──余命 2ヵ月
ある日告げられた言葉
──あぁ…俺はあいつを 幸せに出来ねえんだ……
そう思った
──いや、その2ヵ月を一緒に 過ごしてあげるのが 彼氏としての役目だろ
しかしこの思いのほうが 断然強い
──絶対に幸せにする
俺は君を幸せに出来てたのかな
今君は何をしているのかな
天に ニィッ っとした 君の笑顔を想い浮かべた
愛菜
翔太
目を覚めた愛菜は どこか、寂しそうだ
愛菜
昨日愛菜が倒れたと 仕事中に電話がかかってきて 君が難病を患っていると分かった
──早く言ってくれれば 良かったのに…
そう言いたかったけど、 今にも泣きそうな愛菜が 泣いてしまいそうだから
言葉を堪えた
愛菜
愛菜
愛菜
愛菜
愛菜
これ以上話せないのか 無言になった君
嘘だよって言って笑ってよ
君の悲しい顔なんて見たくない
翔太
翔太
翔太
俺が誓ったこの言葉を聞いて 君はなんて思っただろう
愛菜
翔太
愛菜
と言って下を向いて 長い髪で泣きそうな顔を隠して 俺の背中をポンッと押した君。
翔太
翔太
俺もこれ以上何も言えなかった
病室を出ると 君の泣き声が聞こえた
今にも抱き締めたいけど 俺も限界だ
手足に力が入らず その場に体が崩れる
涙が溢れてきた
力が入らない体で 必死に廊下を歩く
外は雨が降っている
病院のロビーのテレビを見ると 今夜は台風が来るようだ
泣きながら、雨に打たれながら 夜道を歩いた
君が死ぬまでの タイムリミットは残り2ヶ月
それまで君を幸せにしたい
君の笑顔を最後の最後まで…。
ガチャ
──おかえり(ニコッ)
そう言って笑う君はいない
電気をつけたままの君の部屋は 救急医が入ったであろう 形跡が残っていた
──勝手に見ないでよ?(ニコッ)
この笑顔は作り笑顔だったのか。
君の引き出しを君がいるなか イタズラ半分で 覗こうとした時があった
けどその時は開くことはなかった
スーッ
開いて見ると1つ1つ君の字で 日付が書かれた袋。 そこに入った大量の薬
君は俺に隠してここまで…。
そう思うとまた涙が溢れてきて
今日は一晩中泣いた
ご飯も食べず なかなか眠りにつけず
ただただ君を想った
A.M. 5:24
なかなか眠れず こんなに早く起きてしまった
──あ……そうだ、会いに行かなきゃ
愛菜もまだ寝てるだろう
起きて俺がいたら びっくりするだろうか
笑顔になってくれるだろうか
この残り2ヶ月を 笑顔で埋め尽くしたい
A.M. 5:41
君のスマホと君のお気に入りの本 を持って病院へ向かった
ガラガラ
病院の病室に入ると まだ眠っている君の姿が。
昨日は目に涙が溜まって 気がつかなかったが
愛菜の腕に点滴が繋がれている
痛々しくて 思わず愛菜の手を握った
愛菜
ピピッピピッ
心電図モニターには 君の心拍数などが映っている
──君は生きている
──今を生きている
君が2か月後いなくなるなんて 想像できない
そう思うとさっきよりも強く 君の手を握った
愛菜
まだ眠たそうな目を開いて 俺を見つめてポカーンッとしている君
愛菜
その笑顔が見たくて
すごく嬉しかった
愛菜
翔太
愛菜
愛菜
君のワガママを久しぶりに聞いた
もしかしたらいつも本当は 甘えたかったのかも
翔太
翔太
愛菜
愛菜
翔太
翔太
そういって本とスマホを渡した
愛菜
愛菜
なんだか今日は たくさん笑ってくれる
翔太
愛菜
病室を出るときチラッと君を見ると ニコッと笑顔で手を振ってくれた
元気そうで良かった
笑顔になってくれて嬉しかった
F.M. 4:22
今日は仕事を早く終わらせた
君のイヤホンを買って 足早に病院へ向かった
サッ
部屋に誰かいることに気付き 少し覗くと君の親友が来ていた
親友は涙声で 目に涙を浮かべている
愛菜は泣いていない
愛菜の親友
愛菜
“ 元気だよ ” というように笑っていた
ガラッ
愛菜の親友
親友は廊下に出ると 涙を流していた
きっと愛菜に涙を 見せたくなかったのだろう
愛菜の親友
親友はハンカチで顔を隠して 目も合わせなかった
翔太
親友は家族のように 昔から愛菜と 一緒に過ごしてきていて
俺よりも愛菜と長くいて 俺と同じくらい 愛菜の事を知ってる
愛菜の親友
そういって足早に行ってしまった
親友の後ろ姿は すごくすごく寂しくて辛かった
ガラッ
ドアを開け愛菜を見ると 外を眺めていた
遠くを見ているようで その横顔は 美しさと寂しさが混ざっていた
愛菜
愛菜
君も本当は辛いだろう
でも君も もう泣きたくないのだろう
俺と一緒だ
愛菜
愛菜
俺をからかうようにして ニヤッと笑う君
翔太
そういって急いで カバンからイヤホンを取り出す俺
愛菜
こう見えて君は 昔からイタズラ好き
そういうところは 君に変わりはなくて
元気そうでよかった
愛菜
そしてすぐに スマホをいじりだした
翔太
そういってスマホを 覗きこんだらそこには……
翔太
スマホに映っていたのは
愛菜
愛菜
翔太
翔太
そう。それは俺が昔 グループを組んで 音楽をしていたときの曲だった
翔太
愛菜
愛菜
愛菜
愛菜
君は…
何を言いたいの?
翔太
愛菜
翔太
愛菜
愛菜
愛菜
愛菜
愛菜
愛菜
愛菜の長い髪が揺れた
俺はこの場にいたくなくなった
翔太
わざと顔を隠すかのように 下を向いた俺
病室を出る前に 愛菜も俯いて ため息をついた気がした
台風の形跡が残る町中
台風が来たとは 思えないくらいに晴れた空は 少し夕陽掛かっている
水溜まりに写る夕陽
愛菜の笑顔が浮かんで 涙が出てきた
本当は昔は輝いてたなんて 簡単に言わないで欲しかった
音楽をやっていた頃 急に母さんの病状が悪化した
もう2週間も 生きられない状態だった
俺は母さんの看病をするため 音楽をやめた
もう一度音楽は やり直すつもりだった
けれど 母さんが助からなかった
ショックで 何もしたくなかった
大好きな音楽さえも。
もっと 近くにいてやれば良かった
そんな後悔ばかり。
“音楽なんて やらなければよかったんだ”
そんな後悔もう二度としたくない
愛菜のそばにいてやるんだ
プルルルルルル……
電話…?
翔太
友人
翔太
電話の相手は一緒に音楽を やっていた友人だった
友人
友人
友人
友人
翔太
友人
友人
友人
友人
友人
友人
友人
ブーッブーッブーッ…
1分19秒
俺が話す間もなく切られた電話
プルルルルル…
そのあとすぐにかかってきた電話 それは病院からだった
翔太
看護師
看護師
頭が真っ白になった
ブーッブーッブーッ
電話をなにも答えずに切り 急いで病院へ向かった
ガラッ
勢いよくドアを開けたけれど 愛菜は横たわったまま無反応
頭が真っ白だった
愛菜はさっきよりも多く チューブが繋がれていて 酸素マスクもしていた
愛菜
──君の残り時間は もう限られている
──だんだんその時が 近づいてる
そう思った
君はギリギリまで 待ってくれているのだろう
愛菜
微かな声と共に 少しだけ目を開いた君
翔太
翔太
翔太
愛菜
すると君は力のない手で 俺の手を握った
そして俺はカバンの中から ひとつの“箱”を取り出した
そしてひざまずいて 君を見つめた
箱から出したリングを 君の左手薬指にはめた
すると君は 幸せそうな顔をして涙を流した
愛菜
翔太
翔太
翔太
翔太
俺の手を握る君の手の力が 少しだけ強くなった気がした
君の頬をつたう涙
そして君は何回も頷いて
愛菜
愛菜
って。
ただでさえ弱ってるのに 泣いてるのを見てると つらそうだったから
翔太
翔太
って何回も謝りながら 背中をさすってあげた
愛菜
そして君の呼吸が落ち着いて 君が自分から酸素マスクを外した
愛菜
愛菜
愛菜
愛菜
愛菜
愛菜
君からのキスは今までと違って
弱いけどとっても愛がこもってた
そしてまた君は 酸素マスクを着けた
そしてここからは ペンを持って紙に言いたいことを 書き始めた
“私には時間がない”
“それまでに叶えたい夢が2つある”
力のない手で ゆっくり書き進めていく君を 静かに頷いて見つめる俺
“一つ目”
“一度でいいから真っ白な ウェディングドレスを着たい”
“式はあげなくてもいいから”
そう君は昔からその夢を 俺に語っていた
真っ白なドレスを着たいって。
そして申し訳なさそうな顔をして 二つ目の夢を書いた
“二つ目”
“翔太が本当に望んでることを して欲しい”
“さっきは勝手なことを 言ってごめんなさい”
“けれど、もう一度考えて”
“あなたに必要なことは もっと他にあるはず”
そう書いてニコッと笑い、 体をベッドにもたれかけた君
その姿は少し辛そうで 君は瞳を閉じた
翔太
君に聞こえていただろうか
でも君が少しだけ 口角を上げたような気がした
そして月日は流れ 愛菜の余命宣告の2ヵ月が 経とうとしていた
でもそろそろ2ヶ月だというのに 君はだんだんと回復していった
君は指輪をよく眺める
本当に美しくて寂しくて
君は強い
そして余命宣告から2ヶ月
病院から外出許可を得た
君は喜ぶというより頷いていた
どこに出掛けるか 君もわかっていたみたい
いつもよりも大人しく 車椅子に乗った
そして俺はこう言った
翔太
あの日指輪を渡して 愛菜が紙に書きながら 話したいことを伝えた日
俺らは婚姻届を書いた
いつか、君が元気になる日を 願いながら...。
婚姻届を出し終え 嬉しそうにする君を見て安心した
“一生、君を守るよ”
車椅子をひき、君の後ろ姿に誓った
車椅子じゃ顔は見えないけど いつか隣で歩く日を夢見て
愛菜
翔太
愛菜
気に合わなそうだし 隠す必要もないかなぁなんて
翔太
愛菜
翔太
愛菜
後ろを振り向いて 車椅子を引いてる俺を見つめた
君の耳に近づくと君は 少しだけ耳を赤らめる
そして、そっと君に 言葉を選びながら
翔太
愛菜
愛菜
翔太
翔太
翔太
翔太
目を大きくして見つめてくる君
愛菜
俺が微笑むと 君は目を輝かせる
愛菜の後ろに回り 車イスをゆっくり引く
秋色に染まった木々が 明るく彩ってくれる
君の後ろ姿はちょっぴり 緊張しているように見える
翔太
愛菜
翔太
翔太
愛菜
翔太
翔太
翔太
愛菜
愛菜
翔太
ドレスで十分って言ってたけど せっかくなんだから挙げようよ
二人だけの式
二人、部屋をわかれて 着替える
愛菜のウエディングドレス姿…
愛菜の夢が叶うんだ
ピヨピヨピヨ
窓の外では小鳥が鳴いている
そして対面の時
こんなに二人で合うのに 緊張したのは初デート以来だ
それだけ結婚式って 特別なんだよな
ガチャッ
部屋からは光が差し込んできて 一歩前へ出るとそこには
そう。真っ白なドレス姿で 立つお姫様。
横にはさっきまで使っていた 車イス
──愛菜の夢が、叶った
愛菜
愛菜
愛菜
翔太
言葉を探しても探しても 出てこない
翔太
翔太
愛菜
いたずら好きな愛菜だから 俺の髪を少しクシャッっとしてきた
翔太
愛菜
すると愛菜は背を向けて 光が差し込む窓へ近づいた
そして、愛菜が発した 一生忘れることのない 最後の言葉を聞いた
このときだけ神様から愛菜に 何かが注ぎ込まれていたのかな
君は振り向いてこんなふうに ニコッといつもの笑顔で言った
愛菜
このとき何が起こったのか わからなかった
愛菜からは力が抜けていき 花びらが舞い落ちるように 倒れこんだ
──愛菜、愛菜、愛菜!
何度叫んだって 愛菜からの言葉を聞くことは 二度となかった
余命2ヶ月
君は2ヶ月いや、出会った頃から ずっと俺を笑顔にしてくれた
そして君のニイッっとした笑顔 思い出は一生忘れません
最後に一つ夢を叶えた君
でもまだ一つ叶えていない夢
それを今、俺は叶えました
“メジャーデビュー”
君が昔から好きと言ってくれた グループ、メンバーで。
君に届けるよ
どうか、聴いてください
“君色の唄”
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