『僕は僕を生きてゆく.』
大森元貴side____
冬は夏に比べて水蒸気の量が少ない
だから空気が乾燥して、空が澄んで見える
吐き出された白い息
それが消えていく空は確かに澄んでいた
その澄み切った冬空の下で
僕と貴方は肩を並べて歩いていた
吹奏楽部の部活終わりの貴方を
軽音部の僕が待つのは日課になっていた
そして一緒に帰るのが僕の一番の楽しみだ
吹奏楽部の三年生でフルートのパート長をやっている
貴方はみんなに好かれる人気者
昔から涙脆かった僕を明るく慰めてくれるのは
いつも貴方だった
僕の隣で貴方はいつでも笑っていた
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二人だけの帰り道
壊れかけた自転車
二人で並んだ日々は今日で終わりを迎える
貴方の卒業式の帰り道
いつものように二人で並んで帰って
別れ際、貴方はばいばい、と言った
いつもはまたね、と笑ってくれたのに
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大人になってから気づく
色褪せた青春時代の思い出の中に
まだ色のついたまま残る貴方との思い出
月日がどれだけ経ったとしても
まだ貴方の笑顔が残っている
辛い時、苦しい時
ふとした瞬間に思い出されるのは貴方の笑顔だった
ずっと貴方の笑顔に救われていた
今更だけど
あの時、僕は貴方のことが好きでした
凍えそうな冷たい冬には
暖かいその目が救いでした
貴方のことが好きでした
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壊れかけの自転車の捨て方も解った
貴方との思い出を捨て去るほうほうも
大人になってから解ったんだ
でも、僕が貴方のことを忘れられないのは
貴方のことがまだ好きだから
だから貴方のことを捨てて進むんじゃなくて
貴方のことを心に留めたまま前に進むんだと
その弱い自分こそが『僕』の人生の美しさ
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あの時言えなかった言葉はもう二度と紡がれない
恋がみのり、花が咲くことはなく
恋が届かなければ、泣けることもない
当たって砕ければ泣くことができるのに
あたることができなかった僕は
もう泣くことができないんだ
今更だけど
あの時、僕は貴方のことが好きでした
凍えそうな冷たい冬も
溶けそうな暑い夏も
桜が咲いたカラフルな春も
落ち葉を踏んだ寂しい秋も
暖かいその目が救いでした
貴方のことが好きでした
______
それでも綺麗すぎる夕日はまた昇る
これまで歩いてきた道のりを全部
受け入れることはできなくても
この夕日が昇っている限り
僕が『僕』であることに変わりなんてない
どんな困難や悲しいことがあっても
これからも確かに
僕は『僕』を生きてゆく。
fin
こんにちは
今回は『私』の歌詞パロです 《壊れかけの自転車》 の歌詞は色々考察があるんですけど わたしは《二人の関係》を表していると思ってます
《私》は大森さんですが 《貴方》の名前は出さないことに決めました 過去を振り返るときに名前を出したら 泣いちゃうような気がしたので 最後まで貴方で呼び続けました 《貴方》はもちろん藤澤さんです
♡と💬たくさんください
それではまた
コメント
6件
たまたまこのお話がおすすめに流れてきました。 題名に惹かれました。 とてもいいお話だなぁと思って、 誰が書いたのかなと思い、作者名をみたらみのりさんでした。 やっぱりみのりさんにはすごいパワーがあるのですね。

見るの遅くなっちゃった💦 私、この曲大好きで、はサビの部分が過去形だから、ほんと泣ける…すごい上手く曲と馴染んでててすごい!とこあえて「貴方」の名前を出さないところ、「貴方」との思い出とか、曲と重なって思わず涙😭
なんか聞いたことあるなって思ったら「私」の歌詞だったのか、!上手く作品に馴染んでいるなぁ… 悲しい思い出じゃなく、暖かい思い出として過ごしていく姿が、寂しさもあるけれど、前を向いて進んでる、 そして、その姿が煌めいている 凄く感動するなぁ…