すたすたとキッチンの方へ向かいエプロンを手慣れた手つきで着る咲希。 咲希はもう既に食べていたのか食べ終わった後の皿が置いてあった。 勿論手料理も嬉しいのだが、「るいさんもお兄ちゃんもお野菜食べようね♪」と、ピーマンやらが出ない事を祈る。

自分が喜ぶもの。 己を喜ばせようとする類に期待してしまうオレが憎い。 二人共…か。

台所から声を上げる妹。 その声にハッと我に帰れば「あぁ、ありがとう。」と言いながらテーブルに置かれた料理を見る。 … 絶句絶句絶句。 苦手なピーマンが二つ程入ってるじゃないか。チラりと類の皿を見てみる。 …案の定、同じ料理なんだから野菜が入っている。流石に目の前で固まられては笑いが込み上げてる。

ナイスだ我が妹よ… これを前にして食べない方が珍しいだろう。 これには類も…

言われた通りに前のめりになりながらも類に目を瞑って顔を向ける。そっと片方の目を開けるとすぐ近くに類がいる。 真剣な顔で前髪に手を伸ばす姿につい硬直する。 が… その手は前髪ではなくオレの両頬を摘んだ。 微妙に開いた口に固形物が入れられた。 何がなんだか分からない状態でそれを噛む。 げ……この味は……

相変わらず褒め上手、って言うのかな。 … 何でそう思うの？ … 聞きたかったけど、口に出そうとしたら喉に詰まって言えなかった。なんで勇気が出ないんだろう。答えが怖かったから？ 私が日和ってるだけ。 …出さなきゃ。 今日こそ、勇気を。

何となく、か。 知ってた。 予想通りの返答で肩を落とす。 期待した私が…馬鹿みたい、じゃん。

本当にずるい。 えむが無理矢理口に入れてきた特製からあげをそっと噛む。 …あれ、案外美味しい？ 気になって前を見ると満面の笑みのえむが居た。