「もう1回お願いしまーす」
スタッフさんの声がする。
若井の歪んだギターが、涼ちゃんのキーボードが聞こえてくる。
耳鳴りがする。
うるさすぎる。
頭が痛い。
「元貴くん?」
「あ、は、はい」
慌てて返事をする。
「行きまーす」
その声と同時にヘッドフォンから伴奏が流れた。
大きすぎるよ。
歌う。もっと伝えたい。もっと表現したい。
でも、自分の声が頭の中で響く。めまいがする。
耳鳴りがとまんない。むりだよ。爆発しちゃう。
「元貴?」
元貴が両耳を抑えていた、背中を丸めて目を固く閉じて肩が上下している。
思わずギターを置いて駆け寄る。
「元貴!」
涼ちゃんも駆けてきた。
元貴の顔は真っ白で、汗で髪の毛が張り付いている。唇が開いていて、早すぎる息が聞こえた。
「元貴、ヘッドフォンとるからね」
僕は元貴の震える手を退けてヘッドフォンを外した。
「すみません。少し3人だけにしてもらえますか」
涼ちゃんが頼む声が聞こえて、スタジオにいた人達が出ていったのが分かった。僕はずっと元貴の背中をさすっていた。
「大丈夫だよ。ちゃんと息できてるからね」
涼ちゃんが元貴の手を握って言うけど、なにも聞こえていないようだ。呼吸の音は荒く、早くなっていく。
僕はゆっくり、元貴の耳を塞いだ。肩が跳ねる。
元貴の繊細な耳はどれだけ多くの音を捉えてるのか想像できない。さらに突発性難聴による耳鳴りの発作が重なったのだろうと思った。
元貴の呼吸が段々と戻っていく。しゃくりあげるような呼吸が減っていった。
僕は手を離した。
「上手だよ」
涼ちゃんが囁く。
元貴が僕を見あげた。
「う、うるさいの。止めて。お、お願い。」
涙に濡れた赤い両目が僕を見つめる。
僕は元貴を抱きしめる。まだ細かく震えていた。
「大丈夫、大丈夫」
元貴の呼吸が静かになった。寝ちゃったんだ。
「今日は、お休みにしようか」
涼ちゃんが言う。涼ちゃんの目も潤んでいる。
「そうだね」
寝ているのに元貴は僕の背中をつかんで離さなかった。
コメント
2件
とても、いいですね!
読みにくいので、チャットノベルに、した方が言いと思います❕(いやだったら大丈夫です、気づついたらごめんなさい)