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2件
く、ッ !気になる ッ !
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3プッシュ
ガチャ
のあ
のあ
リビングから真っ先にのあさんが駆け寄ってきた
その顔を見て、俺は慌てて「あはは、ごめんごめん」といつものトーンで返す
ゆあんくん
ゆあんくん
自分では完璧に「いつもの俺」を演じているつもりだった
でも、のあさんは俺とうりの顔を交互に見た後、一瞬だけ俺とうりがさっきまでつないでいた手を見つめる
のあ
のあ
ゆあんくん
のあ
のあ
のあ
のあさんはそれ以上なにも言わずに、けれど安心したかのようにほほ笑んだ
その瞳には、何かを見透かしたような光が宿っている
じゃぱぱ
じゃぱぱ
リビングの奥からスマホをいじりながらじゃぱぱが声をかけてくる
けど、俺はそんな場合じゃなかった
ゆあんくん
俺は、隣でまだ少し震えるうりを見つめて、その背中にそっと手を添えた
「行こうぜ」って笑う余裕なんて、今の俺にはない
ゆあんくん
ゆあんくん
うり
うり
うりは少し驚いた顔をしたけど、前みたいに俺の手を振り払うことはしなかった
一昨日までのあの氷みたいに冷たくて、すごく気まずかったのが噓みたいに、今のこいつはどこか素直で
それが余計に、俺の胸を狂おしいほどに締め付ける
リビングから聞こえる楽しげな笑い声を背に、俺たちは二階へと上がった
階段を下りる俺の背後で、うりが少し遅れてついてくる気配がする
足音はいつもよりずっと慎重で、今どれだけあいつが困惑しているかがわかった
自分の部屋に入り、扉を閉めた瞬間
あのリビングに響いていた声がパタリと聞こえなくなった
今は外で降っている雨音と、その雨に濡れた俺たちの呼吸音しか聞こえない
うり
うり
うりは少し落ち着かない様子で、部屋の入口に立ったまま、俺を見る
前までは俺を揺さぶって遊んでいるような、楽しんでいるような余裕があったあいつも
今ではどこか俺の出方を探っているようにこちらをじっと見つめている
俺は一歩、あいつとの距離を詰めた
あいつが引いた境界線なんて、俺の中ではもう無かったことになっている
ゆあんくん
うり
うり
逃げ場をふさぐように、俺はまっすぐうりの目を見据える
前のヘタレで、それでいて自分のことを気持ちを伝えられない俺は、もうどこにもいない
一人のファンとしてじゃなく、一人の人間として
こいつの人生に、正面から振り込むと決めたんだ
ゆあんくん
うり
うりは弾かれたように、肩を震わした
そのまま口をパクパクと動かすけど、言葉は一つも出てこない
一瞬何を言っているかわからなかったんだろう
あいつの瞳は、右往左往に揺れている
だけど、俺はそんなのは気にせずにつづけた
ゆあんくん
ゆあんくん
ゆあんくん
一秒が、一言一言が。永遠みたいに長く感じる
まさか、俺がこんなことをいうなんて、思ってもみなかったのだろう
あんなに真っ赤な顔をして、金縛りにあったみたいに固まって立ち尽くすあいつをみえるのは、初めてだった
あいつが今まで平然としていた仮面が、音を立てて崩れていくのがわかる
部屋の温度が、急に上がったような錯覚にもなった
俺はあえて、あいつが何かを言いかける前に、静かに言葉を重ねる
ゆあんくん
返事は聞かずに、俺は呆然と立ち尽くすうりの横を通り抜け、ドアノブに手をかけた
ゆあんくん
ゆあんくん
振り返らずにそういうと、小さく「…っ」と息をのむ声が聞こえた
俺は自分の手がわずかに震えているのを隠すように、強くドアノブを握って、リビングへと続く廊下を歩きだした
…あのままあの部屋にいたら、自分の方が緊張で押しつぶされそうだったからなんてことは、あいつには絶対に言えないから
リビングのドアを開けると、一気に料理のいい匂いとメンバーの笑い声が俺たちを包み込んだ
るな
たっつん
シヴァ
シヴァ
テーブルを囲むみんなの視線が、俺たちの方に向けられる
さっきまで二人きりだったから、その明るさが眩しくて一瞬くらっとした
ゆあんくん
ゆあんくん
俺はあえて大げさに笑いながら、自分の席に座る
どぬく
えと
えと
ゆあんくん
メンバーがそれぞれ話しかけてくれるから、俺はそれに答える
…自分の声が上ずってないか、確認しながら
うり
うりは何も言わずに、俺から一番離れている席にすとんと座った
もふ
もふ
うり
うり
なおきり
なおきり
うり
ヒロ
うり
うりは俺と同じように普通を振舞っている
…だけど、視線は定まってないし、声も少し上ずっているように思えた
その様子を見ていたじゃぱぱがニヤニヤしながら俺たちの方を見る
じゃぱぱ
じゃぱぱ
ゆあんくん
ゆあんくん
俺は慌てて箸を動かす
口に運んだ料理の味も、正直全然わからない
ただ、視界の端で映るうりが、一度も俺の方を見ないことに少し胸が痛んだ
のあさんだけは、そんなおれたちの様子を黙って見守りながらも、ふっと小さく微笑んだ気がした
ゆあんくん
箸を持つ手が、少しだけ震える
うりに宣言してしまった以上、後戻りはできない
次の俺の誕生日まで、あと数日
にぎやかな笑い声が飛び交うリビングの中で、俺とうりの間には
誰にも見えない「新しい境界線」が引かれていた