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第1話 - あ

2023年04月08日

#恋愛

結城真矢

カツ

おい君！！

カツ

いつまでマスクをつけているんだ！

カツ

今すぐ外しなさい！

セイ

え、課長？

セイ

何で急にそんなことを言うんですか？

カツ

何でって…もう流行り病はおさまっただろ？

カツ

世間がノーマスクと言っているんだぞ

セイ

君はいつまでマスクをつけているんだ

セイ

でもマスクの着用は個人の自由ですよね？

セイ

マスクを外せと言われる事情はないはずですが…

カツ

君は何も分かってないな！

カツ

女は口元が大事なんだよ！

カツ

口元を見せないでどうやって仕事する気なんだよ？

セイ

ちょっと待ってください！！

セイ

今までみんなが普通にマスクしていたじゃないですか！

セイ

いくらマスクの着用が個人の自由になったとはいえ、

セイ

その理由はあまりにも無理があるんじゃないですか？

カツ

上司の命令が聞こえないのか！

カツ

俺がマスクを外せと言ったら、外すのが鉄則だろ？

セイ

課長のおっしゃっている意味が全く分かりません

セイ

そもそも私は今、花粉症を患っています

セイ

この時期だからこそ、余計にマスクは手放せませんよ

カツ

舐めたこと言ってんじゃないぞ！

カツ

たかが花粉症でマスクをするなんて大袈裟な話だ

カツ

そんなことでマスクなんてして、恥ずかしいと思わないのか！？

セイ

体質だからしょうがないじゃないですか！

セイ

周りに迷惑が掛からないようにしてるのですから

カツ

いいか？花粉症ごときでマスク着用なんて言語道断だ

カツ

それよりも君は人前に出る営業職員という自覚がないのか！

カツ

これがどういうことか分かるだろ？

セイ

どういう意味でしょうか？

セイ

マスク着用とは関係ないと思いますが…

カツ

営業職というのは顔が命なんだ！

カツ

お客相手絵の商売は職員の顔一つで契約が取れるってこともあるんだ

セイ

そんなこと聞いたことがありませんよ

カツ

君は営業の本質を分かっていないからそんなことが言えるんだ

カツ

とにかく女の営業は顔が命！

カツ

美人が対応すれば成約率も上がるだろう

セイ

ちょっと…私はその考えには賛同できないです

カツ

何だと！？

セイ

普通に考えておかしいじゃないですか！

セイ

女性の営業職は顔が良くないと務まらないという考えですよね？

カツ

ああ、そうだ

カツ

文句あるのか？

セイ

それは女性に対して失礼じゃないですか？

セイ

私たちをそういう目でしか見てないのですか？

カツ

そんなことはどうだっていいだろ！

カツ

そもそも君ら女は男ほど営業が務まるわけじゃないんだ

カツ

だから俺が言うように容姿次第で補えるんだ

カツ

文句ばっかり言ってないで、自分を売り込んで成約に繋げるんだな

セイ

返す言葉がありません

セイ

私たちをそういった目で見ていたなんて…

カツ

別に差し障りはないだろ？

カツ

容姿を褒めてやっているんだから

カツ

君の顔がもしブサイクなら、俺はここまで気にかけて言わないんだぞ

セイ

いやいや…その考え自体が問題なんです

セイ

褒めてるつもりでも傷つく女性はいますから

カツ

あぁ、めんどくせえなあ

カツ

だから女は嫌いなんだよ

カツ

とにかくだ、明日からはマスクなしで出社してこい！

カツ

分かったな？

セイ

だから無理ですって！

セイ

ちょっと課長！私の話を聞いてくださいよ！

～１週間後～

セイ

課長！勤務後に取引先と会食ってどういうことですか！

セイ

私の仕事とは関係のないことですよね？

カツ

私の得意先にも君を可愛がってもらおうと思ってね

カツ

美人の部下を連れて行けば、取引先も喜んでくださるはずだ

セイ

勝手に決めないでくださいよ！

セイ

私は部長の秘書なんかじゃありません！

セイ

従業員を何だと思っているんですか！？

カツ

上司…いや会社の命令に背くつもりか！？

カツ

君が同席することで会社の株も上がるんだぞ

カツ

君も会社に貢献できるなんて誇らしく思えるんだぞ

セイ

だからって…仕事の範疇を超えてるじゃないですか！

セイ

私だって家庭を持っているの身なので、勤務後の接待なんてできませんよ

カツ

大して営業の実力のない人間に、最大限の計らいをしてやっているんだ

カツ

君みたいな顔が売りの人間にはちょうどいい仕事だろ

セイ

私は仕事でもっ少なくとも、確実に実績を積み重ねています

セイ

周りだって私のことを評価してくれる同僚はたくさんいますよ

セイ

もちろん顔なんかではなく実力で勝負していますしね

カツ

女の営業なんて評価はあってないようなもんだ

カツ

結局は女は全て顔で見られる

カツ

自分が美人だから成約がとれていることを俺は褒めてやる

セイ

そんなこと言われても全く嬉しくありません

カツ

素直じゃないなあ

カツ

しかし、いつまでも自分の希望ばかり通ると思ったら、大間違いだ

カツ

君はこれから俺と一緒に取引先と関わってもらう

セイ

え？

カツ

君は現在の職務から外し、取引先の担当につけてあげる

カツ

取引先が君を気に入ってくれば、会社にもプラスになるはずだ

カツ

よろしく頼んだぞ

セイ

ちょっと待ってください！！

セイ

今、担当している業務や顧客はどうなるんですか？

カツ

そんなの他に引き継げばいいだろ？

セイ

そんなの困りますって！

セイ

第一、私が了承なく勝手に業務を外させるのは規定違反ではないのですか？

カツ

いいか？これは上司命令なんだぞ

カツ

ずっと働きたいなら、もっと会社にとって有益な仕事をするべきだ

カツ

取引先の社長の接待こそが、会社に貢献できるんだぞ

セイ

そんな…勝手に決めないでください！

カツ

今日の会食は友泉閣という料亭で約束している

セイ

え？…友泉閣？

カツ

どうかしたのか？

セイ

いえ…なんでもないです

カツ

いいな！分かったか？

カツ

必ず来るんだぞ！

カツ

来なければクビだからな！

～その夜～

カツ

一体これは…どういうことなんだ！

カツ

聞いてないぞ！

セイ

ほんっとに最低な人ですね！

セイ

取引先の人とグルになってセクハラ行為に及ぶなんて信じられない！

セイ

二人ともどこに逃げたんですか！？

カツ

ちょっと待ってくれよ！

カツ

何で料亭に君のご主人とお父さんがいるんだよ！

カツ

どういうことか説明してくれ！

セイ

私の父がこの料亭の経営者だからです

カツ

へ？

セイ

まさか自分の実家で接待をするとは思わなかったです

カツ

そんなこと、一言も言っていなかったじゃないか！

セイ

場所は課長が決めたんですよね？

セイ

ま、私にとっては好都合だったのですけども

カツ

なんで君のご主人までいるんだよ？

セイ

主人は料亭の料理長を務めているんです

セイ

ほら、最初に挨拶をしに来てたじゃないですか

カツ

君のご主人だとは名乗ってなかったじゃないか！

セイ

当たり前じゃないですか！

セイ

素性がバレてしまったら私の計画がパアじゃないですか

カツ

計画だと！？

セイ

課長は取引先の接待と言って、私のことを騙すつもりだったんでしょ？

カツ

いや…そういうわけじゃないんだ

カツ

説明させてくれ！

セイ

この場に及んで言い訳する気ですか？

カツ

別にそういうつもりは最初からはなかったんだ

カツ

俺も取引先の社長も酒が入って、ついつい乱れてしまった

カツ

今回はちょっと調子に乗ってしまったことぐらい察せるだろ？

セイ

取引先の社長は女癖が悪いと有名でしたね

セイ

部下や社外の女性に性的な言動や誘いを持ちかける

セイ

そんな相手の言いなりの課長は、私を指名したんですよね？

カツ

だから、そんなつもりはなかったんだって！

セイ

明らかに確信犯でしょ？

セイ

普段から女性をぞんざいに扱うような部長が考えそうなことです

セイ

部下を売って、自分の好感に繋げることしか考えてなかったんですね

カツ

だって実際そうじゃないか！

カツ

顔がいい女なんて、男受けがいいに決まっている

カツ

俺はそれを利用しただけなんだ

セイ

従業員をキャバクラ嬢か何かと勘違いされてるんですか？

セイ

接待ならまだしも、私に枕営業を持ちかけていたじゃないですか！

カツ

えっと…それはだな

セイ

言い訳したってムダですよ

セイ

父と主人が一部始終を抑えているんですから！

セイ

オッサン二人で私を襲っているところを

カツ

やり方が汚いぞ！！

カツ

身内を使って俺を騙すなんて

セイ

以前から会社では課長からパワハラやセクハラを受けていた

セイ

そのことを昨日、家族に打ち明けたんです

セイ

くしくも課長から強要された接待の場が、ウチの実家だったんですもの

セイ

そのことを危惧した家族が今回の計画を提案してくれたんです

カツ

セクハラやパワハラなんて言いがかりだ！

カツ

君証拠もないのに、勝手にわめいてるだけだ

セイ

「女は顔が命」

セイ

それだけでも充分セクハラ、パワハラに該当しますよ

カツ

別に女性の容姿を褒めているだけだから問題ないだろ

セイ

社内でそういった発言するだけでもセクハラなんです

セイ

それに課長は容姿で業務の能力を区別しているじゃないですか

カツ

当然のことだろ！

カツ

女は顔で商売して契約をとることが会社のためにもなるんだぞ

セイ

その考え自体が間違っています

セイ

今どきは普通に考えて重大なハラスメント行為なのです

カツ

え…そうなの…

セイ

ですので部長の社内での言動、メッセージ内容などを集めた結果、

セイ

ハラスメントを認定する証拠がそろっているので、訴えさせていただきます

カツ

ちょっと待ってくれ！

カツ

俺はハラスメントとかいう認識がなかったんだ

カツ

頼むから、今後は考えを改めるから見逃してくれ！

セイ

セクハラになろうがなかろうが今回のことは見逃せません

セイ

実際に傷害行為を働いているし、第三者も見ているんですから

セイ

あなたと取引先の社長から受けたこと、警察に通報しますね

カツ

そんなことをしたら大事な取引先を失うんだぞ！

カツ

そしたら会社にと痛手だし、君の評判も下がることになりかねないぞ！

セイ

大丈夫ですよ

セイ

社内では課長の取引先の社長への献金問題もあるようですし、

セイ

会社としてもお荷物と縁が切れたので良かった

セイ

と、社長からの伝言をお預かりしました

カツ

デタラメを言ってんじゃねえぞ！

カツ

俺は会社の金を取引先に渡してはいないし、

カツ

会社のために利益を上げる努力はしているんだぞ

セイ

私は『会社のお金』とは一言も言っていませんよ？

カツ

あっ！…

セイ

ともかくあなたは会社から追放のようです

セイ

自分の偏った考えが原因だと、しっかり反省してくださいね

カツ

おい！セイ君待ちなさい！

カツ

君のことを大事にするから考え直してくれ～！

セイ

キモいんだよ！オッサン！

セイ

あ、すみません失礼しました

セイ

では、さようなら

カツ

セイ君、助けてくれ～

～後日談～

セイ

翌日、課長と取引先の社長は100万円を持って、謝罪に来ましたが、

セイ

一部始終を見ていた父と主人が二人を一蹴、

セイ

お金の受け取りも拒否し、追い返しました。

セイ

私への傷害行為、取引先への献金行為

セイ

更にはハラスメント行為も認定され、課長は解雇されてしまいました。

セイ

私は課長と取引先の社長からの性的暴行の被害届の提出、

セイ

二人には懲役刑が下ったようです。

セイ

会社側もお荷物課長とと悪徳取引先と縁が切れて、

セイ

ホッとしているようです。

セイ

ほんとに性別で差別する人間は許せませんよね。

セイ

古い考えを持った人間とは一生関わりたくないものです。

セイ

私は課長の役につき、業績アップを目指して、

セイ

心機一転頑張っていこうと思います。

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結城真矢

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