夏休みも終わり、陽射しが強い午後の事だった。
私、浅見 紗菜(あさみ さな)は、普段と変わらぬ一日を過ごしていた。
学校が始まってからというもの、何だか気だるい日々が続いていて、特に目立った出来事もなく、ただ時が過ぎていった。
放課後、部活が終わり、駅まで歩いている途中、見慣れない封筒を拾った。
薄茶色で、表面には何も書かれていない。
ただ一つだけ、強調するように赤いインクで「紗菜へ」とだけ記されていた。
その時、心の中で何かが引っかかる感覚があった。
浅見 紗菜
正直、最初は気味が悪かった。
そんな封筒を拾ってしまうなんて、何かの冗談かと思ったけれど、手に取ってみると、確かにその封筒には異常なほどの重みが感じられた。
中身が気になって仕方がない。
もしかしたら大事な手紙かもしれない、と思い、急いで家へ帰る事にした。
家に着くと、いつも通りの静かな部屋が迎えてくれた。
両親はどこかへ出かけているらしく、家には私一人だけだった。
玄関を開けると、静けさが一層際立っていて、私は足音を忍ばせながら、封筒を手にリビングに向かう。
リビングに入ると、陽の光がカーテン越しに差し込んで、暖かな空気が漂っていた。
椅子に腰掛け、手紙の封を開ける。
中には、白い便箋が一枚。
そこには、手書きでこう書かれていた。
紗菜。あなたが持っているその力は、あなたが思っている以上に強大なものです。私たちはあなたのことを知っている。あなたを守りに来た者たちも、近くにいる。このことは、誰にも言わないで。
その手紙を読んだ瞬間、胸の奥で何かが引き締まるような感覚が走った。
どういうことだろう、これは。
ただのいたずらだろうか?
それとも、私に何かを伝えたかった誰かの、強い意図があったのだろうか?
私は無意識に立ち上がり、リビングの大きな窓を見つめた。
空が暗くなりかけている。
その時、ふと便箋の裏面を見ると、何かが書かれていることに気づいた。
そこには、小さな数字と、記号が並んでいた。
5 2 8 / !?
その数字と記号が意味するものは、まったくわからなかった。
ただ、不安に駆られた私は、その記号が私に向けられた警告なのではないかと感じた。
その日から、私はその手紙に書かれていた通り、誰にも話さずに過ごしていた。
家でも学校でも、普段通りに過ごしていたが、どこか不安で仕方がない。
手紙に書かれていた内容が、どうしても頭から離れなかった。
数日後、私はその手紙の数字をもう一度じっくり見つめてみることにした。
どうしてもその意味が解けなかったのだが、ある夜、ふと気づくことがあった。
数字の「5」「2」「8」とは、なにかの日時を示しているのかもしれない。
もしかしたら、それが今後何かの出来事につながっているのだろうか。
そして、ある夜、再び不安に駆られてその数字を携帯のカレンダーに入力してみた。
「5月28日」と。
その日、私は何もなく過ぎていくと思っていた。
しかし、再びあの封筒が私の前に現れることになる。
その日は、またどこか不安な気持ちで過ごしていたが、帰宅すると、玄関のドアの下に再び、あの封筒が置かれていた。
誰が、どうやって、私の家に?
一体何が起こっているのか、全く理解できなかった。
手に取ると、その封筒には「次はあなたが選ぶ番だ」とだけ記されていた。
私はその手紙を見つめる。
心の中で、次に何が起こるのか、もう何もかもが怖くて、ただ無力な自分を感じるばかりだった。
次の日、学校で藤堂 颯太と会うことになった。
私がその手紙を受け取ってからというもの、何かが変わり始めていた気がしてならなかった。
颯太はクラスメートの中でも少し影のある男子だが、どういうわけか、私にはどこが引き寄せられるような気がしていた。
昼休み、後者の裏庭で偶然に颯太と出会う。
藤堂 颯太
颯太は、いつものように少しクールな表情で言った。
私は躊躇したが、どうしてもその手紙に関する真実を知りたくて、颯太に手渡した。
颯太は黙って手紙を読んだ後、真剣な表情になった。
藤堂 颯太
その言葉が、私の胸に重くのしかかる。
颯太が言う通り、これはただの遊びではない気がしてきた。
夕方、駅前のカフェで再び颯太と話すことになった。
カフェの静かな空間で、手紙に関する話が続く。
颯太は
藤堂 颯太
と言い続けるが、私は全く理解できなかった。
藤堂 颯太
颯太の言葉が私の頭の中で回り続ける。
その夜、私の中で何かが変わり始めた気がした。