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7 - あの夏の日の記憶

2022年09月06日

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「人、殺しちゃった…」

君は突然言い放った

あれは僕が中学3年の梅雨の時期で

ずぶ濡れのまま、君は家の前で泣いていた。

夏が始まったばかりで、蒸し暑いはずなのに

君は酷く震えていた。

瑠夏

…ごめん、急に

夏月

大丈夫。それより、何があったの?

瑠夏

…未希を、階段から突き飛ばしたの

夏月

!!

未希、というのは4月から瑠夏を虐めている女だ

僕が何を言っても、彼女は瑠夏への嫌がらせをやめなかった。

放課後、未希に呼ばれて階段に行った。

今考えれば、きっと未希はここで私を怪我させるつもりだったんだと思う。

未希

あんたさぁ、マジで調子乗るのいい加減にした方がいいよ笑笑

瑠夏

調子になんて、のってない…

未希

はぁ?笑

未希

じゃあなんで、あんたなんかが夏月くんと付き合ってんのよ笑笑

瑠夏

それは…

未希

あんたが言い寄ったの?笑

未希

あ、それとも夏月くんの女趣味が悪いだけ〜?笑笑

未希

本当に笑え…

バンッ!

もう、耐えられなかった

夏月を悪くいうのだけは許せなかった。

階段から未希が転げ落ち、広がる赤い液体を、黙って見つめていた。

でも、急に何かが込み上げてきて

夏月の家まで走った。

瑠夏

本当に…っごめんなさい…

瑠夏は今にも泣き出しそうだった。

瑠夏

夏月、私…

瑠夏

ここから遠いどこかで、死んでくるよ

夏月

っ…は?

瑠夏

きっと、私が殺したってすぐにみんな気づく

瑠夏

そうしたら、私はもうここにはいられないと思うし。

さっきまで泣き出しそうだったのに

そう話す瑠夏は、酷く落ち着いて見えた。

瑠夏

だから、別れ…

夏月

それじゃあ、僕も連れて行って。

瑠夏

え…?

夏月

瑠夏が1人で死ぬなら、僕も一緒に死ぬよ。

夏月

2人で、ここから逃げよう。

それから僕らは、財布や護身用ナイフ、携帯やゲーム、食料などをカバンに詰め込んだ。

大事にしていた日記や写真も、もう要らない。

そして、翌日

僕ら2人は逃げ出した。

家族もクラスのやつらも…何もかも全部捨てて。

ここから遠い、誰もいないような場所で、2人で死のう。

もうこの世界に価値なんてないんだから。

夏月

瑠夏は何も悪くないよ。

2人での旅の途中、僕はそう呟いた。

たくさんの人が行き交う夜の街中

ドンっ

通行人

いたっ

夏月

あ、す、すみません…っ

ぶつかった通行人に頭を下げ、その場を去った

夏月

はい、とってきたよ

瑠夏

お、ありがと

僕は付けていたマスクをとり、

さっきぶつかった通行人から盗んだ財布を瑠夏に渡す。

僕らが逃げ出して、1ヶ月が経とうとしていた。

その為、僕らの持ち金はゼロになり

金を盗んで逃げるという日々を繰り返していた。

時にはコンビニなどからものを盗む時もあった。

でも今更、怖いものなんて僕らにはなかった。

瑠夏

ふぅー…にしても暑いね

夏月

…そうだね

瑠夏

夏月も気づかないうちにメガネとか落としちゃったし笑

夏月

あれはもうどうでもいいよ

夏月

それより、次どこ行こうか?

瑠夏

それなんだけど…

瑠夏

警察が私達のこと探してるみたいで…私達のこといろいろバレてるみたい。

夏月

…じゃあそろそろ

最期だね

お互いに見つめあった僕らはそう呟いた。

その時だった。

警察

あの、君たち…中学生だよね?

警察

こんな時間に何してるのかな…?

そう言いながら警察が近づいてきた。

夏月

瑠夏、逃げるよ

そう言って僕らは走り出した。

警察

あっ、待ちなさい!

瑠夏

本格的に、鬼ごっこ開始だね笑

夏月

…あぁ

でも、勝つのは僕達だ。

だって

僕らは鬼達の前で

死ぬと決めているから。

人気の無い道をただ走った。

瑠夏

あははっ笑

瑠夏

久々の鬼ごっこも楽しいね!夏月っ!

夏月

ははっ笑
こけるなよー

水もなく少し揺れる視界や

迫り来る鬼達の怒号に

僕らは呑気にはしゃいでいた。

そして、誰もいない廃墟へ入った。

瑠夏

ふぅ…

瑠夏

人もいないし、ここにしよっか。

夏月

…わかった

そう言って瑠夏はリュックからナイフを取りだした。

警察

君たち…!

警察

逃げるということは…君らが…

息を切らしながら、僕らを見つめる2人の″鬼″

瑠夏

そうだよ、お巡りさん

瑠夏

私が同級生を殺して、お金やものを盗んだの

警察

…話は署で聞くから、危ない物はしまおう、ね?

そう言って、警察はゆっくりと僕らに近づく。

それを合図に僕はポケットからナイフを取り出そうとした。

その時だった。

瑠夏

夏月っ!!

夏月

!?

瑠夏が突如叫び、僕が振り向く前に彼女の片腕が僕の首に回された。

瑠夏

ごめんね、夏月

夏月

る、瑠夏…っ

瑠夏の持っていたナイフが僕の首元に当てられる。

警察

っ…!!

警察

ナイフを置きなさい…!

瑠夏

いやよ、近づかないで

瑠夏

近づいたら彼を殺すわよ

警察

っ…

夏月

瑠夏…っどうして…

瑠夏

ごめんね、夏月

瑠夏

夏月が今までそばに居てくれたから、ここまで来れたんだよ。

瑠夏

…だからもういいよ。

瑠夏

もう、いいよ…

瑠夏

死ぬのは、私一人でいいよ。

夏月

ま、待って…

その言葉を最後に瑠夏は僕を突き飛ばした。

夏月

いたっ…
待っ…瑠夏…!!

警察

まちなさ…

瑠夏

夏月、またね

そして瑠夏は

首を切った。

夏月

る、か…

警察

…っ!!

瑠夏の首から飛び散る赤い液体。

それと同時に倒れる瑠夏の体。

まるでなにかの映画を見ているようだった。

白昼夢を見ている気がした。

僕の頭の中は真っ白で

気づけば僕は捕まっていた。

僕は人を殺すことも無く、金や物を少し盗んだだけだったからか

1ヶ月の謹慎で済まされた。

あの日のことは忘れられなかった。

家族もクラスのやつらもいるのに、なぜか瑠夏だけはどこにもいない。

何日経っても、あの夏の日を思い出す。

なのに僕は現実を受け入れられず、今でも瑠夏を探しているんだ。

そして、瑠夏。君に言いたいことがあるんだよ。

もうすぐ9月も終わるよ。

でも僕の中ではずっとあの6月の日の匂いを繰り返してる。

そして、瑠夏の笑顔が…瑠夏の無邪気さが…

いつまでも僕の頭の中を飽和しているんだ。

あの日僕はどうすれば君と一緒に死ねたんだろうか。

君だけを殺させずに済んだんだろうか。

いや、違うな。

きっと…僕が一緒に逃げると言ったときから、この未来は決まっていたんだ。

瑠夏、君はきっと

夏月

誰も何も悪くないよ

夏月

瑠夏は何も悪くは無いから

夏月

何もかも投げ出してしまおうよ

そう言って欲しかったのだろう?

夏月

なぁ…答えてよ。

夏月

瑠夏。

静かな公園で1人、涙を流していた。

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