その日から、私は湊との距離がどこか微妙に変わったように感じていた。いつもの冷たい態度の中にも、どこか優しさがにじみ出ている気がする。きっと気のせいだと思おうとしても、心の中ではその変化を確かに感じていた。
そして、学校が始まって数日が過ぎ、湊とのやり取りも相変わらず続いていた。もちろん、相変わらず毒舌で、少し意地悪な湊の一面は変わらないけれど、その冷たい言葉の中にほんの少しだけ違和感があることに気づいていた。
ある日、昼休み、私が友達とお昼を食べていると、湊がまた現れた。
「おい、せりな。」
その一言に、私は思わず手を止めた。
「せ、せりな?」
私は少し驚きながら湊を見上げた。今まで、湊は私のことを「桜庭」と呼んでいたはずなのに、どうして急に名前で呼んでくるのだろう?
湊は、私が驚いたことに気づいたのか、わざと冷たく言った。
「何だよ、別に変じゃないだろ。」
でも、その顔は赤くて、目を合わせないようにしている。
「どうして急に、私の名前で呼ぶの?」
「うるせーな、別に気にすんな。」
湊は普段通りに強がっているけど、私は心の中で少しだけ嬉しくなった。だって、湊が名前で呼んでくれるなんて、考えてもみなかったから。
その後も、湊は時々私を「せりな」と呼ぶようになっていた。最初はすごく不自然に感じたけれど、次第にそれが当たり前のように感じてきて、私の中でも湊に対する感情が少し変わり始めていた。
**—その日放課後—**
放課後、私が教室を出ようとすると、湊がやってきた。
「せりな。」
その呼びかけに、思わず顔が赤くなる。
「はい…?」
「何でそんなにボーっとしてんだよ。」
私は少し照れながら答える。
「だって、急に名前で呼ばれると、なんか変な感じがして。」
湊は軽く鼻で笑うと、少し顔を背けて言った。
「別に、お前のことはそんなに意識してないけどな。」
その言葉に、私はちょっとだけ心が傷ついた。でも、湊はすぐに言葉を続けた。
「でも、あの時、ちゃんと守ったからな。お前、危なかったし。」
「湊…」
湊が少しだけ照れたように言うその言葉に、私は胸が高鳴るのを感じた。
「だから、お前が名前で呼ばれるくらい、いいだろ。」
「うん…」
その瞬間、私の中で何かが少しずつ変わっていくのを感じた。湊が私を「せりな」と呼ぶことで、私の心がどんどん温かくなっていく。
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