、奥さんの足が止まる。
「あら? どうしてですの?」
「え? それはそのー、いやー」
コンラッドさんは私に、困った顔で助けを求めてくる。
「あ、その泡ですね。
飲み慣れない場合がありますので、その場合は泡の量を調整させて頂こうと思いまして」
「そうなの? それじゃ失礼して、飲んでみようかしら?」
私の言い訳を聞き入れて、奥さんは『性格変更ポーション』を飲み始めた。
「……ふぅ。これは不思議な飲み心地ですわね。
そういえば、あなたは飲んでみたのかしら?」
「うん? いや、まだだが――」
「それならあなたもどうぞ」
奥さんはコンラッドさんに瓶を突き出した。
「いや、私は美容には……」
「何を仰るの?
これはこちらの方が、『ガレンドルグ家の皆様に』って持ってこられたものでしょう?」
「そ、それはそうなんだが――」
「ほらほら、好き嫌いなさらず。
私も飲んだのですから、あなたもお飲みなさい」
「いや、だから――
……むぐっ!? ごくっ」
「「「あっ」」」
「え?」
……何ということか。
奥さんに続いて、コンラッドさんまでもが『性格変更ポーション』を飲んでしまった……。
瓶は空になったから、ひとまずこれで見届けることが出来た……ということになる。
これで悪用される心配は無くなったけど……いやいや、予想に反してコンラッドさんまでもが被害者に……。
「あ、あーっと……。
あの、何かお変わりありませんか……」
「いやですわ、そんなにすぐ美容効果が出るわけないじゃないですか」
奥さんは明るくそう言った。
さっきよりも少し明るくなった気はするけど、奥さんはあまり変わっていなそうだ。
そしてコンラッドさんは――
「……ふむ、何だか爽やかな気分だ。
よし、それではアイナさんたちには報酬を出すとしよう」
「え?」
「大変な苦労を掛けてしまったが、金貨100枚で足りるかね?」
「え、あの……?
最初に言った通り、無料で良いんですけど……」
「そんなことをしたらガレンドルグ家の名折れ。
足りないなら増やすが、いくらが良いかな?」
「あ、はい……。金貨100枚で十分です……」
「ちょっと、あなた! さすがに金貨100枚は出しすぎではないですか!?
それなら私の舞踏会用のドレスを――」
「良いぞ。それも買ってやろう」
「……えっ!?
あ、あなた……どうされたのですか?」
「何を不思議がる?
愛する妻の欲しいものは、私の欲しいものと同じだ。何の遠慮もいらないぞ?」
「ああ……あなた、いつの間にそんなに男前に!
ついでにそのドレスと合わせて、ネックレスも買って良いかしら!」
「いいとも。好きなものを買うが良い」
「あなた……愛してるわっ!!」
「ははは、客人の前だぞ。あとにしなさい、あとに」
「――……あの……アイナさん……。
この展開って、一体何でしょうね……?」
「ま、まったくですね……?
浪費癖は気にならなくなったみたいで……何より?」
「ダメな方向に、解決しましたね……」
……でも、ひとまず解決を迎えられたし、金貨も100枚もらえたし……。
本件はこれで解決――
……ということに、させて頂こう……。