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保健室の鍵を手の中で弄ぶ。 鍵とタグを繋ぐ輪に指を通してくるくると回して遊んで、保健室へ。 今日は保健室の女医先生がいない。 理由はたしか、勉強会とか? 先生の事情とか、そんなこといちいち生徒に教えたりはしないと思うけど。 いないなら保健室の鍵をかけるのは保健委員長の私の仕事だ。 終わったら鍵を返して帰る。 お腹減ったし、夕ご飯まではまだ時間があるから途中でコンビニに寄って、肉まん買って帰ろうかなぁ。 私は保健室の少し立て付けの悪いドアを開けた。
付属のすりガラスも固定されてなくて、そこそこの年季の入ったドアはガタガタとうるさい。 気になるって程じゃないけどもうちょっとすっと開いてもいいと思う。 まぁ、それはそれで私が手を挟むからこのままの方がいいのかも。
めぐみ
戸締りをしようと思って中に入って、ベッドを見る。 なんと人が寝ているじゃないですか。 しかも男子学生。 それも学年どころか学校中で噂だっていう空条承太郎…くん。 勝手な印象で悪いんだけど、少し苦手だった。 近寄りがたい雰囲気と言うか、まぁ、普通に不良生徒だし…。 喧嘩もよくするし、警察のお世話になることもあるとかないとか。 普通に考えて、私とは住む世界の違う人だ。
えー、マジかぁ。 保健室常習なの? もしくは本当に具合が悪いとか? うーん…。 とりあえず私はベッドに近づく。 声をかけなきゃ起きてもくれないだろう。 気配とかで起きてくれても良いけど、そんな少年漫画みたいな都合の良い展開はないか…。 顔は帽子の陰で隠れてて、起きてるのか寝てるのかわからなかった。
めぐみ
掛ける声が小さかったかな。 返事はない。 聞こえなかったか、聞こえない振りをしているのか。 うーん、どうしようかな。 人見知りが出るから、あんまり知らない人に話し掛けるのは得意じゃないんだけど。 私は少しだけ息を深く吸って、はぁ、と吐いた。 ちょっと声を大きくするしかない。
めぐみ
返事がない。 ただの屍のよ…
寝てるのかな。 迷ったけど、起きてくれないのは困るから失礼して揺すり起こすことにする。 私は空条くんの肩をそっと揺すった。
めぐみ
めぐみ
するとようやく空条くんから小さく声が漏れて、腹の上で組まれていた手がのそりと動いた。 そして離れようとした私の手を掴んだ。
どきーん。 不安とびっくりで心臓に悪い。 空条くんはもう片方の手で帽子をずり上げる。 奥の眼と、視線が合った。 眠そうだな。
めぐみ
何も言ってこないからもう一度。 すると空条くんはじょうずに舌打ちしてくださりやがって、私の手を解放した。
承太郎
感じ悪ぅいぃ。 ちぇ。 まぁいいや、と私はとりあえず窓の戸締りを確認する為に、ベッドを離れた。 窓の鍵は全部閉まってるし、電気は最初からついてないし、水道も栓が閉まってるし、他にも特にない。 包帯や湿布のしまってある棚の鍵をかけて、ベッドを振り向く。 空条くんは体を起こしてなかった。
めぐみ
めぐみ
もう一度ベッドに近づいて、そう問いかける。 空条くんと目が合ったけど、彼は相変わらず何も言わない。 何も答えないんじゃ埒が明かない。 仕方がないから私は手を空条くんの額に当てた。 私の手、冷たいからあんまりあてにならないんだけどな。 でも体温計の場所は知らない。 保健委員長だけど、保健室にはほとんどお世話になることがないから物の細かい場所とかはよく分からない。 もしかして探せばすぐそこにあったのかもしれないけど、見られて探すなんて人見知りの私にはちょっとハードルが高くて。
空条くんは驚いた表情をして、私は手を離して自分の額に当てなおした。 うーん…、空条くんのが結構熱いかな。 私は手を下ろした。
めぐみ
承太郎
ちょっと面倒だけど、病人放っておくわけに行かないし、鍵もかけなくちゃいけない。 空条くんの熱は私の手が確かなら結構つらい温度だと思うし、一人で帰って途中で倒れたりしたらさすがに罪悪感。 そして私も早いところ帰りたい。 空条くんは、相変わらず黙ったまま。 短気な私の緊張が苛立ちに変わった。
めぐみ
めぐみ
めぐみ
めぐみ
緊張は長くは持たないって何かで聞いた。 従って私の緊張感も長くは持たない。 元より私は短気な方で、さっき感じ悪かったのも手伝って少し語気が強くなった。 空条くんをしっしっと手でベッドから追い払って、私はベッドの布団を軽く整頓する。 それから空条くんの準備を待って保健室の鍵をかけた。
めぐみ
空条くんの返事は待たずに目だけ合わせて、私は廊下をぱたぱたと走った。 具合の悪い人をあまり待たせるものじゃない。 職員室は保健室の真上だから階段を駆け上がって、私はさっさと鍵を返した。 それから階段を駆け下りて保健室まで戻ってくる。
空条くんは普通に待ってた。 案外律儀。 それとも一人で動く元気もないのかもしれないと思うと、少し心配になった。
めぐみ
歩けるか聞くのも変だし、促す。
玄関で靴を履き替えて、空条くんの先導に従って歩いた。
別に会話はない。 する必要もないし。 具合が悪いなら話すのも億劫だろう。 そもそも私人見知りだし。 かばん、重くないだろうか? そう思ったけど私物を知らない人に触らせるのも嫌だろうから、気にかけるに留めた。
しばらく歩いて、そしたら神社の階段に差し掛かる。 空条くんはそれを一段。 え、ここ上るの? OMG…。
めぐみ
承太郎
初めて答えが返った! いや、だから何というわけでもないけど。 なんかやっぱりだるそうな声だったなとか。 私はよし、と意を決すると後ろから空条くんの背中を押した。
承太郎
空条くんの体が驚いたように軽く跳ねたが、私はそのまま背中を支えて階段を上る。 少しは楽かもしれない。 お母さんは楽だって言ってた。 余計疲れたらなんかごめん…。 っていうか私の方が先に疲れるっていう。 重い…。 でも途中でやめるのもなんだし、私は結局そのまま階段を上りきった。 切れた息を吐き出す。
めぐみ
めぐみ
やった! 上りきった! くじけなかった私マジえらい!とてもえらい! これで余計疲れたとか言われたら悲しいから考えるの止めよう。
めぐみ
承太郎
ならよし。
めぐみ
私はまだ少し呼吸が荒かったけど空条くんを促して先を行くことにした。 時間が経てば経つほど具合は悪化するし。 私の疲れなんてただの一時的な運動だ。 運動は苦手だけど。
またしばらく歩いたら、今度は大きなお屋敷に到着。 空条くんが立ち止まったので表札を確認したら、「空條」。 あ、くうじょうってそう書くんだ。 なるほどぉと思いながら門から50mくらい?ありそうな玄関を見た。 広すぎでは? 私は隣に立ったままの空条くんを見上げる。
めぐみ
承太郎
まただんまりされてしまった。 ちょっとした冗談なのに…。 視線だけ寄越されて、私は少し笑った。 ここまで来ればもう大丈夫だろう。 家の人がいるだろうし。
めぐみ
めぐみ
そう言って私は来た道を戻る。 もうコンビニに寄る時間はないなぁと空の色を見上げて、私はお腹を撫でた。 お腹空いた。
めぐみ
承太郎