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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで

ATTENTION

流血表現を含みます(イラスト)

ご注意ください

アリス

サクラ……遅いわね

キャサリン

お嬢様

一人のメイドが重たい扉を軽々と開ける。暗闇に光が差し込んだ。

アリス

キャサリン……?

アリス

サクラは……

キャサリン

…………。

キャサリン

王が討たれたわ。次の『魔王』は貴女。

キャサリン

これからは『お嬢様』ではなく『王』と呼ぶことになるのね。なんだか寂しいわ。

アリス

え、えぇ……それは、そうなのだけれど……

キャサリン

…………。

アリス

キャサリン……?

暗い沈黙が流れる。時間の流れが遅く感じる。

アリス

……サクラ、生きてる、のよね?

キャサリン

生きてる!

キャサリン

……生きてるわ

キャサリン

……ただ

アリス

ただ……?ただ、なに?なんなの?

キャサリン

落ち着きなさい!

アリス

わたしは落ち着いてる。至って冷静よ、キャサリン。

キャサリン

…………。

キャサリン

その、サクラは……

キャサリン

酷い重症で……とても歩ける状態じゃないの。

キャサリン

生きているのが奇跡みたいな状況なの。

……サクラが迎えに来ない時点でいやな予感はしていた。

あぁ、やっぱり。

まただ。皆が信じている神様というのはなんて酷いの。

アリス

(やっぱり、こんな世界は間違っている。)

アリス

……そう。

アリス

それじゃ、わたしの王さまとしての初仕事ね!

アリスはにこりと笑ってみせた。

それからアリスは働いた。

ただただ、働いた。

兵を動かし、使用人を動かし、民を悼み、戴冠式を行い、『魔王』となってみせた。

これらは、先代『魔王』討伐からおよそ一週間のことである。

一週間でここまで国を復興させることが出来たのは彼女だけだと思われる。フィリップ王国に帰ったルークもこの事には驚いていた。

フィリップ王国に敗け、一度フィリップの下についたものの、ほんの3ヶ月程でアリスはデビッドの力を取り戻した。

そしてその結果、ルークがデビッド王国への信仰を宣言する以前と同じ、冷戦状態へと持ち込むことに成功する。

そしてある日。

アリス

(なんとか冷戦まで戻すことが出来た……あとはタイミングね。よく考えましょう。世界を平和にするんだから、慎重にいかないと。)

キャサリン

王、あまり根を詰めないようにね。最近の貴女、酷いわよ。

キャサリン

クマもすごいし、歩いてるときの後ろ姿も危なっかしいったらないわ。朝食も摂っていないそうじゃない。

アリス

……ええ、忠告感謝するわ。

アリスはその背丈に合ってるとは言えない椅子をずらし立つ。

キャサリン

王、どこへ?

アリス

サク、ラ……

酷い目眩と頭痛。喉がとても乾いている。耳鳴りもしてきた。

アリス

ぁ……

キャサリン

お嬢様!!

アリスはそのままバタリと倒れてしまった。残ったのは焦るメイド長と古時計の秒針の音。

??

……過労です。いったいどれだけ働かせたんですか?我が国王ながらバカと言わざるを得ませんね。

キャサリン

えっと、医者様……

??

医者ではなく神父です。お間違えないように。

キャサリン

は、はぁ……。

??

とりあえず起きたら何もさせないでください。彼女にとっては辛いことだと思いますが、まぁ背に腹にはかえられませんから。

??

それとこちら薬です。朝夕の二回服用させるようにお願いします。

??

……それにしても彼女。すごく面白いですね。

??

容姿がここまで吸血種と酷似しているにも関わらずその習性が全く見られない。

??

キャサリンさん、アリス・デビッドは吸血種ですか?

キャサリン

……彼女の母親が、吸血鬼でした。

??

ほう、つまりハーフ!

??

なるほど、容姿は母親の遺伝子が強かったが、中身は父親が……。

よく喋る男である。キャサリンは思った。

見た目は寡黙そうな人間であるのに、口を開くとペラペラと言葉が出てくる。

身元が信用できて腕が立つ医者を探したところ、彼が該当したので連れてきたが本当に大丈夫なのだろうか……。

キャサリンの胃痛は絶えない。

アリス

ん…………

キャサリン

お嬢様!!

アリス

キャサリン……?

??

おはようございます、アリス様。

??

今どんな状況だかわかりますか?

アリス

……たしか、ひどい頭痛が、あって……

??

ええ、倒れたところを、キャサリンさんが僕のところに連れてきたというわけです。

アリス

……というかあなた、だれ?

??

おっと、失念していました。

ヒューゴ

僕はヒューゴ。

ヒューゴ

神父です。……が、貴女の専属医のようなものに先程なりました。

ヒューゴ

よろしくお願いします、王。

アリス

そう。それじゃわたしは戻__

ヒューゴ

ところでアリス様。貴女は吸血鬼と人間のハーフだとお聞きしました。

ヒューゴ

けれど貴女は容姿の他に吸血鬼の特徴が見られない。習性はすべて人間のそれということなのでしょうか?

ヒューゴ

それとも吸血鬼の習性自体はあるものの、症状がほぼ無いほど薄い、ということなのでしょうか?

ヒューゴ

貴女にしか分からないことです。是非、教えてください。

アリス

…………??

一方的にまくしたてられて、アリスは何がなんだがわからなかった。そもそも病み上がりの人間(?)に質問攻めをするヒューゴが悪いのだが。

キャサリン

神父様!王はお疲れですから……!!

ヒューゴ

おっと、すみません。つい。

ヒューゴ

アリスさん、貴女は働きすぎです。アンドリュー様がご逝去されて以来、休んでおられなかったのでしょう?それも3ヶ月以上。

ヒューゴ

今は休んでください。最低でも三日は安静にするよう、お願いします。

アリス

……けど

ヒューゴ

はーい、でももだってもありません!!

アリス

!?

ヒューゴ

今の貴女はデビッド王国の『魔王』様じゃなくてただのアリス・デビッドですから!

ヒューゴ

ほら寝た寝た!

ヒューゴ

『専属医』の僕の言うことは聞いておいた方が身のためですよ〜!

アリス

はぁ……わかったわよ。

アリス

一人にして。周りに人がいると落ち着かないの。

ヒューゴ

えぇ、それではまた後ほど。キャサリンさん。

キャサリン

ええ

ヒューゴはあっけらかんとした様子だったが、キャサリンはアリス方をチラチラ見ている。気が気でないようだ。

ヒューゴ

__大丈夫です。アリスさんは僕が健康にしてみせますから。

……あれから、いったい何日経ったのだろう。

医者は『動くな、安静にしてろ』の一点張りで外の様子すら分からない。

それに、なによりあの娘のことが心配でならない。

迎えにいくと約束したのに。私が破ってしまった。信用を失っただろうか。いや、そんな人じゃないことは私が1番知っている。

サクラ

アリス様……。

ほんの数ヶ月前、はじめて名前を呼んだ。あのとき、私がどれだけ嬉しかったのか、あの人はきっと知らない。

はやく、逢いたい。

__デビッド王国・城下町(礼拝堂)

ヒューゴ

……は?貴方、何を言って……!

??

ヒューゴ。俺は本気だよ。

ヒューゴ

僕には貴方が何を考えているのか、全くわかりません……!

??

……わかった、また来るよ。そのときまでに答えを聞かせて欲しい。

アリス

……ここは?

真っ暗闇の中、アリスはひとり佇む。

自分が立っているところも暗くて見えず、どこが地面でどこがそうでないのかも分からない。

アリス

きっと夢ね。

夢なんて久々に見た。

アリス

少し歩いてみるか……。

ふと、前方に光が見えた。アリスは正直に光の方へと進む。

見えてきた。

アリス

これは……光じゃなくて風景ね。

慣れ親しんだデビッド王国の城下町だ。

デビッド王国を見ると様々な思考が逡巡してしまう。ここまで来ると病気なのではないか、とアリスは思う。

デビッド王国が活気に満ち溢れている様子を見ると、元気が出る。

わたしはこの人たちの生活を守るために戦うんだと。そう思える。

暫く光の中のデビッド王国を眺めていると、場面が切り替わっていくのがわかった。

アリス

__これは

そう、あの日だ。

わたしが世界を平和にすると決意した、あの日。

アリス

(どうして、今)

アリス

____!!

アリス

……ぁ、あ

喉が引き攣って声が出ない。光の中のメアリーと目が合った。

アリス

ッ、……っっ!!

アリスは目を逸らしてはいけないと、そう思い一部始終を見届けた。

アリス

(わたしは決してこの気持ちを忘れてはいけない。必ず、世界を平和にしてみせるわ。メアリーのような目に遭う人が一人でも少なくなるように。)

ヒューゴ

こんばんはーサクラさん

ヒューゴ

お体の方はどうですか?

サクラ

あ、ヒューゴさん

サクラ

もう元気です……って、言いたいけど本当は全身痛いです。

ヒューゴ

正直でよろしい。

サクラ

ヒューゴさん、もうあれから3ヶ月以上経ってます。これ以上やったって無駄なんじゃ__

ヒューゴ

いえ、それは違います。

ヒューゴ

貴女は完治します。僕がさせます。

ヒューゴ

貴女を必ず元気にしてアリスさんの元へ連れていくと約束したじゃありませんか。

サクラ

……はい、そうですね。

正直、納得できない。

今は1秒でも早くアリス様に会いたいっていうのに、私の体は全く言うことを聞いてくれやしない。

サクラ

……その、アリス様の方から会いにきてくださるようにする、とかできませんか?

ヒューゴ

……それがですね

ヒューゴはアリスが倒れたこと、過労であることを伝えた。

サクラ

そんな……

サクラ

いや、薄々そうなるだろうなとは思ってましたけど

ヒューゴ

えぇ、そういうことですから。

少し歩けば会える。だというのに歩くことすらままならないなんて。

歯がゆいとはこのことか。

サクラ

……アリス様が元気になったら、教えてください!

??

どうだ?進捗は

??

急かすンじゃねェ

??

テメェの方こそどうなンだ。クソ神父は引き入れられそうか?

??

ヒューゴったら、こんなときばかり常人ぶって俺の話を「何言ってるのかわからない」だってさ。

??

全く笑えてくるよ。

??

つまりまだってことだな?ったく、分かりやすく言えねェのかよ。

??

……俺あんたのそういうとこ好きじゃないわ。

??

そういや、ガエターノはどうした?

??

アイツならフィリップだ。

??

フィリップ?何の用で

??

『勇者』サマがご結婚さなさったンだとかなんとか……ガエターノは一応フィリップ王国の人間だからな、行っとかねェと怪しまれンじゃねェの?

??

ふーん。新しい『勇者』はどんなだろうな?

??

『勇者』なンぞに興味はねェ。オレらは『魔王』を根絶やしにする。だろ?

??

__あぁ、文字通り無意味な争いをここで終わらせるんだ。

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